リラサ
無事魔王を討伐し世界を救い報酬を得た勇者。
でも、全然貸しを返すには全然足りなかったと衝撃の事実。
困惑するなか、謎の少女登場
「う……あの野郎」
俺は目覚めた。
あのふざけた展開を思い出し寝起きからイライラする。
なんだよあの最後の言葉。
借りがまだまだある?貸した力も返せ?
あーイライラする。
俺は起き上がって周りを見渡した。
そういえば「サービスで家を」とか言ってたな。
いったいどういうことなんだ
どことなく懐かしい匂いがする周りを見渡すと、そこは懐かしい家具や家電であふれていた。
ガチャガチャ回すテレビ、年季の入った皮のソファー、ちゃぶ台、どうやら俺がいた現実世界のモノば かりのようだ。
レトロ感満載だ。
さっきまで中世っぽいモノに囲まれていたからなんとなく落ち着く。
その時、ドアが開いた。
「ういーっす! 目覚めたかー勇者~」
女の子の声が聞こえる。
元気で明るい声だ。
目をやるとそこには小柄な少女が立っていた。
銀色の長い髪、綺麗な蒼色の瞳の少女、多めに見ても中学生って感じだろうか。
可愛い。
久々に美少女を見たので嬉しい。
今日はいいことあるな!
ってそんなことはどうでもいい。
「勇者~返済の日でーす!」
おいおい美少女から返済なんて言葉は似合わないぞ。
「いきなり誰だよお前。名を名乗れよ」
当然の礼儀だぞ。
まったく近頃の若者はしつけがなっとらん、俺の時代は……おっと。
「私? 私はリラサ! さぁ返済返済!!」
俺の腕を掴んで引っ張ってくる。
髪の毛がくすぐったいからやめろ。
「ちょっと待て、返済ってどういうことだ。お前に何も借りてないぞ」
俺が助けと力を借りたのはこんな美少女じゃなかったはず。
もっと嫌なやつっぽかったし。
「私はあの声の人のお使いだよ! 私が代理で受け取るの」
ああそういうことか、ならしょうがないな。
ってすんなりいくかよ。
「大体、俺は返済なんて納得してないぞ! 騙されたんだ! こんなことになるとは聞いてないぞ」
リラサが俺の腕から離れ。
真っ直ぐ目を見て語りかける。
「騙された? 何いってんの? アンタは約束したんでしょ。あの声に」
たしかに約束はした。
YESと答えた。
「そりゃあ、あの時は勢いに任せてしたけどさ……」
視線が痛い。
そんな目で俺を見ないでくれよ。
「じゃあもう契約は成立しているの。アンタは完済するまでアンタが居た元の世界に戻れないし助かれないわ」
かなり怒っているみたい。
これは踏み倒せそうにないな。
「はい。分かりました分かりました。返せばいいんでしょ」
俺は足元に置いてあったさっきの世界で報酬としてもらった黄金をリラサに手渡した。
ずっしり重いからかなりの金額だろう。
「ほれ、これでいいんでしょ。かなりあるよ」
リラサは袋の中身を開けて床に出した。
黄金がキラキラと輝いている。
「じゃあ計測計測ゥ!」
リラサが手をかざすと、黄金が少しづつ消えていった。
と、同時に空中になにやら数字が浮かび上がってくる。
あれだあれ、某TV番組の鑑定番組の鑑定結果みたいな感じ。
チャリンチャリンと数字がどんどん増えていって……あれ?
「3000円」
そう数字が表示された。
え?
なにこの寂しい桁。
大体なんで円単位で表示されるの?
