指輪
それと…これ、高広の気持ちを考えると、さくらさんには渡さないほうがいいのかもしれないんだけど、やっぱり私たちが勝手に処分するわけにはいかないものだから。」
と言ってお母さんが差し出したのは、小さな指輪のケースだった。
そう言えば初詣の時、手を握った高広が言ってた。
「お前の手、意外と小さいのな。」
「あまり身長も高くないしね、ギターも手が大きいほうが得だけど、その分逆に必死に練習したから。」
私がそう言うと、高広は自分の手の上に私の左手を乗せてこう言った。
「指の太さって、どれくらいある?」
「元々太いほうじゃないと思うけど。痩せる前は11号くらいだったんだけど、今は9号くらいかな。」
私はよく考えないでそう言った。今考えたら、あいつちゃんと左手を見てたんだよね。
「指輪のサイズなんて知ってんだな。」
「買ったりしないけど、お店ではめてみたりするのは好きなのよ。でも、何でそんなこと聞くの?」
「あ…いや、別に。思ったよりお前の手が小さいんでビックリしただけだから。でも、痩せると指まで痩せるってすごいよな。」
私が聞くと高広はつっかえながら答えた。
「靴もワンサイズ違ってるよ。メーカーにもよるけどさ。」
指輪を買おうって考えてるなんて夢にも思わなかったから、私はダイエット話の方に食いついてスルーしてた。自分でも情けなくなるほど鈍感…
高広はホッとしてただろうけどね。
-高広のノートから7-
動けるうちにあの「木」に会って来よう。その桜の木を見てあいつのお父さんがあいつをさくらって名づけたっていうあの「木」に。
そしてその「木」の下にあの指輪を埋めよう。
ホントは「木」の下で、オレはあいつにあの指輪を渡すつもりでいた。就職が決まってからとか思ってたけど、最近あいつがどんどんきれいになっていくんで、「あいつはオレのもんだぞ」って言いたくなって、それとなくサイズを聞いて町に出た時に買ったもの。
渡そうと電話をかけようとした時に、オレは最初に倒れた。
もし、電話の方が先だったら…確実にバレてるだろう。なんか不思議な気がする。
「高広、これ埋めなかったんですか?」
私はなぜ、まだここに指輪がまだあるのだろうと思った。
「埋めようとしたらしいんだけど、埋める前に倒れて、あなたの病院に運ばれたそうよ。」
私は指輪を左手の薬指にはめてみた。あれからまた痩せた私に、その指輪は少し大きかった。
(サイズ直しできるかしら…)
できなくても、どの指にででもはめていたいと、私は思った。
神山でございます。
一応、何にも書いてないんですが、さくらの身長は152cm、痩せた彼女の指輪の号数は9号を通り越して7号になってました。
尚、作者が何故、指輪を埋めてしまう設定にしなかったのか……
それは、そんなことをしたら桜の木が枯れてしまうからというムードのない理由でした。高広の桜を枯らせてしまったら、続編に行かないですもん。