大佐
目を覚ましたときから立花は酷い気分だった。
ローファーを履いているおかげで冷たさはそんなに感じないが、自分は今氷の上に立たされていた。 両手首に手枷を嵌められ、その上後ろの腰に捻られ、手錠を掛けられた。手枷のおかげで胸から上に手が伸ばせない。
とどめは鎖だった。天井から伸びている鎖が自分の首に何重にも巻かれ、錠でしっかりと止められていた。氷が解ければ、立花は首が絞まって死んでしまう。
横に気配が感じた。頑張って首を横に向かせると、驚愕した。
………相沢君!
懐かしさを感じたが、ぐったりしている。椅子に縛られ、猿轡を噛まされている。
立花は下を見た。
どうやら2人は巨大なシーソーのような台に乗せられていた。恐らく重荷が無くなれば傾くだろう。
氷は解け、自分の所の重さが減少し、信二のほうに傾き、水が溜まっていた。
信二の向こうには、稼動中の発電機か何かがあった。
悪魔の仕掛けだ――時間がたつにつれ、立花と信二の寿命は減っていく。
「相沢君、相沢君!」
信二は起きない。ぐったりしている。
きっと麻酔を打たれたのであろう。
すると、正面の扉が開いた。
ソ連の将校クラスの軍服を着た大男が入ってきた。
そう、立花は知っていた。
悪魔の様なゲームを発案した張本人――ウラジミール大佐だった。
「やあお壌ちゃん、目を覚ましたかい?」
「……おかげさまで……」
ウラジミールは笑っていた。
悪態を言いたいが、ウラジミールは数百万ボルトの電気を帯電できる体質だった。下手に挑発すれば電流地獄が待っている。
「そうか、私は気に入ってもらえて嬉しいよ、これもお嬢さんを喜ばせるための仕掛けだよ」
「喜ぶ?首に鎖を巻かれ、友人の命を脅かしている。苦しみだらけのこれに誰が喜ぶの?!」
「苦痛と快楽は紙一重だよ。存分に楽しむと良い」
「せめて友人だけは解放して」
「ほほほ~、それは無理なお願いだよ、お嬢さん」
ついに堪忍袋が切れた。
「この変態!」
ウラジミールの堪忍袋も切れた。
両手から青々とした電気―雷とも言うべきか―が立花に直撃した。
ほんの数秒だったが、数時間にも数年にも数百年にも感じる苦痛が全身に流れる。思わず悲鳴をあげる。
「いいかお嬢さん?俺はゲームがしたいだけだ。助かるシナリオも用意した」
電気が帯びた右拳が勢い良く腹部にめり込む。
呻き声を漏らしてしまう。
「早まらんほうがいい」
ウラジミールは部屋から出て行った。
立花はしばらく意識が朦朧としたが、考え出した。
電気を帯電できるのは本当に放射能による影響なのか?
連中は本当に突然変異したのか?
だが、今は氷の上でバランスを保つことに集中した。