↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR

もう王家には従いません

もう王家には従いません ~家族全員で転生した伯爵家と、うちの猫の物語~

掲載日:2026/09/20

主要人物紹介

挿絵(By みてみん)

イラストは、C hat GPTで作成しています

王都の王城。


煌びやかなシャンデリアが輝く大広間では、今夜も多くの貴族たちが集まり、華やかな舞踏会が開かれていた。


その中央に立っていたのは、グランベル伯爵家の令嬢にして、第二王子の婚約者であるアリシア。


艶やかな栗色の髪を肩のあたりでゆるくまとめ、深い青色の瞳を持つ彼女は、派手さこそないものの、落ち着いた美しさを備え、穏やかな顔立ちには知性と優しさがあり、微笑めば自然と人を安心させるような雰囲気を持っている。


王都では密かに「実りの伯爵令嬢」と呼ばれている。


領地経営にも農業にも積極的に関わり、領民たちとも気さくに接する彼女についた呼び名だった。


一方、その隣に立つ妹リリアは、姉とはまったく違う美しさを持っていた。


月明かりを思わせる淡い銀色の髪。

透き通るような白い肌。

薄紫色の瞳。

華奢な身体と、どこか儚げな雰囲気。

まるで触れれば消えてしまいそうな美貌の持ち主で、王都では密かに「春の妖精姫」と呼ばれていた。


そしてリリアのすぐそばには、婚約者であるセドリック・ヴァレンティス公爵令息。

黒に近い濃紺の髪。

端正な顔立ち。

鋭く見える灰色の瞳は、リリアを見る時だけ柔らかくなる。

公爵家の三男で、幼い頃からリリアと親しく、彼女を心から大切にしている青年だった。

リリアとの結婚後は、伯爵家を引き継ぐ予定になっている。


「リリア、大丈夫か?」


「ええ。ありがとう、セドリック」


二人が微笑み合う。


その光景を見ながら、アリシアは穏やかに笑っていたが、その笑みに影がさしていた。

隣の父親に話しかける。


「……お父様。本当に第二王子殿下はいらっしゃらないのですか?」


アリシアが小声で尋ねる。


「来るとは聞いていたんだがな」


父であるグランベル伯爵は、困ったように眉を寄せた。今夜は王城主催の大規模な夜会、本来なら第二王子フェリクスがアリシアをエスコートするはずだった。しかし、約束の時間になっても現れなかった。仕方なく、グランベル伯爵家は家族四人で王城へ来たのである。


