さくらに会いに…
病室に運ばれた高広の手を握り…私はいつの間にか眠ってしまっていた。
不思議なことに、私はそのまま今いるここの夢を見ていた。それが夢だとわかるのは、私は眠っている私を別の場所で見ている恰好になっていたから。
「ここは…病院…」
「お兄ちゃん、気がついた?」
久美子ちゃんが涙目で高広の顔を覗き込んだ。
「あれ?なんでさくらがここに…」
高広はベッドの横で眠っている私を見て、まだ意識がハッキリしてなかったのか、ぼんやりとした口調でそう言った。
「この病院の近くの桜の木の下で倒れていたから、救急車で三輪さんの病院に運ばれたのよ。」
「ああ…あの木に会いに行ったんだ、オレ…」
高広は思い出したようにそう言った。
「木に?」
「ここな、こいつが生まれた病院でもあるんだ。こいつが生まれた日、その年はやけに桜の花の咲くのが早くて満開だったんだってさ。だから、こいつのお父さんがあの木を見てさくらって付けたって…」
高広は私が握ってない方の手で私の頭をなでた。
「だからオレ…ホントはその桜の木の下でプロポーズするつもりだった…今はまだ学生だけど、オレが社会に出て自分で生活できるようになるまで待っててくれって。」
そう言った高広は何故か笑顔だった。その笑顔を見て、久美子ちゃんは逆に泣き顔になった。
「お兄ちゃん…」
「ムリになっちまったから、代わりにさくらをどうか守ってやってくださいってお願いしてきた。そしたら目の前がすーっと白くなって…」
高広はため息をついた。
「ああ、マズったな。こいつにもバレたんだろうな。」
「三輪さん、うすうす分かってたみたいだよ。」
「そうだな…こいつムリに連絡取ろうとしてなかったもんな。」
高広は眠ったままの私の髪をまた撫でた。それはまるで赤ん坊を寝かしつけるような感じだった。
「あきらめてこれからは三輪さんと一緒にいたら?」
久美子ちゃんがそう言うと、高広はやっぱり頭を振った。
「ダメだ、こいつとはもう別れたんだから。」
「お兄ちゃん、何言ってるの!ホントは一緒に居たいんでしょ!三輪さんも同じ気持ちなんでしょ!!」
久美子ちゃんが思わずそう怒鳴ると、高広は口に手を当ててこう言った。
「しっ、さくらが起きちまう…オレはこれからどんどん弱っていく。そんなオレをこいつには見せたくないんだ。それに、こいつとはホントにつながっている気がするから…」
高広は配膳台の上に乗っているケータイに目線を送って、
「そばにいたら連れてっちまいそうで…」
と言った。
「そんなことある訳ないじゃない、確かに三輪さんを見たとき、ビックリするくらい痩せてたけど、それはダイエットなんでしょ。考えすぎよ。」
久美子ちゃんは当惑したような表情でそう答えた。
「そうだな…オレ何かおかしなこと言ってるかもな…ちょっと疲れた…オレ寝るわ…」
そう言うと高広はすーっと眠りに入って…
そこで、私のビジョンも途切れた。