俺あの声の奴からは金なんて借りてないけど。
「どういうこと? 俺あいつから借金してないよ」
リラサは笑顔で即答してくれた。
「だってこのほうがわかりやすいでしょ。これ、アンタが生きてた世界の単位なんでしょ」
だしかに俺の世界のお金の単位だ。
「こうやって可視化したほうがアンタがどれだけ助けてもらったか実感できるでしょ」
イマイチ意味がわからない。
たしかにわかりやすい気がするが。
「あと、3000円ってバグってんの?これ。あの黄金なら数億円は行くだろ確実に。」
常識的に考えておかしい。
リラサの肩を両手で掴んで慌てて聞いてみる。
「いいえ。適正でーす! じゃあこれで今回の返済としまーす」
そう言った瞬間浮かんでいた数字は消えた。
もちろん黄金も完全に消えている。
「魔王まで倒して世界救って得た報酬が3,000円? しかも黄金だよ? どういうこと!」
俺はリラサの体を揺らして早口で聞いた。
「だーかーらー。 あの時も言っていたでしょ。簡単な異世界を救って得た報酬ぐらいじゃ数千円にしかならないって」
思い出した。
たしかに言っていた。
その通りの言葉を言っていた。
マジだったのか……。
俺は絶望した。
がっくりと膝から落ち、手を床についてしまった。
「まぁまぁ、落ち込むな勇者くん。千里の道も一歩から、地道に頑張れば完済できるよ」
リラサが俺の背中を叩いて慰める。
やめてくれ、余計に辛い。
そして、俺はさらに恐ろしいことを聞いてみた。
「えっと……で、あとおいくら残っているので?」
リラサがそろばんを取り出してちゃぶ台で弾いている。
そろばんって今時誰も使わないだろ。
俺も使ったことないわ。
「うーんっとねー。あれだけじゃなくて、あの時のも足すと~」
カシャカシャ言っている。
長いぞ、リラサ。
計算がやたら長いぞリラサ。
「こんなもんだね! 見てみて」
弾き終わったそろばんを俺に見せてきた。
「んっと?」
そろばんの読み方知らないのよ俺。
見せてきても困るし。
「え? そろばんも読めないの? あらゆる世界で最も優れた計算機よ?」
え、そろばんってそんなに偉大だったの。
ちょっと俺に子供できたらそろばん教室行かせるわ。
「1億7000万5892円」
???
俺の聞き間違いだな。
「リラサ、もう一度言ってPlease言ってPlease」
「あ、ごめんね! 私間違えてた」
はい。
やっぱりそうだよな。
桁間違えすぎだろ。
これだから中学生は困る。
大人をなめるなよ。
「さっきの3000円引いてなかったから、1億7000万2892円だね。」
え…。
そこが間違えだったんですか。
もうね、アホかとバカかと。
「ふざけんな! 大人をからかうのもいい加減にしなさい! オジサン怒るよ!」
俺は大人げなくリラサの胸ぐらを掴んだ。
その時だった。
リラサの瞳が赤く変わり、空気が震えだす。
「貸主にその態度はなんだ。 お前こそ私をなめているのか」
逆に俺の胸ぐらをつかみ上げる。
苦しい。
女の子の力じゃない、息ができない。
「す……すいませんでした。勘弁してください」
俺は必死に謝った。
「二度と私にそのような態度は取るな」
そう言って俺を離した。
床にたたきつけられる俺。
過呼吸のようになり、落ち着くまで異様な静寂が続いた。
「わかりました。1億7000万2892円。それが俺に残された借りなんですね」
怖いから敬語になってしまった。
情けない大人になってしまった。
「そうだよ~。そうだよ~。あと1億7000万2892円、それがあなた、勇者に残された借りだよー」
さっききのリラサに戻っていた。
瞳も元の色だ。
笑顔の奥にはあんな一面もあるのか。
どこの世界でも女は怖い。
また一つ賢くなってしまったか……。
「でも残り1億7000万2892円なんて返せないよ!魔王討伐して世界を救って3000円って、いったいどれだけ魔王を倒せばいいんだよ!」
俺は思いの丈をぶつけた。
だってそうだろう。
いくらなんでも安すぎないか?
「そうね。56667回ね」
いや真面目か。
それぐらい俺だって分かるわ。
リラサがくすっと笑った。
「だからあの程度の異世界、最低ランクの異世界を救っても、そんなもんしかならないってことよ」
うーんそういうことかー。
って納得できる話じゃないんだけど。
リラサが続ける
「異世界のランク、それによって報酬の相場は決まるのよ」
異世界にランクなんてあったのか。
初めて知ったわ。
また一つ賢くなってしまった、敗北を知りたい。
「今後のためにくわしく教えてあげる。まぁいつまでも床に座ってないで、ソファーに座りましょ」
お元気ですか、父さん。
俺は美少女に異世界の仕組みを教わることになりました。