「お姉様、気にしないほうがいいですよ。殿下も何かご用事があったのでしょう」


リリアが姉を気遣って笑いかける。


「……そうね」


アリシアは微笑んだ。だが、胸の奥には嫌な予感があった。


そして、その予感は的中する。


       ◇


「皆の者、聞いてくれ!」


突然、大広間の中央から大声が響いた。第二王子フェリクスが大広間の中央へ歩み出た。

ざわり、と周囲が静まり返る。

フェリクスは、アリシアを真っ直ぐ見つめて堂々と胸を張った。


「私はここに、アリシア・グランベルとの婚約を破棄すると宣言する!」


ざわっ――。


大広間が一瞬で静まり返る。

何を言われたのか理解できなかった。


「……え?」


アリシアの父、グランベル伯爵も

母である伯爵夫人も

妹のリリアも

全員が言葉を失った。


政治的な意味を持つ婚約だった。

グランベル領は、この国最大の食料生産地。王国の穀物、野菜、家畜、その多くをグランベル領が支えている。

そのため、王家とグランベル伯爵家の婚姻は、両家だけではなく、王国そのものの安定にも関わるものだった。


それを、こんな大勢の前で…。

フェリクスは、アリシアの隣の指差した。


「私はリリアを愛している!初めて会った瞬間、私は運命を感じた。アリシア、お前との婚約など必要ない!」


大広間が凍りつく。

そして、その瞬間だった。

アリシアの頭の中に、突然、知らないはずの光景が流れ込んできた。


――白い天井。

――小さな家。

――家族四人で囲む食卓。

『美羽、お醤油取って』

『はいはい、お母さん』

自分の声。

いや、自分ではない誰かの記憶。

次々と映像が押し寄せてくる。

田舎の小さな職場、事務員として働く自分。

父と母は定年退職していて。

妹の美紅は、もうすぐ結婚する予定だった。


そして、家には一匹の猫がいた。

茶色と灰色が混ざった毛。

胸元には少し変わった白い模様があった。

保護した猫。

家族みんなで大切に育てていた。

名前は――。


「……ミケ」


アリシアの唇から、ぽつりと声が漏れた。


その瞬間、隣にいたリリアが、大きく目を見開いた。


「……美羽……おねぇちゃん?」


「……!」


アリシアの胸が跳ねる。

その呼び方、その声、それは、かつて何度も聞いた声だった。


「……美紅?」


リリアの瞳から、涙がこぼれた。


「美羽おねぇちゃん……!」


「美紅……!」


二人は互いを見つめた。

そして、グランベル伯爵と伯爵夫人も、震えるように顔を見合わせた。


「まさか……美羽……なのか?」

父が呟く。


「あなた……まさか、この子たちは……美羽と……美紅なの?」


母の目から涙が溢れる。

四人の視線が交差した。

そして、ようやく理解する。

この家族は、前世でも家族だった。


父

母

姉の美羽

妹の美紅


そして――。


「ミケ……」


四人の口から、同じ名前がこぼれた。

前世の最後の夜、家族四人で食卓を囲んでいた。

突然、大きな地震が起きた。

家が崩れ、逃げることもできず、四人はそこで命を落とした。そして、大切な家族の一員だったミケも、同じ夜に命を落としていた。


「……家族だったんだ……」


美羽――今のアリシアは、震える声で呟いた。

四人は、互いを見つめた。

前世で失った家族が、転生してからずっと一緒で、今を生きている。

それだけで、胸がいっぱいになった。


「おい!」


フェリクスの苛立った声が響いた。


「何をしている!」


四人は振り返らない。


「聞いているのか!」


それでも反応しない。


フェリクスの顔がどんどんと赤くなる。


「私が婚約を破棄すると言っているのだぞ!」


その怒声で、アリシアはようやく我に返った。


「……あ」


そして、静かにレオンハルトを見る。


「承知いたしました」


「……何?」


「婚約破棄を、お受けします」


まさかすんなりと承諾すると思っておらず、てっきりアリシアが泣いて縋ってくると思っていたフェリクスは目を丸くした。


「はい」


アリシアは穏やかに答えた。


「殿下ご自身が婚約を破棄するとお決めになったのですから。私は、そのご決断を受け入れます」


フェリクスは、なぜか少し拍子抜けしたような顔をした。

しかし、すぐに胸を張る。


「そうだ。それでいい!」


そして、リリアへ視線を向けた。


「では、リリア。お前を次の婚約者にする!」


「お断りします」


即答だった。


「……何?」


「私はセドリックを愛しています」


リリアは、セドリックの手を取った。


「私の心は、ずっと彼のものです」


セドリックも一歩前に出る。


「殿下。リリアの気持ちは、本人の意思として尊重していただきたい」


「黙れ!」


レオンハルトが怒鳴る。


「私は第二王子だぞ!」


その瞬間。


――ズズン。


大広間の空気が震えた。


「な、なんだ……?」


王族も貴族も、一斉に入口へ振り向く。

そこにいたのは、巨大な白銀の獣だった。


大きな身体

長い尾

額には宝石のような角

王国の歴史において、王家に仕える守護獣として知られる存在。


「聖獣……?」


誰かが呟いた。

聖獣は、ゆっくりと大広間へ入ってくる。

聖獣は王家の象徴。

王家と契約して、国に隣国が攻め入った時、その力を持って国を守る守護獣で、本来は王城の奥の広場から出てくることは滅多にない。

その聖獣が、何故かパーティーに現れた。

王族たちは息を呑んだ。

しかし、聖獣は王族の前を通り過ぎた。


そして、まっすぐグランベル家の前へ向かった。


「……え?」


父の前で立ち止まる。


すり。


巨大な頭を、父の胸へ押しつける。


母にも近づく。


すりすり。


そしてアリシアの前へ。


「……まさか」


白銀の毛並みの中、胸元に小さな見覚えのある白い模様がある。

前世のミケと、まったく同じ場所。


「ミケ……?」


聖獣が顔を上げた。


「にゃあ」


「…………」


アリシアの目から涙が溢れた。


「ミケ!」


聖獣は嬉しそうに喉を鳴らした。


ゴロゴロ。


ゴロゴロ。


巨大な身体をアリシアへ擦りつける。


「本当に……ミケなの……?」


「にゃあ」


