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#05 無神論者の幽霊 (前)

「肝試し?」

学校から帰るなり、私は居候の部屋へと訪れ、相談を持ち掛けていた。


「また、ずいぶん季節外れだなぁ。冬近いぞ、冬」

あぐらをかき、半分呆れ顔で聞いている居候。


その様子に、交渉失敗の予感がしながらも、私は話を続ける。

「クラスメイトが引っ越すことになって、最後の思い出作りをしようってことになったんです。

 それで、クラスにオカルト好きな男子がいて…」

「…はぁ」

溜め息がもれる。


それでもへこたれずに、話を続ける。

「未成年だけで夜出掛けるのはマズイってことで、一応保護者を立てようということになって…。

 それで、優子があなたのことを話しちゃて…」

「若いってのは、凄いねぇ。

 くだらないことに、ここまで情熱を傾けれるとは」

「…くだらないって、今まで散々オカルトに首突っ込んでたじゃないですか」

「肝試しほど、くだらないものはないよ。

 散々調子に乗って、いざ取り憑かれたら泣きつくんだろ?」

「う…」

やれやれというような顔。


「で?何処に行こうっての?」

「えっと…、確か、カミナ町という町だったと思うんですけど…。

 雑誌に載ってたし、近いしってことで。

 でも、近くにそんな町ありましたっけ?」

「やめとけ」

居候は、モモに頬杖を突きながらそう言った。


「カミナじゃなくて、カンナ。

 カンナ町っていうのは、正式な名前じゃなくて通称みたいなものさ。

 今は、合併して高枝市だったかな?

 神が居ない町と書いて、神無町」

「神が居ない?」

コクリと頷くと、少し姿勢を正した。


「日本って国は、神の国と昔から言われている。

 その理由は、八百万の神といって、全てのモノには神が宿り、何処に行っても何かの神様がいるとされているからなんだ。

 だが、神無町には神がいない。

 昔、ある事件があって、そこにいた神々が逃げ出したらしい」

「事件?」

「…詳しくは知らない。

 だが、あそこに近付いてはいけない」

目を閉じて、首を振る。


「その事件があってから、多くの人間があの町を去った。

 信心深い人はもちろん、あまりそういうのを信じない人まで。

 今、あそこに住んでいるのは、ごく少数の日本人と外国人労働者さ」


そんな町が、この近くにあったなんて知らなかった。

高枝市といえば、電車で二駅の場所だ。


「かなり治安も悪いし、事件も起きている。

 近付くなっていうのは、そういう意味でもある」

「…治安が悪いってのは、分かりました。

 でも、神様が居ないって、何か不都合でもあるんですか?」

「そこで死んだ人間は、成仏が出来ないらしい。

 死ねば、そこを彷徨い続ける。

 …神無町という土地のせいなのか、あるいは、そこにいる人間に問題があるのか」


そこまで言うと、何かを思い出したかのように、話し出した。


「こういう話を知っているか?

 世界一治安の悪い街、ヨハネスブルグ。

 そこでは毎日、人殺しが行なわれている。

 神も仏もありゃしない。

 警察も大変さ。


 それで、警察が犯罪者の取り調べをする訳だけど、その犯罪者達の供述がおかしいんだ。

 ある男は4人、人を撃ったと供述したが、実際の被害者は3人だった。

 また、ある男が7人殺したと言ったが、死体は4人分しか見つからなかった。

 おかしいだろ?

 被害者を多く言っても、なんのメリットもないのに。

 あまりにそういう事が多いから、犯罪者に殺した人数を聞くのはタブーとなっている」

「…幽霊を殺してたって事ですか?」

そう私が聞くと、手を拡げ肩をすくめ、「さぁ?」と、答えた。


「神に見放された土地ってのは、死者が縛りつけられる、この世の地獄なんじゃないか?」


殺されても成仏出来ず、幽霊になってもさらに殺され続ける、無限地獄のような異常な世界。

そんな場所が、本当にあるというのだろうか。


「…ということで、却下」

彼はそう言うと、私に背を向け寝息を立てた。


うーん。

はたして、みんなが言うことを聞いてくれるかどうか…。

私は、憂鬱な気持ちになりながら、居候の部屋を後にするのだった。



翌日。


学校へと列を成す高校生集団に飲みこまれながら、私は、昨日のことをどう説明すべきか考えていた。


オカルト好きに昨日の話をして、本当に中止に出来るのだろうか…?

