保安官本部
奈々子は目を覚ました。
そこはパトカーの後部座席だった。
奈々子は運転席の後ろに座りなおした。
日本の運転席とは逆だった。
「目が覚めたかね?お嬢さん?」
ケネスがバックミラーで奈々子を見て聞いた。
奈々子は腕を背中に捻り上げられていて、後ろ手に手錠を掛けられていた。
「なぜ手錠を掛けるの?」
日本語訛りの英語で聞いた。
「な~に、あんたにちょっち暴行罪がある」
暴行罪?この男は頭が狂っているの?
道の途中で用を足してる男が居た。
ケネスは車のマイクを掴んだ。
「そこの男、とまってろ」
車のスピーカーを通じて語りかけた。
ケネスは車から降りると、男の腕を捻って手錠を掛け、後部座席に乗せた。
「何があったんですか?」
奈々子は聞いた。
「野外でのおしっこは犯罪だそうだ」
男は怒りをあらわにした目でケネスを睨んだ。
ケネスは車に乗ると、車の無線機を取って連絡を取った。
「ケネスから本部へ、どうぞ」
『こちら本部』
無線から男の声が返ってきた。
「男女2名を逮捕。男性は車を所持、回収に来て欲しい」
『了解、レッカー車を送る。署まで連行しろ』
「了解」
無線機を戻した。
「お前達は警察に行くことになる。カート、発進しろ」
車は発進した。
「な~に、安心しろ。留置所には行かない。ちょっとしたら開放する」
奈々子は今日の記憶が思い出せなかった。
「お嬢さんはなぜここに?」
「学校の旅行で着ました」
「そうか、旅行か…旅行はいい、仲間との関係も深まるし、家族と違って思いっきりふざけあえる」
ケネスは笑った。
「知ってるか?妻が子連れでこんなところまに来てる居るときは、十中八九は夫に腹を立ててるんだよ」
奈々子はなぜ突然そんなことを言うか理解できなかった。
「ほら、あそこだ」
ワゴン車が止まっていた。カートはブレーキを掛けた。
ケネスは降りた。
「奥さん、ここでの駐車は違反ですよ」
運転席から若い女性が出てきた。
「すみません、タイヤがパンクして代わりが無いから…」
「言い訳はいいから警察まで来てもらうよ。な~に、ちょっと書類などを書くだけだからさ。お子さんも一緒にね」
女性は車の中の子供を連れ出し、パトカーの後部座席に向かった。
ケネスは助手席に乗った。
「ほら、つめてつめて!」
2人はつめた。
「ごめんささい」
女性は後部座席に乗ると、子供を膝の上に乗せた。4歳から5歳くらいの女の子だ。
「ケネスより本部へ、どうぞ」
『こちら本部』
「もう一台運んで欲しい車がある。ワゴン車だ」
『了解』
ケネスは無線機を戻した。
レッカー車がパトカーを通り過ぎた。
『ケネス、また駐車違反者が居たのか?』
「ボブ、ワゴン車はパンクしてるそうだ」
『ははは!パンクは良くあることだ!』
「まずはこの先にある車から運んでくれ。ワゴン車は後だ」
『アイアイサー』
「ボブ、ここは軍隊じゃないんだ。返事は了解だ」
『アイアイサーキャプテン、了解』
レッカー車が男の車を回収しに向かった。
「まず、全員の名前を聞こう。お嬢さんから順番にな」
「佐々木奈々子、佐々木が苗字で奈々子が名前だ」
「ジェーン・ハーベルト」
「ローズ・ペグ。娘はミラー」
ジェーンはオールバックの髪の毛を掻き毟った。
「ナナコにジェーンにローズにミラーっと、よし出発」
カートはアクセルを踏んだ。
「にしてもローズ、なぜここに?」
「目的地の近道って聞いたから」
「誰に?」
「どこかの男に」
ケネスはうなずた。
「大変ですな。私が町一番のステーキの店に案内します。あそこのTボーンは絶品ですな」
この男はおしゃべりなのか、黙った姿を見ていないな。
「この場所で何があったんですか?」
奈々子はなるべく愛想に良い声で言った。
ケネスは薄笑いを浮かべた。
「この場所では核実験が行われた。それにどこかの町の地下で、今でも石炭が燃えているんだ。そう、ここはまさしく地獄だ」
