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遠い旋律  作者: 神山 備
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終章-あの桜の下で

今日は高広の命日で、私は高広の両親と久美子ちゃんと4人でお墓参りを済ませた後、あの桜の木の下に来た。


「あれから、6年か早いな…」

「そんなに経ったと思えないけど。」

お母さんの相槌に私はだまって頷いた。


桜の木の下には30代の男性が立っていた。

「紹介させてもらって良いですか?」

私は3人にそう言ってから、その男性に手招きした。彼は杖に寄りかかりながら私たちのところに近づいてきた。

「松野芳治さんです。」

私は彼-芳治さんを支えるように隣に陣取り、彼はゆっくり会釈しながら高広の両親と久美子ちゃんに言った。

「はじめまして…松野です。高広君のことはさくらさんからいつもうかがってます。」

「はじめまして、坪内です。何か…」

不思議そうに尋ねる高広のお父さんに、芳治さんは照れながらこう言った。

「実は、私たちのことを許していただこうと思いまして…」

「さくらちゃん…ってことはあなた…」

「ごめんなさい…私、松野さんについていきます。」

驚いた高広のお母さんに、私ははにかみながら言った。

「謝ることなんてないさ、おめでとう。」

「そうよ、何も謝ることなんてないわ。素敵なことじゃない。高広もあなたが泣き暮らすより、その方が喜ぶわ。」

そして高広のお父さんは芳治さんに握手を求めながら言った。

「許すも何も、私たちにはそんな権利はありませんよ。どうか、高広の分まで彼女を幸せにしてあげてください。私からもお願いします。」

「ありがとうございます。」

芳治さんは握手に応じながら、何度も頭を下げた。


松野芳治さん…私が高広の病気を知ったすぐ後退院、その時私が号泣してしまったあの患者さん…


彼には奥さんと当時1歳になる娘さんがいた。


ある雨の日、3人でドライブしていた彼らの車に、違反を逃れようとした車が激突、奥さんと娘さんは死亡、芳治さん自身も瀕死の重傷を負い、2度の大手術の後生還した。


生還したものの、たった1人生き残ってしまったことを深く悲しんでいた彼。そんな中で退院の日に見たのが私が号泣する姿だった。彼は自分のために泣く私のことが解らず、他のナースに事情を聞いたという。


高広の亡くなった後、整形外科の外来に異動した私は、それから度々リハビリに来る芳治さんと顔を合わせるようになった。


同じように愛するものを失った私たちは、ゆっくりと互いの傷を癒しあい、やがてそこに愛が生まれた。


「私はずるいんです。高広君のお株を奪って、ここでプロポーズさせてもらいました。おかげでOKももらえましたし。」

芳治さんはそう言って笑った。

「そうですか…たぶん、高広は喜んでいると思いますよ。」

「そうだといいですが…」

「じゃなきゃお兄ちゃん、別れさせるように仕向けてると思いますよ。」

「じゃぁ、私は高広君のお眼鏡にかなってってことなのかな。」

久美子ちゃんに言われて、芳治さんは照れて頭を掻いた。

久美子ちゃんはたぶんふざけてそう言ったんだろうけど、私もプロポーズを受けた時同じことを思っていた。


満開の桜の中で…

「これからの人生を、私と一緒に過ごしてくれませんか。」

芳治さんにそう言われた時、桜の木と高広が祝福しているような…私はそんな気がしたのだ。

「そんな感じはしないけど…やっぱり6年経ったのね。」

高広のお母さんが感慨深げにそう言った。


そして、その夜…私は久しぶりにノエに電話を入れた。受話器の向こうから子供の泣く声がする。

「ゴメン、リュウちゃん起こしちゃった?」

「いいのいいの、久しぶり!最近連絡なかったけど、何か用?」

「実はね、今度…」


                            -The End-

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