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ラジオアクティビティ  作者: 岡田健四郎 ZOMBRAY
14/17

食事

 奈々子は目を覚ました。

 そこは自宅のベッドの上ではない。

 旅行先の宿舎のベッドでもない。

 バスの席でもない。

 カビと錆にまみれた変態の地下室(拷問室)だ。

 いや、拷問部屋ではない。

 食卓だった。

 縦長いテーブルの頭とも言える場所に座らされていた。

 両手首は有刺鉄線に巻かれ、椅子にしっかり縛られている。

 有刺鉄線の無数の棘が手首に刺さっている。

 動いても動かずとも手首は激痛を感じる。

 左手だけ右手よりも激痛を感じる。

 見てみると、左手の指の爪全てが剥がれていた。

 そうだった、ほんの数分前は爪をペンチで無理矢理剥がされてたっけ?道理で痛いわけだ。

 誰かの声が聞こえる。

「父さん、ニンニクが足りないよ」

 それは奈々子走らない人物――チルトンの声だ。

「料理なんてテキトーに作ればいいって話じゃない。真心、信念、プライドをかけるんだ」

 一流のコックが言いそうな台詞だ。

「調味料の分量が分からない?考えるな、感じるんだ」

 いや、調味料の量はちゃんと分かってないと駄目だろ。と突っ込みたい気分にもならないわけではない。

 チルトンが皿を持ってきた。

 皿の上にはソーセージが大量に乗っかっていた。

 ソーセージだけではない。

 焼肉のようなものもある。

「今夜はご馳走だ」

 チルトンは機嫌がいい。

 便秘薬で溜まった便を排出できたからだ。

「おや、目を覚ましたね。待ってろよ、今ディナーの準備をしているからだ」

 親切な家族だ。

 有刺鉄線と爪剥ぎの痛みのおかげで思考がおかしくなりそうだ。

 私は誰?佐々木奈々子、よし覚えてる。

 続々とこの家の住民が入ってきた。

 肉屋の男――トム

 包帯の男――ジャクソン

 鬼畜保安官――ケネス

 奇形保安官補佐――カート

 祖父――ショーン

 祖母――マザー

 料理人――チルトン

 双子――フレッドとジョージ

 全員椅子に座った。

 ケネスは奈々子とは反対側に立った。

「はあ、全員揃ってないが、とりあえず食事時間がやって来た」

 ケネスは凄みのある低い声で喋り始めた。

 フレッドとジョージが議論していた。

「静粛に!」

 ケネスは怒鳴る。

 2人は黙り込んだ。

「えー、我々は今日をまた飢えずに過ごす事が出来た」

 鍋をテーブルの真ん中に置いた。

 蓋を開けると、シチューの様な料理が現れた。

「我々一族は時代の逆境に負けず、逞しく生き抜いた」

 全員真面目な顔でケネスの演説を聴いていた。

「国は身勝手だ。ある時は兵士を必要とし、ことごとく切り捨てる。近代は兵器のハイテク化が進み、兵士の存在理由が小さくなっていく。超大国は大量破壊兵器を保有する。他国が破壊兵器を持つことを恐れ、疑いが出れば調査し、断れば戦争を起こす」

 ケネスはすっかり偉大な演説者気取りだ。

「戦争時は兵士を必要とした!だが祖国のために戦い、死んでいった仲間の無念は晴らされることは無かった!生き残った兵士は帰国し、反戦家やそれに賛同する愚かな国民からブーイングを受ける!」

「我々は復讐を誓った!イラク戦争で無念に散った息子の仇、息子の行為を殺人と非難する連中に我々は裁きを下した!」

「我々は負けぬ!時代が我々を必要としなくとも、我々は生きる!」

「若い世代が犠牲になったおかげで、我々は今宵飢えずに済む」

「いや、これからも永遠に飢えない!」

「さあ感謝しよう、我々のために身を捧げた者達に、絶対唯一神とその僕である天使達に」

 全員、目を瞑り、腕をあわせた。

「天にまします我らの父よ、ねがわくはみ名をあがめさせたまえ、み国を来たらせたまえ、みこころの天になるごとく地にもなさせたまえ、我らの日用の糧を今日も与えたまえ、我らに罪をおかす者を我らがゆるすごとく、我らの罪をもゆるしたまえ、我らをこころみあわせず悪より救い出したまえ、国とちからと栄えとは限りなくなんじのものなればなり、アーメン」

 ケネスは奈々子を見た。

「ついでにこの女の罪も許したまえ、中々見所のある女だ」

 そしてシチューを皿に注ぐ。

「さあ食べよう、主は我々が飢えたときにはパンを与え、乾いたときには水を与えてくださった」

 奈々子の皿にもシチューが入った。

「この世の全てを大切にしよう、たった数秒の時間、たった一杯の水、たった数歩の散歩、たった僅かな食事、全てを大切にするのだ。この世には制限時間が存在する。時間を大切に、有効に使うんだ」

 全員、目の前の料理を食べ始めた。

「ケネス、あれじゃあ食事ができないだろ」

 マザーが萎れた声で言った。

「母さん、ストローを与えよう」

 奈々子はシチューの食材を見た。

 見覚えのあるものが入っていた。

 指だ、人の指が入っていた。

 彼等は人肉を食っていた。

 狂ってる、この家族は全員狂ってる!!