ケネスは暗い顔で前を見ていた。
「皆良い人だったよ。いや、まあ、ほとんどがな。中には気の毒な人も居る。放射能を被爆し、世間から嫌われた連中がな」
それまで喋っていたケネスが黙り込んだ。過去の何かをじっと見つめながら。
乾燥した岩場の上で、セガールがトランシーバーから朗報が流れるのを待っていた。
『セガールか?』
「スティーブ、やったか?」
『アンナが殺された』
セガールは殴られたような驚愕な顔をした。
が、それは一瞬だけで、すぐに笑みを浮かべた。
「あの馬鹿女。あれだけあっさり殺せと言ったのに」
『アンナを殺したのは保安官だ』
「どうやら保安官を見くびっていたな」
『だが、ガキを1人捕まえた。綺麗な銀髪の女だ』
「まさか…やるのか?」
『ああ、やるつもりだ』
「誰ので?」
『投票で』
セガールは笑みを浮かべた。同時に悲しみの顔も見せた。
「アンナが殺されるなんてな……」
パトカーが走っていると、巨大な洋館のような建物が見えてきた。
正面には入り口があったが、普通のドアだった。
「ケネスより本部へ、どうぞ」
『本部よりケネスへ、どうぞ』
「ただいま本部に到着しました」
『人ではいるか?』
「くれるか?」
『1人送る』
パトカーは洋館の正面に止まった。ケネスはパトカーを降りた。
「カート、見張ってろ」
そう言って洋館に入った。
カートはパトカーから降りると、ホルスターから自動拳銃ベレッタM92Fを抜き、4人が乗ってる後部座席に向けた。
「逃げないでくれ。殺したくない」
イタリア製のクールな拳銃を向けながら、カートは言った。
奈々子は今日の出来事が思い出せなかった。
厳密にはなぜパトカーに乗せられ、手錠を掛けられているのか理解できなかった。
私は警察に捕まるような事をしたか?
洋館から誰かが出てきた。少し太った巨漢だった。
顔にはボロボロの麻袋を被り、腰からはエプロンを纏っていた。
巨漢はパトカーのトランクから何かを出した。
抱え込んで居たのは女だった。
腹部に銃弾を食らって重傷だが、辛うじて生きていた。
そうだ!全てを思い出した!
ケネスが家から出てきた。
「トム!その女はいつも通りあれをやれ!」
太った巨漢――すなわちトムは、女を肩に担ぐと、家に入っていった。
ケネスは散弾銃を構えながらパトカーに後部座席の近づいた。
「全員車から降りろ!」
全員言われるがままにパトカーを降りた。
「これから本部に入ってもらう。1人1人尋問する」
そう言って誰にするか決めているのか、目で全員を見ていた。
「ミラーちゃんは祖母のノーマに遊んでもらってね。カート!女の子をノーマおばちゃんの場所に連れて行け!」
カートは拳銃をホルスターに仕舞った。
「さあおいで」
カートはミラーの左手を掴んでゆっくり引っ張った。
「誰から始める!」
3人は迫力のある怒鳴り声で一瞬痙攣を起こした。
ケネスは3人を睨んだ。
「よ~し……お嬢さんから始めよう……」
ケネスは首を「こい!」とばかりに振った。
奈々子はケネスについて行った。
家からまた誰かが出てきた。
それは先のトムとは別の巨漢だった。
レザーコートを着て、右手に鉈、顔には包帯を巻いていた。
「ジャクソン、こいつらを見張るんだ。いいな?」
ジャクソンはうなずいた。
ケネスは奈々子を連れて家に入った。
玄関に入ると、右側に2階と繋ぐ階段があった。
左側の奥には鉄製の引き戸があった。
「どこに連れて行く…気ですか?」
「な~に、ちょっとした尋問室だ」
ケネスは鉄製の引き戸を開けた。
中は3つの鉄製フックがぶら下がり、部屋の左隅には冷蔵庫のようなものが倒れていた。
部屋はさながら肉屋のようだ。
右側の奥にはまた鉄製の引き戸があった。
だが、ケネスは部屋の中心にあるテーブルをどかせ、鉄製の1メートルほどの正四角形の鉄板を持ち上げ、梯子を下ろした。
「中に入れ」
奈々子は言われるがままに梯子を下がった。
