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#01 双子のお守り 陽

※この作品は、短編小説「双子のお守り」と同一作品です

私の家は、人の出入りが多い。

現代では割と珍しい、家族ぐるみの近所付き合いが多いからなのかもしれない。

今日も、中庭では祖父と近所のおじいさんが、縁側では妹とその友人達が談笑している。


彼らとの挨拶もそこそこに、私は足早に玄関へと向かう。

そして、扉を開こうとした次の瞬間、それは突然開き、中から無精ひげを生やした甚平(じんべい)姿の男がのっぺりと現れた。

「おかえり」

我が家の居候(いそうろう)だ。

寝起きなのか、ダルそうに中庭を横切っていく。


私は、この男が苦手だ。

どこがどうということではない。

生理的というか、この男の全てに嫌悪感を感じるのだ。


祖父に呼び止められ、彼は老人の輪に混ざった。


なぜか彼は、祖父に気に入られている。

いや、祖父だけではなく、下の妹もすっかり彼に懐いている。

あの男のどこに魅力があるのだろう。

私は彼に、一応恩があるのだが、やっぱり好きになれないでいた。


ジマジマと彼を観察していると、縁側の妹達の会話が耳に入ってきた。

「小人が部屋に住んでる?」

「うん。サエちゃんなら、アレが何なのか分かるかなって思って」

唐突に飛び込んできた、なんともメルヘンチックな会話。

私の興味が、あの男から妹達の会話へと移った。


ウチの妹達には霊感がある。

上の妹はそれが認められて、近所の神社で巫女さんの真似事をさせられてるし、下の妹もそれなりに騒動を巻き起こす。


私は…。

あの一件以外は、特に霊との関わりを持った事がない。

その一件も、半分夢見心地だったわけだし…。


「小人ねぇ」

細く高い会話の中に、低く汚い声が混じりこんだ。

見てみると、彼が女子中学生の輪の中に混じり込んでいた。

ギョッとして驚いている友人達を尻目に、彼は(あご)に手を当て「う~ん」と考え込んでいる。


「色んな小人の話を聞くけど、小人ってのはロクなヤツがいないんだよなぁ」

「えっ?」と、相談した本人が(つぶや)く。

「絵本の世界では、妖精や小人は主人公を助ける良きサポータとして描かれているけど、現実の体験談だと、不幸をもたらしたり、邪悪なものが多かったりするのさ」


場の空気が変わる。

相談者も不安そうにしている。

あ!空気読めないって、こういうことを言うんだ!と、私は自分の中で納得した。


しばらくの沈黙の後。

「よし!任せろ」と、ニカッと笑いながら言うと、乱暴に靴を脱ぎ、縁側から屋内に入っていった。

残された妹は、驚いている友人をフォローしながらも、彼を信頼しているのだろう。

「大丈夫」と、しきりに繰り返している。

やがて奥から母を呼ぶ声が聞こえ、なにやら話し込んだかと思うと、「三日、俺にくれ」と言いだした。

相談した彼女は、「はあ」と答えるしかないようだった。


夕食後、家族が談笑する中、彼は縫い物を始めた。

慣れない手つきで、見てて危なっかしい。

談笑していた家族も口数が減り、だんだん彼の裁縫技術に目が釘付けとなる。

もちろん、悪い意味で。

母と祖母にいたっては、代わりに縫ってあげようかしらとばかりの表情だ。

「お構いなく」との彼の一言で家族は談笑に戻ったが、結局、皆彼が心配のようでチラチラ様子をうかがっていた。