母が泣きながら抱きつく。

父も目元を押さえる。

リリアも泣きながら、その毛並みに触れた。


「ミケ……帰ってきたんだね……」


すると聖獣の身体から、柔らかな光が溢れた。

アリシアの手の甲に紋章が浮かぶ。

父にも。

母にも。

そしてリリアにも。


「聖獣との契約……?」


誰かが震える声で呟いた。

四人全員が、聖獣との契約者となった。

王族の守護獣とされていた聖獣が、王家ではなく、グランベル家を選んだ。その事実に、大広間は騒然となった。


そして、一番慌てたのは、フェリクスだった。


「ま、待て!アリシア!」


彼は慌ててアリシアへ駆け寄った。


「先ほどの婚約破棄は撤回する!」


「……はい?」


「やはり、お前との婚約を続ける!」


アリシアは静かに首を横に振った。


「お断りします」


「なぜだ!」


「殿下ご自身が破棄された婚約です」


「だが!」


「私は、もう受け入れました」


その言葉には、以前とは違う強さがあった。

誰かの都合で、自分たちの人生を決められたくない。

その気持ちは、家族全員同じだった。

やがて、グランベル伯爵が王へ向かって頭を下げた。


「陛下」


「……何だ」


「我がグランベル領は、これまで王国に多大な貢献をしてまいりました」


王は黙っている。


「王国最大の食料生産地として、毎年大量の穀物や農産物を納め、飢饉の際には備蓄を放出し、領民の暮らしを守りながら王国全体の食を支えてきたのです」


「それは承知している」


「では、陛下にも理解していただきたい」


伯爵は顔を上げた。


「グランベル領は、王家の私有物ではありません」


ざわめきが広がる。


「我らが納めてきた税も、食料も、領民たちの労働によって生み出されたものです。そして我々は、王家との婚姻によって、その安定を維持することにも同意してきました」


伯爵はフェリクスを見る。


「ところが、その婚姻を王子殿下ご自身が一方的に破棄された」


「……」


「さらに、今度は妹リリアとの婚姻を一方的に求められた。しかし、リリアにはすでに愛する婚約者がいます」


セドリックが一礼した。


伯爵は続ける。


「王家が我らの人生を自由に決められるのであれば、これまで我々が王国へ提供してきた安定と、王家が我々に求めてきた忠誠との間に、もはや対等な関係はありません」


王が眉をひそめた。


「では、何を望む」


伯爵は、はっきりと言った。


「グランベル領の独立です」


大広間が静まり返った。


「馬鹿な!」


王が声を荒らげる。


「グランベルが独立すれば、王国の食料供給はどうなる!」


伯爵は動じなかった。


「そこです」


「何?」


「これまでグランベルが王国に食料を供給してきたのは、王家に命じられたからではありません」


伯爵は静かに続けた。


「王国とグランベル領が、互いに支え合う関係だったからです。独立したからといって、明日から国境を閉ざすつもりはありません」


貴族たちがざわつく。


「我々は、これまで通り農業を続けます。そして、王国が必要とする食料については、正式な交易契約を結ぶ用意があります」


「……交易だと?」


「はい」


伯爵は頷いた。


「これまでのように、王家の命令で供出するのではない。必要な量を、適正な対価で取引するのです」


これは、単なる反発ではなかった。

グランベルには広大な農地がある。

農業を支える領民がいる。

独自の倉庫と流通網もある。

そして何より、王国側もグランベルの食料を必要としている。

だからこそ、互いに戦うより、対等な交易関係を築く方が現実的だった。


「それに――」


伯爵は家族を見る。

妻。

娘たち。

そして、巨大な身体を丸め、アリシアの足元に頭を擦り寄せているミケ。


「我々には、守るべき家族があります」


その言葉に、アリシアは小さく微笑んだ。


「もう、誰にも家族の人生を決めさせません」


父の言葉に、母も頷く。

リリアはセドリックの手を握った。

セドリックも、その手を強く握り返す。


そして、セドリック一歩前に出て、王へ向かって頭を下げた。


「ヴァレンティス公爵家の人間としてではなく、リリアを愛する一人の人間として、グランベル家が自らの領地と家族を守る決断をしたのなら、私はその意思を尊重します」


王はしばらく何も言えなかった。

王国最大の食料生産地。

その領主一家。

そして王家の守護獣だった聖獣。

すべてを敵に回してまで、無理に繋ぎ止めることが得策なのか、それを考えざるを得なかった。


「……分かった」


低い声が響く。


「グランベル領の独立について、正式な協議を行う」


こうして、グランベル領の独立への道が始まり、それから数か月、正式な条約が結ばれた。

グランベルは独立領として認められ、王国とは友好交易国として関係を築くことになった。

農業は以前にも増して発展した。


アリシアは父とともに領地経営に携わり、より効率的な農法や備蓄制度を整えていく。

母は孤児や高齢者を支える施設を作った。

リリアはセドリックとの結婚し、二人は穏やかな日々を過ごしている。


そして、


「ミケ!またつまみ食いしたでしょう!」


「にゃあ」


「その顔は絶対に反省してない!」


巨大な聖獣は、堂々と尻尾を振る。

前世では小さな猫だった。今では、王国を震え上がらせるほどの聖獣。

それでも、


「ほら、アリシアおねぇちゃん。ミケ、またお魚狙ってるよ」


「本当に食いしん坊なんだから」


「あなたたち、ミケばかり構ってないで、ご飯を食べなさい」


「ははは」


家族の笑い声が食卓を包む。


かつて失った家族。

もう一度出会えた家族。

そして、帰ってきてくれた大切な猫。

アリシアは、ミケの頭を撫でながら微笑んだ。


「今度こそ……ずっと一緒だね」


「にゃあ」


窓の外には、広大な畑が広がっている。

黄金色の麦が風に揺れていた。

誰かに決められた未来ではない。

自分たちで選んだ未来。

家族で笑って、家族で食卓を囲んで、大切な人たちを守りながら、生きていく。


それだけで、今度の人生は、十分に幸せだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。