異世界
銀色の紙をした美少女リラサ。
彼女が口にしたのは異世界の仕組みとは?
「じゃあ私がアンタに全ての仕組みを教えてあげる」
ソファーに二人で腰掛けた。
いい匂いがする。
「ちょっと、近いんですけど。もっと離れてくれる?」
はい。
そうですよねすいませんでした。
「じゃあまずアンタが置かれている状況について改めて説明してあげる」
ありがとうございます。
先ほどは、錯乱し申し訳ございませんでした。
よろしくお願いします。
情けない大人ですいません。
「アンタは自分を助けてもらうために、助けを求めた。そしてあの声と契約を交わし助けてもらうことになった。ここまではいいわね?」
間違いない。
俺はあの時確かに助けを求めて、約束をした。
あれが契約という扱いだったのはその後知ったことだが。
「そのとおりです。ところであの声の主は何者ですか?」
ずっと気になっていた。
神さまとは思えない、というか神さまがあんな感じだったら嫌だわ。
「それはアンタには関係ない。教えることはできない。知りたければ自分の力で真実を手に入れなさい」
やっぱりそうですよね。
だいたいこういうのは教えてくれないんだよな展開的に。
でも、「真実を手に入れなさい」って物言いは、なんか引っかかるな。
まぁ、今そこで考えこんでもしょうがない。
「わかました。秘密ってことですね。話を続けてください」
とにかく知りたいことが多すぎる。
少しでも自分の状況を理解しておかねば。
「言葉遣いが気持ち悪いんだけど。アンタそういうキャラじゃないでしょ? 別に普通でいいわよ普通で」
だって怖いんだもん……。
また、胸ぐら掴まれて首がしまったら、もう立ち直れないかもしれない。
美少女に胸ぐら掴まれるなんて一度で結構です。
「わかった。じゃあ続きよろしく」
切り替わりが早いのが自慢です。
「じゃあ続けるわよ。アンタはその時、力を借りたの。分かる? 借りたのよ」
正直ああいうパターンは、無償で助けてくれるのが普通ですよね。
でもやっぱり違うんだなぁ今回は。
「はい借りました借りました」
リラサは呆れた顔をしている。
呆れ顔も可愛いね。
おっと危ない危ない、本性はさっき知っただろ。
「アンタ本当にわかってる? アンタはあのままなら次の朝死んでいた。それを助けてもらうのよ?」
やっぱり殺されるのか。
分かってはいたけど現実は辛いね。
「死の運命をねじ曲げて生の運命に変える。 それほどの力の借り、どれだけのことか」
たしかにそう聞くと凄いことだなって思う。
運命を変える力か……そんなの本当にあったんだな。
あ、だから俺が今ここにいるんだよな。
「ああ、今になって分かる。生きるってことは本当に嬉しいことだ」
実際、生きながら死んでいた俺が、死にそうになって生きることを見つめ直せるってのは、つくづく人生って不思議ですね。
「そう、ならさっき言った借りの大きさ、あなたにわかりやすく言った1億7000万5892円の意味が分かるよね?」
運命を変える力が円で表現できるのは、ちょっと意味不明だが。
「ああ、わかってきた。たしかにそうだ。高くない気がする」
俺は深く頷いた。
「そうね。高くないわね。でもあなたは本当の意味で救われたことにはならな」
「ああ、俺が元いた世界に戻り生きることこそ救われたと言える。」
俺は元の世界で人生を再スタートするんだ。
殺されるほどのクズになって分かったことだ。
「ちゃんとわかってるようね。大丈夫そうね。そのためには、借りを完済しないといけないわ」
この現実が俺の胸に突き刺さる。
果てしないロードが見えるぞ俺。
「リラサ、教えて欲しい。どうやって返済をしていけばいい」
このルールに従わなければいけない。
それを受け入れるための心の準備はもうできていた。
もう逃げない、言い訳しない、今までの俺はもう死んだんだ。
「やる気になってきたようね。 じゃあ、ここからが本題。異世界の仕組みについてね」
異世界の仕組みか、そもそも俺のいた世界と異なる世界があるということすら知らなかった。
実際に俺は異世界に飛ばされたという現実はある。
でも、そんなことがあるなんて未だに信じられない。
「さっき異世界のランクがどうのとか言ってたよね?」
