Episode‐7
夏休みになった。朝5時。
昨日の夜決めたスケジュール、まずはランニングだ。まず体力を付けて、少しでも長く歌えるように、少しでも多く弦を弾けるように。
早朝にしか撮れない写真もおさめたりして、早起きは三文の徳、というのを感じられた。
まだ薄暗い朝5時、肌寒い空気の中、ランニングを始めた。少しでも長く歌えるように、弦を弾けるように、体力を付けたい。コツコツ続けるのが大事だと自分に言い聞かせ、家の周りを1周。少しずつ距離を伸ばそうと決めた。
少しずつ、距離を伸ばす予定だ。
ランニングから帰ったら、シャワーで汗を流して、朝ごはんを食べて、夏休みの宿題をして終わったら、存分に音楽に浸る。
曲を作ったり、聴いたり、ギターを鳴らしたり、CDショップに行ったり、楽器屋や楽譜屋に行ったり、幸せだ。
ランニング中、朝焼けや街並みをスマホで撮った。早朝の光は特別だ。あとでプリントしようと思いながら、午後になって学校に向かった。
「おはよう」
「おはよう、穂川さん」
「はよ。」
「おはよ〜!」
部室かライブハウスのスタジオを借りて練習する。そんな夏休み、こういう日常もSNSにアップしとこ。
「BlueStaR L!neЯのアカウント、フォロワーだいぶ増えたね!」
「SiNSilentのライブ、誰か撮ってたみたいで。上がってたから、それもある気がする。」
「なんか、応援してもらってる感じがしていいな。」
「今日も、練習頑張らないとな!」
私も頑張ろう。
「ね、新曲はできたから持ってきた。」
「お!新曲か、いいね!」
「グレードアップした曲もだいぶ仕上がってきたからね〜!」
「でも、まだタイトル決まってないんだ。」
「そこは、みんなで決めればいい。な?」
「そうだな。」
「うんうん、まずはきぃちゃんが作ってくれた曲が聴きたいな〜」
3人がそう言うから、グループメッセージに昨日完成した曲を送ることにした。
「おぉ、水が弾けそうな曲だね!」
「これは面白いな、アレンジも楽しそうだ。」
「よくこの曲作ったな、ほんとすごい。」
話し合った結果、この曲のタイトルがWaterArM BANGに決まった。
いつか、CDか動画をあげてみるのを考えてもいいかもしれない。
「うーん。あともう一声なんだけどなぁ。」
「何うなってんの、穂川。」
「新曲がもう一曲あるんだけど、まだできそうにない。」
「もしきぃちゃんがよかったらなんだけど、その曲を聞いてみても良い?」
「いいけど、途中だよ。」
「わかってる。別に完成した曲じゃなくたっていい。相談はいつでも乗るから、言ってくれよな。」
そうか。私たちはメンバーなんだから
自分だけ悩んでる必要ないんだ。
「うん。聞いて、感想とか、こうしたいとか言って欲しい。」
「どれどれ、お、このイントロめっちゃかっこいいじゃん!」
なぜか、みんな嬉しそうな顔している。
「ベースから入る曲は今までなかったもんな」
そう言えば、みんなに相談のったことなかったかもしれないな。
「こういうのは、どうだ?」
奏響がベースのフレーズをいくつか弾いてくれた。
「3番目に弾いてくれたフレーズと4番目に弾いてくれたフレーズ、もう1回弾いて。スマホで録画するから。」
私もベースたまに弾くけど、よく聴くと私が弾くのと、奏響が弾くのでは違うんだな。
いつも、奏響、慧、優が弾いているところ見ているのに……私盲目になってたかもしれない。
「ね、慧。このフレーズちょっと弾いてみてくれる?」
「ん、これか?」
早く上手く行こうとして、近道をしていたつもりだったのに。
「うん、そのフレーズを電子音を効かせてみてほしい」
「それなら……こうだな。」
「わ!電子音入るだけで、全然違うね!」
いつの間にか、自分で遠回りしていたらしい。
「優、優にはここのフレーズどう思う?」
だって、3人に相談したら、あっさりいい感じのフレーズが決まってしまったんだから。
「あ、ここだね?」
「うん。もう少しシンバル効かせてみて。あ、そこ、もっと力強く叩いて。」
