桜舞い散る下で…
私は一旦病院を出て、既に散り始めているあの桜の木の下に行った。
『ホントなら、あの桜の木の下でプロポーズするつもりだったんだ。』
私には、はにかみながらぶっきらぼうに待ってろって言う高広の声が聞こえるような気がした。
まるで私が断るなんて選択肢がないみたいに、当然のようにあいつは言うのよきっと…
『もうちょっとだけ待っててくれよな。お前に食わせてもらってるようなことはしたくねぇからさ。』
なんてね…ホントにカッコつけなんだから…
私はそんな想像をして、くすっと笑って…涙が1つ2つと流れて…いつしか私は声を上げて泣き出していた。泣いても何も変わらないのに…そう思いながら。
ひとしきり泣いてから、私は再び今度は出勤するために病院に戻った。白衣に着替えた私は婦長に呼ばれた。
「三輪さん、ちょっと…」
「はい…」
「今日は中川さんにローテ代わってもらったから、あなた彼に付いててあげなさい。」
「えっ?」
「306号室の坪内さん、恋人なんでしょ。救急の子に聞いたわ、搬送された時、あなたがかなり取り乱していたって。」
「お気遣いありがとうございます。でも、私仕事します。実は、彼とは1ヶ月前に別れてるんです。だから、今更…昨日はいきなりでびっくりして、取り乱してしまいましたけど、もう大丈夫です。」
婦長は、私たちが別れていると聞いて驚いている様子だった。
「別れたってそれ本当なの?」
婦長は私にそう尋ねた。
「ええ、本当です。」
「でも、あなたはそれでいいの?ずいぶん泣いたみたいだけど。」
しまった…顔を洗った位では泣き腫らした目は元に戻らなかったみたいだ。
「終わったことですから…」
私は言い訳も思いつかず、ぼそっとそう答えた。
「…でも、夜勤明けの上に、その顔じゃ昨日もほとんど寝てないみたいね。何にしてももう中川さん出てくることになってるから、今日は帰りなさい。そうじゃなくても、今のあなたには人の命は任せられないわ。その代わり、明日からはいつも通りお願いするわね。」
婦長は有無を言わせない口調で、私にそう言った。
「分かりました。今日は帰ります。」
仕方なく、私はのろのろとロッカールームへと戻って行った。