寧ろ、逆効果な気がする…。

治安が悪いと言ったとしても、案外恐いモノ知らずなところがあるし。

…うーん。


結局、学校に着いても答えが出なかった私は、しかたないので話の流れにまかせることにした。

きっと、何とかなる…はず。


教室に入り、席につくと、さっそく一人の男子生徒が話しかけてきた。

「水無瀬!許可取れたか?」

「…それが、断られてしまって…」

「そっか~…」

男子生徒は、目に見えて落胆の表情を浮かべる。


彼が、この思い出作りの発案者である、同じクラスの山田君だ。

大のオカルト好きで、雑誌に載っていた心霊スポットなどを、親友の佐野君を引き連れ歩き回っている。

もっとも、佐野君はあんまり乗り気じゃないみたいだが。


こちらの会話を遠巻きに眺めていたその佐野君に、山田君が近寄り話しかける。


「佐野の兄貴も、やっぱ駄目なの?」

「…うん、無理。

 てかお前、水無瀬さんに呼び捨てとかスゲエな…」

「え?なんで?」

「なんでって…お前…」


二人して、こちらを見てくる。

どう反応したらいいのか困る。


「山田って、誰にでもああいう感じだよね」

「あ…優子」

いつの間にか女の子が二人、私の席の前に立っていた。


「お嬢で高嶺の花のマナカにも、ああだもんね。

 …そういう所を好きになったの?美樹は」

「っ!?もう、優子!」


ケタケタと笑いながら、優子が美樹をからかう。

美樹は、ふくれっ面をしながらも、何だか楽しそうだ。

じゃれ合っている二人を見ながら、私は少し感傷的な気分になっていた。


優子は、幼稚園からの幼馴染みで、少し男勝りな所がある女の子。

男子、女子共に人気が高く、私の一番の友達だ。

美樹も、小学校からの友達で、小さくて可愛い私達のマスコット的な存在。

そして何より、遠くに引っ越してしまう張本人。


思い出作りも元はといえば、三人で話し合っていたことだ。

その話を聞いていた山田君達が、「なら、肝試ししようぜ!」と、割り込んできたのだ。

最初は、「肝試しとかっ!無いわっ!」と、優子と二人で笑っていたのだが、美樹が顔を赤らめながら言った、「…面白そうだね。…肝試し」と、いう、鶴の一言で即決定してしまった。

そして、今に至る訳だ。


「しゃーない。俺達だけで行くか」

そう提案してくる山田君に、優子達も、仕方無いかと、頷く。


「夜遊びする事になっちゃうけど、最後くらいは…ね?

 男子!ちゃんと、私達を守りなさいよ!」

「…お前、オレ達より強いじゃん」

「佐野おぉぉー!」


優子が、佐野君を追い回す。

実に、見馴れた光景だ。


そんなことより、まずい流れだ。

完全に、行く方向になっている。


優子の佐野狩りを眺めながら、どう切り出そうか悩んでいると、意図せずしかめっ面をしていたのか、優子が佐野君の耳を引っ張りながら近付いてきた。


「マナカは、やっぱり厳しい?