 奈々子はそう思った。

 

 奈々子は途方に暮れていた。

 有刺鉄線に巻かれた手首が酷く痛む。

 どうせ殺されるなら、気絶しているときがいいな。そう思った。

 その時だった。

 突然外で爆発が起きた。

 全員椅子から飛び上がった。

 ケネスとカートが拳銃をホルスターから抜いた。

「敵襲だ!奴らが襲撃してきた!」

 ジャクソンは鉈を抜く。

 トムはチェーンソーを取りに地下室に向かう。

 フレッドは斧、ジョージはミートハンマーを持った。

「攻撃だ!警戒態勢に入る!」

 全員次なる攻撃に警戒した。

 トムがチェーンソーを持って戻ってきた。

 チルトンは叫び始めた。

「どうして俺たちみたいな罪も無い価値の無い市民が襲われるんだ!」

「チルトン黙れ!」

「俺は善良なコックだ!ただのコックだ!」

 何かが窓を割って入ってきた。

 ダイナマイトだ。

「伏せろ!」

 ケネスが叫ぶと同時に全員伏せた。

 ダイナマイトが爆発する。

「外に居る!カートを残して行くぞ!」

 カート以外の男達は外に出る。

 奈々子は誰だかわからないが感謝した。

 と、思うと、チルトンが後ろから奈々子の頭を殴った。

 奈々子は意識が朦朧とする。

 誰か、スーツ姿の男が散弾銃を構えて入ってきた。

 奈々子を見て、しっかりしろと叫ぶ。

 誰だか知らないが、救世主だと奈々子は思う。

 意識がはっきりしてきた。

 それは担任の――黒木大輝だった。

「目を覚ませ!」

「お、起きて…ます…」

 奈々子は弱々しく笑みを見せる。

「無事、じゃないな、有刺鉄線を解くのは難しい」

 包丁を有刺鉄線に射し込む。

 同時に有刺鉄線を緩めた。

「さあ痛いが抜いてくれ」

 奈々子は右手を抜く。

 かなりの痛みが生じた。

 黒木は左手の有刺鉄線も緩めた。

「頑張れ、抜け」

 奈々子は力を振り絞って抜いた。

 また痛みが生じるが、さっきの経験のおかげでさっきよりは楽に感じた。実際はそうではないが。

「さあ立てるか?」

 奈々子は黒木の肩を借りて立ち上がる。

「車はあるか?」

 黒木はカートに聞く。

「4台ある、パトカー、トラック、ヴァン、ワゴン」

「ヴァンを頂こう」

 考え直せば、カートも人肉料理を食べていなかった。

 カートは善人だった。

「他に捕まっている奴は?」

「ああ、居る、今開放する」

 カートは他の捕まっている人達の開放に向かった。

 マザーは縛られている。口にガムテープを張られて。

「さあ歩くぞ」

 だが奈々子は倒れこむ。

「体力が消耗しきっていたか」

 黒木は奈々子をお姫様抱っこする。

 カートはローズとミラーを連れてきた。

「これで全員か?」

「納屋に1人」

「車は?」

「納屋」

「丁度いい」

 カートは案内を始めた。

 大きな扉を開けると、納屋に直結していた。

 ジェーンが吊るされている。

 黒木は包丁で縄を切る。

 カートは全員をヴァンに乗せる。

 黒木はついでにと、他の車のタイヤを全てパンクさせる。

 黒木は助手席、カートは運転席に座り込む。

「悪いな、」

「いいんだよ」

 カートはエンジンを掛ける。

「突っ走れ!」

 カートは思いっきりアクセルを踏む。

 ヴァンが納屋の扉を壊し、外に走行した。

 その際、誰かに激突した。

 ジャクソンだった。

 ヴァンは猛スピードで家に離れる。

「ここで止めてくれ」

 カートは止める。

 黒木は車を出て、外に縛っていたコリンをヴァンに入れた。

「さあ走れ」

 カートは猛スピードで走る。

 気づけばあの家は小さな点に見える。

 奈々子は少しだけ微笑む。

 あの忌々しい家から離れていく。



 ケネスは不機嫌に家に入る。

 マザーが縛られている。

 チルトンが聞いてきた。

「どうしたんだ?」

「カートが裏切った」

 ロッカーから散弾銃を取り出す。

「奴らを追跡するぞ」

 チルトンは驚いた顔をした。

「でも、あそこは奴らの縄張りだぞ!」

「いいさ、実際1人殺したんだ」

 散弾銃に弾を込める。

「あの放射能突然変異一家に負けるほど我が一族は落ちつぶれては無い」

「あの連中は強靭だ」

「俺達もだ」

「それに奴が居る」

「構わないさ、あの忌々しい一家ごと殺してやる」

 

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