チンピラ
信二はダン達を追った。
「いいか!フランス人だけは逃がすな!」
ダンはソフィーを担いで逃げているダグラスに大声で叫んだ。
信二は自動拳銃PPKを構え、一発警告のつもりで撃った。
弾丸はダグラスの右肩に命中した。
ダグラスはソフィーを落としてしまった。
慌てて拾うとしたが、ソフィーは這いずるように信二に向かった。
信二は拳銃を撃つ。
弾丸はダグラスの右腿に炸裂した。
ダグラスは拳銃を恐れて逃げていった。
ニックに逃げようとした。
「まて!銃をよこせ!」
ダンはニックから回転式拳銃M500を奪い取り、ゆっくりと狙いを定め、引き金を引く。
弾丸はソフィーの左脚に炸裂する。
ソフィーは痛みのあまり叫ぶことも悲鳴を出すことも出来なかった。
信二は悪態つきながらダンに撃とうとした。
カチッ
弾切れだった。
「しまった!」
ダンは自身が優勢であることを知ると、笑いながら信二の頭を狙って引き金を引く。
カチツ
ダンの拳銃も弾切れだった。
「くそ!」
ダンは予備の弾丸を持ってこなかったことを後悔した。
信二が装弾子を拳銃に差し込んだ。
ダンは形勢逆転を悟った。
「そこのフランス人!必ず戻ってくるからな」
ダンはそう吐き捨てて逃げた。
ニックも慌ててダンについて行った。
信二は4人が逃げ去ることを確認すると、警戒しながらも倒れこんでいるソフィーに駆け寄った。
「大丈夫か!?」
「だ、大丈夫……足が物凄く痛いけど、大丈夫……」
つまり大丈夫じゃないってことか。
信二は左脚を見た。
弾丸は貫通していた。
血が弾丸でできた穴から溢れ出る。
信二は黒い帯ベルトを抜き取り、銃創の上をきつく縛る。
ある程度止血になった。
ハンカチを傷口に巻く。
「い、いつから拳銃が使えるように……?」
「いつの間にかだ。きっと脳が全身に掛けているリミッターが解除されたんだ」
「か、火事場の馬鹿力?」
「そうだ。俺は馬鹿じゃないが」
信二はソフィーの肩を貸して立ち上がらせる。
だが、いつの間にか目の前にオハイオ・ナンバーの車が止まっていた。
助手席と運転席から、若い男性2人が降りてきた。
片方はサングラスにオールバックの髪型で右手に回転式拳銃を持っていた。
運転席の男はフード付きのジャンバーを着ていた。
サングラスの男が口を開く。
「おい、兄貴、いい女が居るぜ。ひひひ~」
「だな、弟よ」
2人は2人に近寄った。
「おい、お二人さん、後部座席に乗ってもらおうか?ひひひ~」
「だな、女が足に怪我を負ってるな。どれ、立ち上がらせよう」
弟はソフィーを無理矢理立たせ、後部座席に乗せる。
信二は抵抗することなく後部座席に乗る。
2人は車に乗った。
「へへへ~収穫だったぜ」
「だな、弟よ」
車を発進させる。
その方角は――多少道がずれているが――信二たちのバスがある方角だ。
いいだろう、このまま進んでもらおう。
信二はそう思った。
紘輝は全員の様子を見た。
レイプされた女――小島香美は――肉体的にも精神的にもやばいな。
紘輝は小島にそっと服を着せると、今回もっともやばい女子に寄った。
真斗は腹部に銃撃を受けて重傷だ。
傷口から血が溢れ出る。
後部座席に寝かされている真斗は苦しむように顔を歪めた。
これはまずいな、銃弾を至近距離でまともに食らったんだ。
真斗は血を吐く。
周りの生徒は皆同情と悲観の目で真斗を見つめた。
紘輝は傷口を見た。
この場所は、致命傷は逃れているか?
胃と肝臓は大丈夫そうだが、腸が心配だ。
「わ……私、死ぬのかな…?」
弱々しい声で真斗は紘輝の問う。
「お前が?いや、死なないさ」
本当は自身が無かった。
これほどの重傷だ。医者じゃないから致命傷なのかすら分からない。
いや心臓胃肝臓肺がやられてなきゃ大丈夫だろう。
だが腸はどうだ?