 出来るだけ、早く帰るつもりなんだけど…」

「いや、それは大丈夫なんだけど…」

「けど?」


みんなが、美樹のために何かをやろうと思ってくれるのは、素直に嬉しい。

美樹の好きな人からの提案だというのなら、なおさらだ。

でも、危険が伴う思い出作りなら、やめておくべきだ。


行く気満々の彼らを、波風立てずにどう止めさせるべきだろう。

そのままの理由を言っても、きっと理解されないだろうし、逆効果かもしれない。


…そうだ。


治安が悪いのなら、事件が新聞記事になっているかもしれない。

それを見せて、諦めさせよう。


そう思いついた私は、みんなに返事を少し待って貰い、事件の記事を探すため、久しぶりに図書館へと足を運ぶことにした。



その日の夕方。

私は、図書館へと訪れていた。


久しぶりに来た図書館は、相変わらず木と本の匂いがして、なんだか落ち着いた。

前来たのは去年の夏休みで、避暑地として利用している人が多かったが、暑さが落ち着いたせいか、今は利用者が少ないようだ。

変わった場所はあまり無いが、注意の張り紙が少し大きくなったような気がする。


張り紙には、「本は、大事に扱いましょう」と、書かれている。

「本を乱暴に扱う人が増えたのかな?」と、悲しく思っていると、その文の続きが目に入った。


「特に寄贈された本は、入手が難しく…」

私は、見なかったことにした。


古い新聞が並べられているコーナーにたどり着くと、新聞が、前に比べて少なくなっているのに気付く。

どうやら、古い新聞はデータベース化され、パソコンで管理されているらしい。


私は早速、最近やっと出来るようになったブラインドタッチで、得意気に検索ワードを入力してみる。

やがて、検索結果として現れたのは、150件を超す事件記事だった。


「治安悪化憂れう。またも、外国人による傷害事件」

「ガソリンかけ、火をつける!28歳男を逮捕」

「ひと月に路上強盗3件。市民の不安つのる」


ゾロゾロと物騒な記事が出てくる。


自分が想像してた以上の、事件の多さと治安の悪さ。

居候が言ってたのは、本当だったんだ。

この記事を見せれば、きっと肝試しを中止に出来る。

そう思った私は、数件記事を抜粋した後、プリントアウトしてファイルに閉じた。


一仕事終えて図書館を散策していると、見覚えのある雑誌の表紙が目に止まった。


あれ?

これ、前に山田君が持ってきてた雑誌?


そこにあったのは、肝試しの場所を決める時、山田君が持ってきていた少し古い雑誌だった。

どうやら、この図書館には雑誌も置いてあるようだ。

そういえば、子供コーナーには、漫画が置いてあったような気がする。

何とも自由な図書館だ。


好奇心にかられ、数冊雑誌を手に取ってみる。

山田君が言うには、結構古く、今は廃刊しているため、手に入れることが困難な雑誌らしい。

現に山田君は、あの時持って来ていた、2000年7月号しか持ってなかった。

しかし、目の前にはその貴重な雑誌が、重複無しで20冊ほどある。

案外、穴場というのは、身近にあるようだ。


早速、神無町に関しての記事を探してみる。

情報は、あって困るものじゃない。


何冊かは空振りに終わってしまうが、次に手に取った2000年10月号。

2、3ページめくったところで、『特集』という大きな文字と、『カンナ町の謎に迫る!』という文字が、目に飛び込んできた。

心の中で、ガッツポーズをとりつつ、詳しく読んでいく。

その特集とは、神無町に半年に渡って滞在、調査するという、非常に物好きな企画だった。


私は、その10月号から順に数冊取ると、テーブルに移動し、その企画のページを開いた。

どうやら、私も物好きらしい。


記事は、『カンナ町は実在した!H県S町』から始まり、

『神無町の真実!裏に謎の男!』、

『次々起こる怪奇現象!調査断念も』と続く。

滞在記として、事細かに書かれているその内容は、非常に面白く興味深かった。


記事を読み終え、次の号で続きを探す。

しかし、どういう訳なのか、次の号には続きが載っていなかった。

休載なのかと思い、先の号を調べてみるが、次の号にも神無町の”か”の字も出てこない。

その沈黙は、廃刊まで続いた。


どういうことだろう。

まさか、神無町で何かあったのだろうか。

いや…でも、雑誌の話題作りとも考えられる。

しかし、企画が断たれて以降、記事どころか話題にも触れられない事には、何か違和感を感じた。


やはり、何か嫌な感じがする。

神無町には、行くべきじゃない。

私は、改めてそう決意し、図書館を後にするのだった。



翌日。


私は、みんなに図書館で調べた記事のコピーを見せると、この場所がいかに危険な場所かを説明した。

女子二人は、事件の新聞記事を見て、明らかに引いている。

男子もさすがに、困惑しているようだ。


うまくいくはずだった。

…彼が現れるまでは。


「あのさ~。オレ、その町に住んでるよ」

隣のクラスのイケメン風の男子、渡辺君だ。


「それ、数年前の記事だろ?

