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妻から見た勇者

勇者の行く末




地図の端にカルテスというド田舎な村があった。そこで、勇者が誕生した。

経緯を説明する。

野性的な勇者は戦闘が大好きで、その日も同年代の村民と楽しく戦いあっていた。弓も鏃は折ってあり、剣も全ての武器は刃を潰してあるため、大怪我はまず、ない。少々血気盛んな勇者は、ゲリラ戦法が好きだった。少数精鋭と巧く立ち回り、奇襲し、各個撃破する快感に彼は病み付きとなっていた。しかし、立ち回っている内に普段行かないエリアまで来てしまった彼は、小さな洞窟を見つけた。

ワクワクしながら突入すると、最奥にてよお解らん剣を発見した。

曰く付きに見える錆びだらけの刀身も気にせず、好奇心のままに手にとった。

すると、ぴかー!って閃光が走った。眩しくて目を閉じた彼が目を開くと、そこには錆びなどどこかへすっ飛んでしまった、白銀の刀身が手に収まっていたのだった。これが後に伝わる勇者誕生の瞬間である。

その後、天高くまで届いた光により都から来た使者が彼を連れていった。そして彼は天涯孤独な魔導師、女騎士、格闘少年の三人と共に悪の王を倒す。

凱旋後、故郷に帰った勇者は初恋の幼なじみとの再会も束の間。幼なじみの祖母の死に嘆き苦しむ。

また、その間に仲間の魔導師に初恋の君を奪われダブル喪失を彼は味わった。勇者としての栄光は掴んだが、一人の男としての栄光は掴み損ねたのである。

略奪愛を公言した勇者であったが、孤独な二人に"新たな家族"が出来た時に撤回した。同情で一緒になった二人が新たな家族を切っ掛けに、気持ちが愛情へと昇華したからであると彼は語っている。

その後、勇者は仲間の女騎士と婚――…


そこまで読んで、男性は本を壁へ叩きつけた。本のタイトルは「妻から見た勇者アルサルト・ボーダン」と書いてある。

彼は憤怒に染まった瞳で己の妻を睨む。


「何書いてんだシエラ」


優雅に紅茶を飲んでいた彼女は、冷ややかな笑みを作った。


「勇者サマの一代記よ。少年期、勇者時代、失恋期、婚姻期、堕落期を仲間として、妻として語ったものよ」

「こんなの俺様の恥さらし文じゃねえか!」

「は?」


反論した夫に、今度こそ彼女は笑みを消して冷たく睨む。


「アルサルト。あなたの一番の恥である浮気期はわざと外してあげたっていうのに…他にも、女騎士シエラと結婚後キーリアル、メルティア夫妻の娘を嫁に貰うと戯言を叫んだり、博打で散財して貯金を解放したり、最低の家庭を築いたって続きを書きたかったのに、世間に勇者の最低っぷりを黙ってあげたのよ私は」


げ、と漏らされた声に口の端があがる。今にも泣きそうな元勇者を見ていると、嗜虐心が擽られるのだ。元、仲間であるキーリアル・オルテガが勇者の幼なじみであるメルティア・バランダインを泣かせてあげたいと思ったのと同じ日に、騎士シエラも勇者の涙を見て泣かせたいと思ってしまったのだ。

勿論、魔導師と騎士の「泣かせたい」気持ちは全くの別物であるが。

余談だが、女運がとことん無い勇者の姿を見て、未婚で残されたた格闘家は頑張って光源氏計画を実行し、自分好みの奥方をてにいれたらしい。

お目汚しすみませんでした。

取り敢えず使わない設定を以下。




メルティア・バランダイン

勇者の隣人。勇者の一個上。


祖母と二人暮らし。

何気に料理を始めとして家事から、畑仕事までこなせる。割と気が強い。


アルサルト・ボーダン

勇者。破天荒。

メルティアが初恋で、一途に思っていたが…彼女の祖母に傾倒し過ぎていた為、フラグ不成立に陥る。

以後、略奪愛や幼女狙い、賭け事、浮気やら男としても破天荒な事をやらかすが…。


キーリアル・オルテガ

勇者の仲間いち。魔導師。

家族を自らの術で亡くした過去を持つ。その為、人を傷つける術法より治癒術を好む。

助けられなかった罪悪感と同情から名前しか知らないメルティアと結婚する。

話し方から推測するに、影のある、軽薄さをわざとらしさを装った男?古風なプロポーズをしたのは、交際経験値が少ないから。


シエラ・アーネード

勇者の仲間2。騎士。

Sチック。

勇者と後に結婚して「妻から見た勇者」を出版し、印税ざっくざく。


キルスタン・シー

勇者の仲間3。格闘家(未満)。本編では名前すら出なかった。

ついでに後に奥様となる方は十二下。会ったとき、格闘少年は十七歳でした。

普通の恋愛結婚を目指した末に、光源氏計画を決行してしまったらしい。




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