高広の許へ…
信じてもらえないと思うけど、私は高広の病室まで飛んだ。たくさんの機械類の中で喘ぐ高広とお母さんの涙と…見たくはなかったけど、見なければ絶対に後悔したはずの光景を私は見た。
-わりぃ、呼んじまって-
頭の中で高広の声がする。
-ううん、約束守ってくれてありがとう-
-ちょっとの間しか一緒にいられなくて、ゴメンな-
-そんなことないよ、私いっぱい幸せだったから-
-それを聞いて、ちょっと安心した。-
突然高広の呼吸が静かになった。私の言葉に安心してくれたから?
「高広?高広?!」
お母さんが急に落ち着いた彼を逆に心配そうに覗き込む。そこに、久美子ちゃんが高弘のケータイを握りしめて走り込んできた。
「お兄ちゃん!三輪さんを連れてかないで!!」
彼女は高広にすがり付いてそう叫んだ。
「久美子?」
「お兄ちゃん、連れて行きたくないから別れたんでしょ!お願い…三輪さん、そこにいるならお兄ちゃんを連れて戻ってきて!」
「久美子、何わからないこと言ってるの!」
高広のお母さんは、久美子ちゃんの言葉を理解できないでいる様だった。
「今、お兄ちゃんに言われた通りに三輪さんにコレで電話したら…三輪さん電話に出たと同時にお兄ちゃんの名前呼んで、そのまま倒れたって三輪さんのお友達が…お母さん、お兄ちゃんが三輪さんを連れてっちゃう!」
久美子ちゃんは高広のケータイを震えながらお母さんに見せて説明した。
「まさか?!そんなこと…ある訳が…まさか…」
ケータイと高広の落ち着いた寝顔を見ながら、あいつのお母さんはどんどんと青ざめていき、うわごとのように何度もその台詞を繰り返した。
「お願い…2人で戻ってきて…」
久美子ちゃんは高広の手をギュッと握りしめながらそう言った。久美子ちゃん電話くれてありがとう。おかげで高広の所まで飛んでこれたよ。私もできたら高広を連れて一緒にそっちに戻れたらと思うよ…でも、それができないのなら-私が一緒にいきたいんだ。
しばらくして、高広の呼吸がまた荒くなった。
-じゃぁ、オレもう行くわ-
-私もいく-
言わなくても解かってるよね、高広が戻れないなら、私がいくよ。
-そんなことできるかよ、オレみんなに恨まれんじゃん-
-じゃぁ私に恨まれるのはいいの?-
-お前は解かってくれるだろ-
-解からないわよ、ヤダ!一緒にいく!!-
-ダメだって、ホントありがとな…-
高広のハスキーで温かい声が私を包んだ。ダメだといいながらあいつは嬉しそうだった。
そしてその後、私は一瞬だけど高広に抱きしめられた感じがした。その感じは弾けるように消えて…
「高広!!」
「お兄ちゃん!!」
それと同時にお母さんと久美子ちゃんの絶叫が聞こえた。そして、それを最後に…私は目の前が暗くなった。
気がついた時には、わたしは自分の勤める病院のベッドの上にいた。
高広…逝っちゃったんだね、1人で…
悲しいけど、なぜか涙は出なかった。悲しすぎたのかもしれない。