今は、別に事件とか起こってないよ。外国人は多いけど」

「え?そうなの?」

「うん。トラブルっていったら、外国人が公園でバーベキューしてるくらいだと思う」


確かにここ最近は、前に比べて、事件の記事はかなり少なくなったように思う。

でも、少なかろうが大きな事件は起きてるし、危険なのは何ら変わりない。

そもそも、長年治安が悪かったのに、急に治安が改善されるものだろうか?

新聞も、全ての事件を載せてる訳じゃないし、わざと載せないこともありうる。


そんな疑問を口にするも、

「心配性なんだよ、水無瀬さんは…。

 現に、オレやオレの家族はあの町で普通に暮らしてるし、事件なんて、どこででも起きてるでしょ」

と、反論される。


相反する二つの意見。


優子と美樹は、私の意見に賛同してくれたが、山田君達は決めかねているようだ。

多数決なら、もちろん私の勝ちだ。

だけど、例え今回中止になったとしても、山田君達だけで行くということになれば、まったく意味が無い。

私にとっては、全員に行かないと言わせることが、本来の目的なのだ。


しかし、山田君達が出した答えは、私にとって望まないモノだった。

「住んでる渡辺が安全だって言ってるんだから、大丈夫だろ」

「え…。で、でも…!」

「大丈夫だって!ちゃんと、気を付けるから!」


頼りない力こぶを見せながら、山田君が笑う。

気を付けるとか、そういう問題じゃないと思うんだけど…。


動揺する私に、さらに渡辺君が畳みかける。

「大体水無瀬さん、ちょっと失礼だよ。

 目の前の人間が住んでる町なのに、危険な町って…」

「…え?…あっ…ゴメン」

自分が、失言していた事に気付く。


「まあ、水無瀬も悪気無かったんだし許してやれよ。

 水無瀬も、もういいだろ?」

「…」

失言による罪悪感から、完全に気勢をそがれた私は、次の言葉を紡錘ぐ事が出来ない。

結局、結論は後日という事になり解散となった。


「はぁ…。情けない…」

話し合いの後、溜め息をついてると、優子に肩を叩かれた。

「マナカ。

 あんたが必死に止めてるって事は、何かあるんでしょ?

 私も美樹も、あんたが行くなって言うんなら行かないよ。

 でも、アイツらは多分行く。

 そうなると美樹が心配して、山田達について行くって、言い出すかも。

 …ねえ、やっぱりもう一度、マナカん家のアイツに頼んだ方が良いんじゃない?」


結局、居候に頼るしかないのか。

私は、自分の不甲斐なさに、心底失望した。



その日の夕方。

落胆して家に帰ると、居候が「ん?どしたの?」と声をかけてきた。

事の顛末を話すと、眉間にしわを寄せ、難しい顔になる。


「その渡辺って子は、すぐに引っ越したほうがいいよ。

 手遅れにならないうちに。

 事件が少なくなったからといって、治安が良くなったとは限らないよ」

「…じゃあ、まだ危険ってことですか?」

「うん。語弊があるかもしれないけど、潜伏期ってとこかな。

 多分、数年前、分譲住宅が安く売り出された時に、引っ越して来た連中じゃないのかな。

 じゃないと、正気じゃない」


…やっぱり、危険なのか。

優子の言うように、居候に付いて来て貰ったほうが良さそうだ。

でも、一度断わられたし…。

どう切り出そう…。


「それで、あの…」

「まったく…。

 しょうがないねえ、お前達は」


居候は、よっこらせと立ち上がると、押入れを探り、キーホルダー付きの鍵を取り出した。


そして、鍵を指先でくるりと回すと、

「付いて行ってやるよ」

と、私に笑いかけた。

#05 無神論者の幽霊 (後)に続きます。

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