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遠い旋律  作者: 神山 備
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記念式典

挿絵(By みてみん)




「あ~気持ち悪っ!ノエ、ちょっと出るわ。」

酔ったみたいだ…


私は高校の全体同窓会に出た。うちの高校は今年で創立50周年を迎える。その記念式典に、他の友達も行くからと言うんで参加したんだけど、調律の悪いピアノの音に酔ってしまった。


(式典なんだから、もっとまともな調教師雇ってよね。)そう、私は絶対音感を持っている。

ピアノの調律にはある程度の幅も認められているし、近頃では440hzきっちりに合わせるより華やかに聞こえるという理由で443hzくらいまで上げて調律するのが流行りだとか聞くけど。

それはあくまでもみんなが揃ってこその話だ。それに、普段の手入れが悪いピアノの音は調律したってすぐ狂ってくるのかもしれない。粒の揃ってないアウトコースぎりぎりって、やっぱNG!


体育館を出て深呼吸。外の空気を吸ったら、ちょっと気分が良くなった。

ふと見ると、頭に手を置いてなんかつらそうな顔をしている男の子がいた。男の子って言ったって、高校の同窓会だから、18歳は超えているはずなんだけど、何かベビーフェイスで、現役の高校生と言っても通じる感じ。

彼は私に気付いて会釈をした。

「大丈夫?気分悪そうだけど。」

私がそう言うと、彼から信じられない答えが返ってきた。

「なんか、ピアノの音に酔っちゃって。」

じゃぁ…

「もしかしてあなた…絶対音感持ってる?!」

「ええ、もしかしてあなたもですか?!」

学校の同窓会で同じような人に会えるなんて思わなかった!!私は肯いた。

「私も、あの粒の揃ってない音を聞いてたら気分が悪くなっちゃって、出てきちゃったから。」

「確かに、あの音は凶器ですよね。他にもそういう人がいて良かった。オレ1人だと思ってたから。」

彼は嬉しそうにそう言った。

「凶器だと思ってるのは約2名だけだけどね。」

「1人って言うよりは絶対良いですよ。オレ、45期の坪内高広です。」

へぇ、45期…じゃぁ、20歳なのか。やっぱ見えないわ。

「私は43期の三輪さくら。はぁ、こんなとこ来るんじゃなかったな。」

「オレもですよ。今回初めて案内が着たから来てみたんですけど、来るんじゃなかった。」


そんな話をしているとメール音が鳴った。私はケータイを出そうとしてバッグをごそごそと探していた。すると、同じように彼もポケットに手をやってケータイを取り出した。

「あれっ、違うや。そういや、1箇所リズムが違うか…」

彼はそうつぶやいた。


メールが来ていたのは私の方。ノエからで、急に出て行ったけど大丈夫かということだった。メールを見終わった私は彼に尋ねた。

「という事は、坪内君もこの曲?自分で打ち込んだりしたの?」

曲自体は超有名なクラシック曲なんだけど、曲半ばのこの部分だけピックしてチョイスする人はまずいない。

「ええ、マニアックすぎてダウロードしようもないですからね。メインメロディーはあんなに有名なのにね。」

やっぱり…私は彼の言葉にうんうんと肯いた。

「ここを選ぶ事自体、性格曲がってるかもね。」

「そんなことないですよ、オレ性格曲がってないですから。」

続いて私がそうつぶやくと、彼はそう返して笑いながらケータイを自分のシャツのポケットに入れた。

「あ、ゴメン。自分のこと言っただけなのに、そうなるんだ…」

「反省してますか?じゃぁ、お詫びにオレとこのままフケませんか。何だか、いろいろと話合いそうだし。」

私が謝ると、彼はそう言って私を誘った。どうしよう…他の子はともかく、ノエは心配しそうだな。

「このまま帰るって返信するわ。どうせ、あの子達といると後でカラオケに誘われるだけだしね。アレ、結構地獄なんだ。」

結局、私は彼と一緒に帰ることを選んだ。理由はカラオケに行きたくなかっただけなんだけどね。


私は自分が歌うのが超苦手。耳で正確に捉えた音を正確に音程に表現できない。周りの人間は『外れてないよ』って言ってくれるけど、自分には確実に外れているのが判る。つまり、自分の歌さえ気持ち悪いのだ。

「確かに。酔っ払って歌う先輩なんて最悪だったりするし。第一、オレ自分の声好きじゃないしなぁ。」

そうかなぁ、確かに美声って感じじゃないけど、ハスキーで悪くないと思うんだけど…

「ちょっと待ってて、今メール返しとくわ。」

そう言ってノエにメールを返した私は、そのまま彼と学校を出て歩き出した。



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