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遠い旋律  作者: 神山 備
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オレの女

-10月-

高広の大学のオケの定期公演が近づいて、私たちは会えない日々が続いた。

「明日、練習速く終わりそうだし…そっちのシフトはどう?出てこれるか。」

私は暇を見つけて会おうとしてくることが嬉しかった。

「日勤だから、夜は大丈夫だよ。」

「じゃぁ、8時に駅でも良いか。」

「OK。」


でも、待ち合わせ場所に高広はなかなか来なかった。私はイライラしながらそれでも彼を待った。途中からちらちらと私を見ている男性がいる事に気付いてはいたけど、私は別に気に留めてはいなかった。


小一時間くらい経った頃だろうか、いきなりそのちら見の男性が私に声をかけてきた。

「カノジョ、さっきからずっと待ってんじゃん。もう来ないんじゃないの?そんな薄情な奴を待つより、俺とお茶しない?」

暇な奴、ナンパするのにさっきからこの辺うろうろしてた訳?!私がそいつに背を向けてシカトしてると、そいつは私の前に回り込んで来てまで話を続ける。

「もう、絶対に来ないよ。振られたんだよ、キミ。だから、俺とさぁ…」

そいつはそう言いながら、ニヤニヤ笑いで迫ってきた。私が恐怖で歪んだ顔で後ずさりしているのに、駅を行き交う人々はみんな知らん顔をで通り過ぎていく。


「おい、お前!オレの女に手出してんじゃねぇよ、離れろ!!」

その時、後から高広の声がした。

「ちぇっ、来やがったのかよ…あんしんしな、まだ手なんか出してねぇよ。」

男はそういうと、高広を上から下までざーっと見て、

「へぇ、坊やはこんなオネーサンが好みな訳。このぷよぷよ感がたまらないってか?!おめぇ、10年はやいんじゃね?」

と言った。

「何だと!オレは坊やなんかじゃねぇ!!」

日頃からベビーフェイスなのを気にしている高広は、男にそんなことを言われて一気に切れて男に殴りかかった。

「ダメ!そんなことしたら指怪我しちゃうよ!!」

私は慌てて2人の間に回り込んで高広の二の腕を掴んだ。

大事な公演の前なのに、こんな奴のために怪我なんかしたら…私は必死で高広にしがみついた。

「退け、さくら!」

「ねぇ、高広落ち着いて!」

高広は涙を溜めてしがみついている私を見て、ようやく拳を収めた。それを見た男は、

「あ~、ラブラブで何かつまんねぇなそういうの。もうおたくら、勝手にすれば。」

なんて捨て台詞を吐きながら去っていった。まったく…元々はあんたのせいじゃないのよ!


「助けてくれてありがと。」

男が去ってから、私は高広にしがみついていたのに気付いて、慌てて離れてお礼を言った。

「こっちこそゴメン。長いこと待たせて、怖い思いさせたな。」

高広はぺこりと頭を下げて謝った。

「練習おしてたんでしょ?そんなの全然いいから。でも…」

「でも…何?」

「わたし、いつから高広の女になったんだっけ?」

私はあの状況だから咄嗟にそんなことを言っただけかもしれないと思いながら、そうなら馬鹿笑いをするつもりでわざと冗談ごかしてそう言った。

「あ、ゴメン…」

そしたら彼はまた謝った。何でそこで謝るわけ?やっぱり冗談だったみたいで、謝るほうがわたし、傷つくんですけど…

「怒ってんじゃないのよ。だって、あんた私に今まで好きの一言も言った事ないじゃん。それでいきなり女ってねぇ…」

私がそう言うと、高広は私から目線をそらすと、

「じゃぁ、言うよ。言やぁいいんだろ!オレははじめて会った時からさくらが好きだ。あれからずっと会う約束してくれてるから、オレたちもう付き合ってんだと思ってたんだけど?」

と、何故かキレながらコクった。でも、そこまで言ってから高広は頭を振ると、

「いや、違うかもな、コクってお前に弟みたいなもんだって言われるのが怖かっただけかもしんない。」

と付け加えた。

「そんなこと、言ってくれなきゃわかんないよ。付き合ってるつもりだった?」

嬉しくってもう、心臓がバクバクうるさかった。でも、素直に嬉しいとはいえなかった私。

「ああ、で、やっぱ、オレは弟?」

「ううん、私も高広が弟だなんて思ったことは一度もないよ。私もね、初めて会った時からその…好きなんだ…でも、盛り上がって音楽の話ができる友達の1人だっていわれそうな気がしてさ、言えなかったの。」

でも、高広にストレートに聞き返されちゃって仕方なしに正直に私もコクった。そしたら、高広はちょっとむっとした顔になった。

「じゃぁさくらも一緒じゃん。言わなきゃわかんねぇだろ。」

「女からそんなこと言える訳ないじゃん。」

「こんなのに、男とか女とか関係あるのかよ。」

「ある!」

そう断言する私に、自分のせいにされたくないと、高広は口を尖らせた。

「あ、それ何十年前の話だ?ズルイぞ、それ!でもさぁ、オレたちって…」

「ホント、似てるよねぇ~」

私たちはお互い顔を見合わせてしばらく笑い続けた。恥ずかしさと嬉しさを笑いで誤魔化すしかなかった。そんなところも2人は似ていた。


「ねぇ、私あの曲、着信音に変えようかなぁ。」

「何でさ。」

自分のケータイを見つめながら私がそう言うと、高広は不思議そうにそう返した。

「そしたら高広、いっぱい電話くれる?音が聞きたいからしばらく聞いてから出るけど。」

「え~っ、すぐ出ないのかよ。あんまし出ないと切るからな。」

「じゃぁ、切ってもまたすぐ鳴らしてね。」

高広は呆れたという顔をした。でも、ちょっと嬉しそうだった。

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