二日後、彼はそれを完成させた。


幸い、指には絆創膏が巻かれていなかった。

「血が入るとマズいんだ」と彼は言っていたが、ならばなおさら、母に任せた方が良かったんじゃないかと思ったが、口にはしなかった。

「これで仕上げ」

彼はそう言うと、自分の髪の毛を二本抜き、それぞれに一本づつ入れ込んだ。



その日の夕方、妹とその友人に連れられ、例の相談者がやってきた。

気のせいか、少しやつれているようだった。

「おうおう、いい具合になっちゃって。

 もしかして、何かチョカイでも出しちゃたか?」

彼は、嬉しそうに彼女を迎え入れる。

「…」

彼女は、今にも泣きそうな表情で、頭を縦に振った。



いつの間にか、机の引き出しに住み着いていた小人。

父、母、子供の三人家族らしい。


今までは恐ろしくて、見て見ぬ振りをしていた彼女。

三日前のあの日、あの変人に不幸を招くと言われ、それがどうしても信じられず、とうとう行動を起こしてしまったらしい。


「初めまして、じゃないよね。こんにちは、小人さん」


はにかみながら挨拶をし、手を差し出す彼女。

驚く小人達。

しばらく、小人と彼女との間に沈黙が流れる。

しかし小人達は、三匹で何事か話し合った後、ニタリと笑ってどこかに行ってしまったそうだ。

彼女は、その笑顔に何か嫌な予感を憶えながらも、大丈夫と自分に言い聞かせ、その日は眠ったらしい。


そして、次の日から家族も小人を見るようになった。


それも頻繁に。

引き出しを開けるごとに飛び出してくる小人に、だんだん彼女一家は憔悴していったという。


彼は、その話を目を(つむ)ってふんふんと聞いていた。

「私のせいだ」

目に涙を溜め、話をしていた彼女は、とうとう泣き出してしまった。

「小人の事は、前から家族に話していたのか?」

彼女は(うなず)いた。


「そっか」と、彼は鼻から息をふき出すと、三日かけて作り上げた例のものを取り出した。


二体の顔の無い人形。


両方とも同じ形で顔がない。

だれもが、禍々(まがまが)しさを感じるようなデザインだ。


「本当は一体で十分だけど、案外裁縫が楽しくて、もう一体作っちゃた」

はにかみながら、そう言う彼。

可愛くない。

「こっちがオスで、こっちがメスだ。ま、双子ちゃんだな」

そう言いながら、オスと言った方を彼女に差し出す。

「ま、お守りと思って持っときな」

(わら)をもすがる想いなのだろう。

彼女は、お礼を言いソレを受け取ると、カバンに大事にしまい込んだ。


もう一つの人形のほうをどうするのかなと思っていたら、

「ほい、こっちは可愛いサエちゃんにな」

といって、妹に差し出していた。


私の視線に気付き焦ったのか、

「マナちゃんは可愛いというか、綺麗な感じだし。

 人を寄せ付けないって言うか・・・もちろん良い意味でだよ。

 サエちゃんは、ほっとけないと言うか何というか」

などと、しどろもどろに弁明めいたことを言っていたが、私は「ロリコン」と心の中で呟いた。


相談者が帰った後、遠い目をしている彼に話を聞いた。

「まあ、妄想や創作もあるだろうな」

少しづつ暗くなっていく空を眺めながら、彼は呟いた。

「今更ですけど、小人=悪意って、本当ですか?」

「俺も、話に聞いただけさ。小人の解釈にも、よるんじゃないか?

 小人に羽を付けたら妖精だ。青い光を(まと)ってれば精霊か?