真人が寄ってくる。
「こいつは助かるか?」
「まずは止血しなくてはな。出血が酷い」
真斗が紘輝の右手を強く握る。
「痛い……」
「大丈夫だ。きっと助かる」
「寒い……」
出血のせいで体温が下がってるのだろう。
紘輝は着ていたブレザーを脱いで真斗の身体に掛けてやった。
このままでは出血で死ぬかもな。
はっと思い出す。
モーテルの救急箱を取ったことを。
紘輝は運転席に置いた救急箱を取った。
あればいいが……
蓋を開け、数々の薬品を見た。
解熱剤、下剤、漢方薬、あった!止血剤!
紘輝は止血剤で真斗の止血を試みる。
効果があったのか、出血量が減った。
これで出血による死は逃れた。
こいつをモーテルに運ぶべきか?
あそこはここより危険かもしれないぞ。
だが連中は撤退した。
だが、真希の話に寄れば見張りが居るはずだと。
紘輝はすっかり忘れたこと思い出した。
佐貫だ。
佐貫の存在をすっかり忘れてた。
あいつはきっと――最悪な結末だ。
生きたまま焼け死ぬなんてな。
チンピラ2人組みは信二とソフィーを乗せながら車を走らせている。
弟が拳銃で外の看板を撃つ。
「ひ~~はーッ!」
2人は甲高い声で叫ぶ。
昔のヘビーロックを流しながら。
信二は呆れながら首を振る。
こいつらはチンピラというよりオタクだ。
ソフィーを横目で見る。
痛みに耐えてるようだ。
可哀相に。
チンピラたちの車の前でワゴン車が走ってきた。
「おい兄貴!いっちょ脅かすか!?」
「ああ!!やっちまえ!」
チンピラの弟が拳銃を撃つ。
弾丸はワゴン車のボンネットに当たる。
「ひゃっほー!」
「やり~!」
信二はある意味驚いた。
こいつらの親の顔が知りたいね。
ワゴン車と通り過ぎた。
だが、ワゴン車がUターンし、チンピラの車の左に並ぶ。
「あ、兄貴…」
「やばそうだな」
ワゴン車の扉が開き、何かがチンピラ達の車の屋根に乗る。
「何かが上に居る!」
「まずいぜ!」
その時、不愉快な音がした。
電動ノコギリ――大型チェーンソーが回転する音だ。
「兄貴!!」
「やばい!」
チェーンソーが屋根を突き破ってチンピラの間に現れる。
「兄貴!こりゃやばい!」
「撃て!上に居るいかれた野郎をうて!」
弟は窓から右腕を出した。
だが喚いた。
慌てて引っ込めると、右手首から先がなくなっていた。
「畜生!いて~よ……」
「拳銃は!?」
「奪われた……」
信二はまずい予感がした。
再びチェーンソーが屋根を切り裂き始めた。
2人のチンピラは悲鳴を上げた。
チェーンソーが引っ込む。
「兄貴!猛スピードで走ろう!」
だが兄か返事が無い。
「あ、兄貴?」
兄がうめき声を漏らす。
頭が半分に切れたレモンのように切れた。
弟は叫ぶ。
頭から血の噴水ができる。
信二は悪い予感がした。
ドアを開けた。
「ちょ…何をするの?」
ソフィーは聞いた。
「真似できないことだ!」
ソフィーを抱えて車を飛びおりる。
信二はクッション代わりになった。
チンピラの車の上に居るトムがチェーンソーのエンジンを切ってワゴン車に乗り込む。
車が大きくコースをずれて大きな岩に激突する。
ワゴン車は走り去る。
「信二君大丈夫!!?」
ソフィーは慌てて立ち上がり信二を立ち上がらせる。
「ああ、大丈夫だ。思ったよりな」
信二は見覚えのある建物を見た。
あのモーテルだ。
「バスは近いぞ」
「大丈夫?歩ける?」
「お前こそ歩けるか?」
「何とか…」
2人はお互いを支えながら歩いた。
バス目掛けて。
フレッド、ジョージ、トムの3人は自宅に着き、2階のトイレに向かった。
「チルトン、浣腸だ」
トイレに座っていたチルトンが受け取った。
「助かった!これで大便が出来る!」
すぐさま浣腸した。
「3分~10分…出たら晩飯を作ろう」
3人は歓喜の歌を歌った。
「ひゃっほ~!久しぶりのお兄の飯だ!」
「チルトンは名コックだからな!」
トムは1階の精肉所のような場所に向かった。
「「今日はチルトンの飯♪」」
愉快な兄弟は歓喜の歌を歌った。