報酬の相場もそれで決まるとかなんとか。
改めて考えると意味がちょっと分からない。
「そうよ。ランクがあるの異世界にはね」
リラサが紙になにやら図を描き始めた。
ありがたい、図で説明してくれると助かる。
「これを見て。あなたがさっきいった世界はここ」
図には大きなピラミッドが描いてあり
S A B C D E F
と上から順番に記号が描いてある。
リラサが指しているのはFだった。
嫌な予感がする。
「アンタが救ったのは異世界のランクで言うとF、つまり底辺よ」
……。
まさかそんなことがあるとは。
俺が呼ばれて救った世界がFランクだと……。
「しかもFランクの中でも本当に下のほう。底の底の底よ」
じゃあG作れよって思ったけど言うのはやめた。
俺は理解した。
「じゃあ世界を救った報酬が3000円にしかならなかったのは」
リラサが笑った。
この小悪魔女が。
「そう、そういうこと。アンタは底辺の世界を救っただけなの。だからその程度にしかならなかったわけ」
そりゃあそうだよね。
この図を見てると納得がいく。
俺は底辺の世界を救ったぐらいで、あの借りに値する報酬を得ていたと勘違いしていたわけだ。
とんだあまちゃん野郎ってことだな。
なんだかいまさら恥ずかしくなってきた。
「ショックなんだが……もの凄く」
人間、本当にショックの時は「ショックだ」って言っちゃうもんだよね。
「そうね。正直さっきのアンタは滑稽だったわ。でもしょうがないわ知らなかったんだもの」
ありがとうございますリラサ様。
あなたみたいな美少女に慰められた日は、夜布団で思い出して涙してしまうほど嬉しいです。
「でも、こういうことでもあるわ。ランクが上のほうの依頼をこなすほど得られる報酬の価値は上がっていくわ」
たしかにこの図を見るとそういうことになる。
Sランクの異世界の報酬なんてどんだけの価値があるんだろう。
ちょっとだけ希望が見えてきた。
「でもそれだけきついし、難易度も高いってことだろ?」
じゃなければランクを分ける意味がない。
「その通りよ。あなたの今の力じゃ上位ランクはとてもじゃないけど無理ね。すぐ死んで終わり」
はい。
死にたくはないです。
じゃあいきなり一発で完済ってことは絶対無理だな。
「あと、異世界を救うことだけが報酬を得るための手段じゃないわ。私はだから「依頼」という単語を使ったの」
たしかにそこはひっかかっていた。
てっきり勇者だから救うことだけが手段だと思っていたのに。
依頼という言い方からは他のことがあるように思える。
「世界を救う以外にも、勇者にしてほしいことは色々あるでしょ?誰かを助けるとか、何かを取り戻すとか、導いてほしいとか」
たしかに人が何かに頼る理由はたくさんある。
魔王がいない世界も当然あるかもしれないな。
俺の世界には魔王なんて居なかったし。
「そういうことか。色々な勇者のお仕事があるんだな」
勇者も仕事と考えるとしっくりくる。
何でも屋だなもはや。
「あと、もう一つ大事なことがあるの」
リラサが再び真剣な顔で俺を見た。
まだあるのかまだ。
「それは報酬は必ずもらわないといけないということ。 頼み逃げは許されないのよ」
うーん?
俺が不思議そうな顔をしている中リラサが続けた。
「異世界には勇者に頼むだけ頼んで、報酬を拒否したり、すぐ払わないケースもあるのよ」
なんだよそれ。
俺みたいな奴がいるんだな。
なんかそれだけ聞くと俺と同類だけどムカつくな。
「踏み倒そうとするってこと?」
俺もよくやってましたすいません。
「そう、踏み倒し。勇者を呼ぶ者が善人ばかりじゃないのよ残念ながらね」
人としてそれはやっちゃいかんでしょ。
俺もやってたけど。
「借りたものは必ず返すの。これはあらゆる世界の道理であり揺るがない」
あ、これ最初にあの声も言ってたな。
たしかにそのとおりだ。
「勇者の力を借りたわけだから、その借りは必ず報酬として返す。これは当然よね」
借りっぱなしは許さないってことだな。
俺も力をタダで貸すのは気に食わない。
「その言い方だと、借りを返してない奴らがかなりいるんだな?」
リラサは怒っていた。
ごめん、何度も言うけど俺もそれ。