 妖精はどっち付かずな印象だけど、精霊は良い者とされているわけだし」

どうも的を射ない解答だ。

「そもそも、彼女が見たのは小人だったのかねえ」

何を言っているんだ、この人は。

「そんなこといったら、大前提が崩れるじゃないですか」

「何か、胡散臭いんだよな。あの子の話、聞いてると」

「彼女が嘘を付いてるって事?でも、家族も見たらしいし、それは無いんじゃないですか」

「…まあ、そうだな」と、彼は頭を掻いた。

「何故、小人は現れたのか…」

彼はそう呟くと、どこかに出かけていったきり、その日は帰ってこなかった。



次の日の夕方、例の相談者がやってきた。

血相を変えて。


彼女はあいつを見つけると、「どういうことなんですか!?」と詰め寄った。

「どういう事って何が?」

とぼけた顔をして、酢コンブをくわえている彼。

「だって…だって…」

そこまで言うと、彼女は泣きながら崩れ落ちた。


あの後、家に帰った彼女は、自分の机に人形を置き、家族と夕飯を食べていた。

そして戻ってみると、人形は机の上にはなくタンスの上に移動していたそうだ。


私は、それを聞いた瞬間、「呪いのアイテム」という言葉が頭に浮かび、彼を見たが、彼の表情に変化はない。


「気味が悪かったから、そのままにしといたんですけど…」


彼女が、自分の机で勉強をしていた時に事は起こった。


背後にあるタンスから、何やら音がする。

何かが、内側からタンスを押し開いているような音。

恐る恐る振り返ると、例の小人がタンスから這い出る所だった。


と、次の瞬間。


ガブッ!!


あの人形が、小人の喉元に噛み付いていた。

顔が無いはずなのに。

小人は、悲鳴を上げようとするが、声にならない。

もがき苦しみながらも、胸元から何かを取り出そうとする小人。

だが、人形は体を押し付け、取り出すのをブロックする。

やがて、小人は視点が定まらなくなり、血混じりの泡を噴き動かなくなった。

それでも、容赦なく喰らい続ける人形。

後に残されたのは、血溜りと、口の部分が裂けた人形だけだったという。


口を覆い、嗚咽(おえつ)に堪えながら語る彼女は、とても嘘を言ってるようには見えなかった。

まるで楽しみながら小人を追い詰める人形の姿と、骨を噛み砕く音がまだ耳に残ってるのだという。


そんな彼女に、同情も容赦もなく彼は質問を浴びせかける。

「どいつだ?どいつを喰った?」

「…子供…です」

「よっし!」

拳を上に突き上げ歓喜する彼。

私の拳が右頬に突き刺さり悶絶する彼。


「胸元から取り出そうとしたもの、何だったと思う?」

右頬をおさえながら、彼は彼女に真面目に聞いた。

「見ただろ、君は」

青ざめた顔で、ゆっくりうなずく。

「おそらくは得物だ。何故、得物を持ってたんだろうね」


確かに、変だ。

一つ屋根の下に変な男が住んでいる私でさえ、持ち歩いてるのは防犯ブザーくらいだ。

よほどの事が無い限り、武器など持ち歩かない。

持ち歩いていたとするならば、恐らく…。


「だが、ここで疑問が残る。

なぜ、悪意を持っているにも関わらず、君と君の家族に危害を加えて無いんだろうか」


さらに、自論を掲げた。

「小人イコール悪意の象徴だと仮定しよう。

 ならば、誰の悪意なんだろう。

 ある日、突然に現れた理不尽という名の悪魔?

 誰かを恨んでいる誰かの呪い?そこらへんを漂っている悪意?悪霊とか?

 そもそも、驚かす事が悪意なのだろうか?

