桜餅と孔雀
私たちはそれから時々会うようになった。何回か会う内に高広の私に対する言葉遣いはぞんざいになり、いつの間にかさくらと呼び捨てられるようになっていた。
「さくらってさ、何で3月生まれなんだよ。」
「なんでって、何?」
人の生まれたつきにいちいち文句つけんじゃないわよ。
「フツー桜って、4月じゃん。」
そう言うことか…
「3月ったって、30日でギリだし。私が生まれた年は桜の開花が早かったんだもん。それに、私の生まれた病院って、日当たり良いらしくてこの辺では一番に満開になるのよ。そこの桜がきれいだったからつけたってお父さんが言ってたの。」
「ふーん、まいっか。何か、桜ってより桜餅だけどな、お前。」
やっぱそれが言いたかったのか。この頃、高広は何かと言うと私がデブになったと、痩せろと言うのだった。
確かに、今の病棟勤務になってからは、ストレスだろうか…食欲が止まらない。
「ヤなこと言うわねぇ。高広みたくカッコつけて食わないでいると、この商売やってらんないのよ。なんせ、体力勝負だから。」
最近では男の人もちょこちょこ参加してくれるようになったけど、まだまだ女の仕事だし、女性が図体のデカイ男の人を看護しなきゃならないのは、それなりに大変なのよ。
「カッコつけてる訳じゃなくて、オレがフツーなの。それに、体力勝負じゃなくて、食欲勝負の間違いだろそれって。」
「そこまで言うか!」
私が殴る真似をすると、高広は笑って手でそれを受ける動作をして、
「あんましデブると動けなくなるぞ。疲れて食いたくなるのは解るけど、ほどほどにしとけよ。」
なんて返してくる。
そんな風に私には、いつも上から目線でものを言うようになっていた。それを電話でノエに報告すると、(別にする義務はないんだけど、定期的にあっちからかかってきて報告させられていんだよね)あの子異様にコーフンする。
「きゃぁ~、それって孔雀が羽を広げてるのと一緒じゃん。」
「孔雀~?」
何で、孔雀?
「ちょっとでも大きく見せたいことの現われでしょ。つまりは求愛行動。さくら、あんた愛されてんのよ。」
まったく…何でもそういうことに結び付けんの止めて欲しいわ。そう言われるとどっかその気になっちゃう自分がいて、悲しいから。
でも、本当にそうだろうか。もうかれこれ出会ってから半年経つけど、好きだと言われたことは一度もない。会えば音楽の話で盛り上がれる友達。あっちはそういう意識しかないかもしれないじゃない。
やっぱこの関係が崩れるのが怖くて、それはそれでさびしいんだけど、私は高広がホントはどういう気持ちでいるのか聞けないままでいた。それもストレスになってたのかもしれない。私の体重は増え続けた。