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ラジオアクティビティ  作者: 岡田健四郎 ZOMBRAY
16/17

史上最悪の状況

 真人は夢を見ていた。

 まるで胎内に宿る赤ん坊のように、暖かい心地の良い場所だった。

 だが、そんな感触もつかの間。突如冷たい水に変わった。口や鼻に入り、苦しみと痛みで暴れだした。

 慌てて立ち上がり、咳き込んだ。真っ暗だった。

「誰か、誰か助けて!」

「無駄だよ」

「だ、誰だ!」

 突如明かりがついた。そこは老化したバスルームだった。

 真人はバスタバの中に居た。自分の数メートル先の正面の壁に友人の聖夜、部屋の隅に吉川裕也というクラスメートが居た。彼とは話したことが無かったが、暗い感じだった。顔も朝鮮人に見える。

「こ、ここは?」

「さあな、作業員用バスルームに見える。俺達は監禁されたんだ」

「誰にだよ!」

「不細工なあの化け物集団だ。奴がモーテルに侵入してたらしい。何人かさらわれた」

「畜生、冗談じゃないぜっ」

 そう言ってバスタブから出て出口に向かおうとしたが、自分の左足首に何か付けられているのに気づいた。

 足枷だった。

 鎖が近くの太いパイプにしっかりと巻かれ、南京錠が掛かっている。

「これなんだよ!」

 そう言って鎖を引っ張ったが、びくともしなかった。

「訳分かんない!誰がこんなこと!」

「だから言ったろ?奇形集団だ」

 聖夜は妙に落ち着いていた。

「何で落ち着いてられる?」

「お前が目覚める数十分前から叫んだが、誰も来ない」

 突然、壁の上のほうにあったアナログテレビがついた。

 そこには、白い肌の口が耳まで裂けたタキシード姿の男が映った。白目の部分が黒く、虹彩は赤かった。

『やあ諸君、こんにちは』

 全員画面に釘付けになった。

『諸君は今状況をあまり整理できていないな。安心しろ。諸君を殺すことは無い』

 全員聞いていた。

『だが、諸君はここから9時までに出なければならない。さもなくば、タチバナと言う少女が諸君の代わりに死ぬ』

 全員はっとした。

『では、諸君に贈り物がある』

 そう言って男は髪を読み直した。

『バスタバに素敵なプレゼントがある。では御機嫌よう』

 テレビは消える。

 真人はバスルームに入り、中に黒いビニール袋があると知ると、全員に見えるようにした。

 中のものを床に放り出した。

 小型の糸鋸が3つ、銀色のリボルバーが3つ、携帯電話が3つだった。

「おい、俺にもくれ」

 真人はそれぞれ1つずつ聖夜と吉川に投げ渡した。

 吉川はすぐさま鋸で鎖を切ろうとした。鎖は恐ろしく頑丈だった。

 刃が外れた。吉川は悪態つきながら鋸を投げ出した。

 それを見た聖夜と真人はすぐに鎖切断作業をやめた。

「畜生、このままじゃ立花が殺される」

「安藤、拳銃に込められた弾は1発だけだぞ」

「何のために?」

「自殺さ」答えたのは吉川だった。

「餓死したくなきゃ頭を撃ち抜いて死ね」

 吉川は頭をがくりと下げた。

 なるほどと真人は頷く。自殺専用の拳銃はありがたい。

「とにかくここを出なきゃ、立花が殺されちまう」

「でもよ安藤、どうやって出るんだ?」

 吉川は顔を上げた。

「立花のことはどうでもいいよ、問題は僕達がどうやって脱出するか」

「クラスメートを見捨てるのかよ!」

「僕は他人のために無理はしたくない!」

 聖夜は携帯電話をいじくりながら言った。

「その台詞、岡本の前で言ってみろ?殺されるぞ」

「電話は使えるか?」

「いや、受信しか出来ない。発信は無理だ」

 吉川は頭を掻き毟った。

「どうやって出ればいい!脱出不可能じゃないか!」

 真人は言った。「いや、足を切れば……」

「そんなことしてみろ安藤。大量出血でたちまち死んじまう」

「じゃ、拳銃で南京錠でも撃ってみるか?」

 吉川はすぐに拳銃を握って南京錠にぶっ放す。

 だが、南京錠は壊れなかった。

「ちくしょう、壊れない……」

「それでお前は弾切れだ」

 聖夜はそう言って寝転んだ。

「俺は寝る」

「暢気だな」

 聖夜は本当に寝た。

「これで2人きりだ」

 吉川は頭を下げて黙った。

「1人きりか……」

 真人は拳銃を握った。

 吉川は弾切れして聖夜と自分だけが武器を握っている。少なくても自分は1人殺せる。自他者かは別として。心強い相棒が出来たもんだ。



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