 いや、違う。悪意の矛先は違う場所に向いている。

 では、その悪意を向けられるべき相手は誰だったのだろう」


雄弁に語る彼の姿は、さながら刑事ドラマの主人公のようだ。

良く咬まないなと、要らぬ所で感心する。


一息整えると、彼は眉をひそめ彼女に近付き、こう言った。

「君は、何か隠し事をしてるね」

彼女は、詰め寄られ目を伏せる。


彼女の答えを聞く間もなく、彼は一冊の本を取り出した。

白い表紙に、シンプルな英表記。

名は【ウナ カンパーナ】。


「この本は、海外で出版された本を日本語訳したモノなのさ。

 自費出版で出回ってる数は少ない」

よく見ると、小さな文字で箒星と書かれていた。

どうやら翻訳者の名前らしい。


「書いてあるのは、ある本の訳を、翻訳者の見解を混じえて書いてある珍しいモノ。

 中には、珍しいまじないやジンクス等も書かれてたりもする」

いぶかしげな顔で本をパラパラ捲り、時々手を止め、おまじないらしき記述を見せてくる。


やがて、目的のページを見つけたのか、手で織り目をつけ、こちらに大きく見開いた。

「望みを叶える兄妹の精霊。

 だが、望むモノは選べない。夢、心に潜む願望」

その言葉を聞き、彼女は俯き涙を浮かべる。


たしかに、女の子が好きそうな話だ。

同年代の女の子達は、きっと興味をしめすだろう。


さらに続きを読む。

「表側の望みを叶えてくれるのは兄、ヘンゼル。

 心に潜む願いを叶えるのは妹、グレーテル」

その一文の横には、羽が生えた可愛い兄妹のイラストが書かれている。


「初めて小人を見た時、君はさぞ嬉しかっただろう。

 見た目は想像したものとは違ったが、どう見てもオスだったんだからね」


ヘンゼルと書かれた、可愛い男の子の方を指さす。


「望みを叶える精霊ヘンゼル。

 でも君は、本当にヘンゼルなのか、確信が持てないでいた。

 そこで君は、安心材料を得るためサエちゃんに相談することにする。

 だが、俺のあの一言で、君は不安にかられてしまった。

 もしかしたら、自分が呼び出してしまったのは、グレーテルなのかもしれない」


結論ありきの相談だったわけだ。

でも、求めた答えが得られず、彼女は動揺し、小人に話しかけるという行動にいたったという訳か。


「さらに、予想外のことが起こった。

 君が、彼らと接触したことによって、望みが羽化(うか)してしまった。

 結果、今まで自分にしか見えなかったモノが、他人にも見えるようになってしまった」


「羽化?」

聞きなれない言葉に、思わず言葉が出ていた。


「まあ、思いの力が強くなったってことさ。

 彼女が話すことによって、その力は他の人を巻きこんでいく。

 集団催眠と言ったほうが、いいのかもしれない。」


話を聞くとかかる、集団催眠…。


「そして、両親が小人を見るようになった。

 だが、あの話を聞いた俺達の前には現れない」


たしかに、私達の前には現れていない。

サエでさえも気付いてないという事は、本当にいないのだろう。

しかし、彼女の話を私達も聞いたはず。

集団催眠にかかっていても、おかしくはないはずだ。


「いや、そもそも俺達の前に現れる必要が無かったのさ。

 それは、彼女の望みが関係している」


彼女の願い…。


「ところで質問なんだが、君は何故小人をヘンゼルだと思ったんだい?