中は廃棄された工場のように汚らしかった。
部屋の中心には井戸があった。
「ここは?」
「尋問室だよ」
ケネスは梯子で下りながら言った。
「トム、閉めろ!」
トムは言われたとおり鉄板で入り口を塞いだ。
ケネスは突然散弾銃のストックで奈々子の後頭部を殴りつけた。
奈々子は意識が朦朧とし、倒れこんだ。
ケネスは奈々子の両手首を鎖で縛り上げ、南京錠を掛けて吊り上げた。
奈々子は鎖に吊り上げられ、空中にぶら下がった。
「う~ん、君は尻まである髪の毛をポニーテールで纏めているね?私好みだよ」
奈々子の意識は朦朧としているので、何を言ってるか聞き取れなかった。
「顔もアジア人とは思えないくらい可愛い。日本人はアジアの中でも美人が多いね」
そう言って奈々子の髪の毛の匂いを嗅いだ。
「いい匂いだ、うん、君のことが大好きだ。後でゆっくり尋問しよう」
ケネスは奈々子を気絶させるか迷った。
手のひらを女のシャツの下に這わせる。ブラ越しに完璧な胸が感じられた。いいぞ。
ケネスはにやっとした。お前は中学生にしては十分過ぎる女だ。
俺を興奮させる動物的本能、完璧な胸、美形、ツインテール。
ケネスは慎重な道を選んだ。こちらが他の奴を尋問している間は気を失ってもらおう。
縛ってるから逃げることは無いが、自分が仕事をしている間にもがいて疲れきったらつまらない。その強さを残しといてくれ……俺のために。
奈々子の頭をわずかに起こし、手のひらを首筋にあてがって頭蓋骨の真下にあるくぼみを探した。このつぼは、これまで数え切れないほど使った。砕かんばかりの力を込めて親指を圧迫し、軟骨がめりこむのを感じた。奈々子は即座にぐったりした。20分だ。
ケネスは自分の興奮を抑えながら、叫んだ。
「トム!開けてくれ!」
鉄板が開く。
ケネスは梯子をあがった。
「あの女はどうした?」
トムは指差した。
一番右端の豚をつるすフックに女をつるしていた。
「よし、よくやったトム……と言いたいが、弾丸が体に入ったままじゃ危ないな。全部抜くんだ。いいな?全部だぞ」
トムはうなずくと、女をフックから外し、テーブルに載せた。
「楽にしてやれ」
ケネスは冷たく言い放つ。
トムは肉切り包丁を持った。
一瞬だった。
トムは手際よく女の喉を切った。
女の喉から血が噴出し始めた。
「よし、弾を抜け」
トムは大きなピンを取った。
傷口にピンを入れると、弾を抜き始めた。
ケネスは家の外に出た。
外ではジャクソンがローズとジェーンを見張っていた。
「いいぞジャクソン!男のほうは納屋に連れて行け!女のほうは地下室に連れて行け!」
ジャクソンは2人の肩を掴んだ。
「畜生!放しやがれ!」
「やめて!」
ジャクソンは納屋に向かった。
納屋に着くと、男の両手を縄で縛り、つるし上げた。
「畜生!放しやがれ!」
ジャクソンは女を家に連れ込んだ。
階段の横にある鉄製の引き戸を開け、弾抜き作業をしているトムを通り過ぎ、部屋の右端にある鉄製の扉を開けた。
長い階段が下に続いていた。
ジャクソンはローズを連れ、階段を下がる。
ようやく地面にたどり着く。
そこは居間のように広かった。
だが、あちこちに水溜りがあった。
部屋の中心に縦長の鉄製の台があった。
右側の壁には、包丁、鉈、斧、鋏などの刃物がずらりと並んでいた。
その上に、大型のチェーンソーが貴重品のように飾ってあった。
チェーンソーの刃に「日々を大切に」と書かれたラベルが貼られていた。
左側には謎の拷問器具が並べられていた。ここは拷問部屋だ。
ジャクソンはローズを台に乗せた。
そして、両手両足4つの首に台に繋がった手枷足枷を掛けられた。
「やめて!なぜこんなことするの!」
ジャクソンはローズの口にタオルを詰め込み、縛った。
うるさいわけではない。自殺出来ないようにだ。
ジャクソンはローズを置いて地下室を出た。
そして、鉄製の扉を閉める。