 小人の中には、母親もいたんだろ?」


確かにそうだ。

私も、ずっと思っていた疑問。

彼女は何故、母親もいたのに小人を男だと思ったのだろう。


彼女は、困惑しながら答えた。

「え…、だって、小人は全員同じ顔で…顔が男っぽかったし…。

 …え?あれ?……あれ?」

「そう。だったら余計おかしいよね。

 なんで、君は同じ顔の三匹を家族と思ったんだろう」


ますます謎が深まり、気味悪さに支配される。


「実は、この【ウナ カンパーナ】って本、とんでもない悪意に満ちた代物でね。

 厄介な嘘が散りばめられているのさ。

 まず、この本に書かれたまじないは、八割方が嘘。

 そうすれば、よくあるまじない本と認識され、本物として取り扱われない。

 もちろん、発行部数が少ないのも、翻訳本として出してるのも計算の内さ。

 そして、二割の本物のまじないにも、嘘が散りばめられている。

 この兄妹精霊のまじないに関しては、そもそも兄がいるというのが嘘なのさ」


「え!?」

二人同時に声を上げる。


つまり、彼女はあの本に踊らされていたわけだ。


「心に秘めた願望だけを叶える化け物、グレーテル。

 その姿は、望んだモノを形取っている」


彼女の秘めた願望とは何なのだろう。

彼は、人差し指を立てる。


「実は、この話で登場してない人物がいる」


一呼吸おき、彼は語りだす。

「君の家族は何人だ?」


ハッとしたように、彼女は顔を上げる。


「実は、彼女には姉がいるのさ。

 大学に通うため、都会で一人暮らしをしているんだ。

 その姉が、もうすぐ帰ってくる。地元で就職するためにね」


顔が青ざめ、ワナワナと震えはじめる。


「ここで、小人の数が重要になってくる。

 彼女一家の人数は4、小人の数は3。

 小人の数が、悪意を持った人間の願望だとしたら」


彼女は、体を抱え込むようにして震えている。


「だとするならば、悪意を持った人間と、その矛先は…」


最低だ。

中学生の女の子を、そこまで追い詰める必要があるのだろうか。


堰を切ったように、彼女はむせび泣く。

痛々しげに、声を押し殺して。


「君は、無意識に姉に対するコンプレックスを抱え込んでいたのさ。

 常に前を行くお姉ちゃん。美人で、頭良くて、自分には決して追い付くことができない。

 でも、姉が遠くの大学に行くことになって離れることにより、最近は心穏やかに暮らしていた。

 ところが、どういう訳か地元で就職することになった。

 内心、穏やかじゃなかったろうね」


彼女は、ただただ泣き続ける。

無意識とはいえ、自分が実の姉に危害を加えようとした衝撃は、量り知ることは出来ない。

しばらくの間、私は、彼女の震える背中を見つめていることしか出来なかった。


「ほい、酢コンブ」

彼が、小さい長方体の箱から一枚酢コンブを差し出す。

「知ってるか?酢コンブ食べると、頭が良くなるらしいぜ」


聞いたことの無い健康情報だ。

お昼の健康番組のような、胡散臭さを感じる。


「…咀嚼(そしゃく)で、脳を活性化させるから?」

意外なことに、その言葉を聞き、彼女はゆっくりと顔を上げる。


コクリと頷き、続ける。

「実は姉ちゃん、もう帰ってきてるのさ」

「え?」


彼女の顔が、驚きの表情へと移り変わる。


「姉ちゃんな、実は、東京で就職に失敗したのさ」

「お姉ちゃんが失敗…」

「まあ、お姉ちゃんも人間ってことさ」


呆然としている彼女に、さらに続ける。


「君が、自分にコンプレックスを持っていたのも知っていた。

 だから、実家に住まず、市内で一人暮らしをすることにしたんだ。

 君の負担にならないようにね」


そこまで聞くと、全てを悟ったのか、彼女は差し出された酢コンブを震える手で受け取った。

そして、酢コンブを口にふくむと、震える唇で微笑んだ。


「頭良いくせに、テレビで言われた事はすぐ信じちゃうんだから」


目にはみるみる涙が溜まり、大声で泣き続ける。

今度は、堪えることなく。



しばらくの後、妹に抱き支えられる彼女を遠目で見ながら、彼は酢コンブを食べていた。


昨日、私と話した後どこかに出かけていたのは、彼女の家族に会うためだったようだ。

姉にも会い、話を聞いてきたらしい。


「失敗を隠し歯を食いしばって、妹の道標になろうとした姉と、それが逆にコンプレックスになり苦しむ妹か。

 つくづく人間って、分かりあえない生き物だな」


彼女の姉も、苦しんでいたようだ。

出来の良い妹を持ち、片意地を張って生きる必要のない自分にとっては、理解出来ようもない話だった。


「苦しかったとおもうよ。弱みを見せないっていうのは」


悲しげに微笑む彼の表情は、今まで見たことのないくらい人間的だった。


「でも、大丈夫さ。

 二人とも、心の中では好き同士なんだし」


そう言うと、胸元から口の部分が裂けた、あの人形を取り出した。

そして、口の部分をまさぐると、中から二つの物を取り出した。


ペーパーナイフと白い薔薇。


「愛情と憎悪は、表裏一体って事かな」


私は、この男が嫌いだ。

でも、少しだけ…。

少しだけ…。

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