「こうだね!」
これからはみんなに相談しよう。
「ごめん、強く言いすぎた?」
「え?ううん、そんなことないよ。」
「穂川が真剣なのは、ちゃんとわかってる。」
「こんないい曲作ってくれてるんだからな。協力くらいさせてくれよ、な?」
これはBlueStaR L!neЯの曲なんだから、私だけの曲じゃないんだ。
「ありがとう。」
なんだか、こんなにも晴れやかな気持ちになったのは久しぶりな気がする。
ーーーあーあ……また曲のフレーズが浮かんじゃった。
「穂川、どうした?」
慧って、私のことよく見てるよね。あんま表情変えてるつもりないのに。
「新しい曲のフレーズ、浮かんじゃった」
「お〜!それは楽しみにしてるね!」
「次の曲でも悩んだら、言ってくれ」
このタイトルだけは、決まっている。
Ride: OЯ Die´S。
この曲はきっとライブの定番曲になること、間違いなしだと、私は確かに確信している。
私は、今海が目の前で見える駅に来ている。
「アニメとかに出てきそうな感じだな。」
「きぃちゃーん!こっちだよ〜!」
振り向くと優、慧、奏響がいる。
今日から1週間、BlueStaR L!neЯは合宿だ。
「大きいな。」
なんて言うんだっけ、ペンション??だっけな。
記念にペンションを1枚と、
「みんな、こっち向いて〜」
「いぇい!!」
夏の陽射しに負けない、3人から笑顔を頂きました。
「まずは、どうする?」
「練習もいいけど、せっかく海に来たから遊ぶか?」
「お前が遊びたいだけだろ、アホ田め。」
「私はどちらでもいい。」
「そう言えば、僕たち部活以外であまり遊ぶ機会なかったね……たまには遊んでみる?」
どうやら優は、奏響側らしい。
「井間がそういうなら。」
「部活以外じゃないとその人の顔ってわからないこともあるしね!俺らは、長い時間過ごしてるから、お互いほとんど知ってるけどー!」
そういう話し合いの結果、練習前に遊ぶことになった。たまには、そういう時間も必要なのかもしれない。
空高く、カモメが飛んでいる。
奏響と慧は海に行って、私はカラフルのパラソルと眩しい青空の太陽を見上げていた。
この光景も写真にした。なにかに使えそうだったし。
「きぃちゃん、泳がないの?」
飲み物を渡す、優の姿。
「飲み物、ありがとう。まだ海はいいかなって。」
「あんまりはしゃぐタイプじゃないもんね。」
「割と楽しんではいるよ。」
日焼け止めこまめに塗らなきゃいけないのが
めんどくさいけど。
「アコギ持ってくればよかったな。」
「あはは、海に来てまでアコギが出てくるなんて、本当にギターが好きなんだね!」
「まぁね。優はなんでドラム始めたの?」
「僕?最初はそーくんのお兄さんがきっかけではあったけど、好きなドラマーが居てさ。
あ、あった。この人!!」
「あー、"SMerA"のドラマーか。」
SMerAは、バンド内では有名な人だけど。バンド好きじゃないと知らないくらいのバンドだ。
優からそのドラマーの画像が出てくるとは、予想してなかったけど。そうか、優もちゃんと憧れがあるのか。
「僕、嫌々でバンドやってないよ?」
「わかってるよ。でも、優がドラムのイメージが少し意外だからさ。何か好きなドラマーでもいるのかなって思ってさ」
「そう言えば、僕もきぃちゃんのギタールーツ聞いたことなかったな!きぃちゃんは、どうしてギターを始めたの?」
「私は、両親同士でバンド組んでたの。その動画を見せてもらったのがきっかけ。
私が使っているエレキとアコギは、父さんのなんだ。」
「へぇ、そうだったんだ!じゃあ、家族の歴史があのギターには詰まっているんだね!
なんかいいね!そういうのもー!」
海の開放感からなのか、少し素直になれた気がした。
「おーい!穂川さん、優ー!お前らも来いよー!」
「ふふ、そーくんは元気だね。きぃちゃんは、どうする?海、行かない?」
「私はここにいる。」
「そっか!じゃ行ってくるね!」
夏に負けないくらいの、優の明るい笑顔が眩しかった。
私はしばらく、海とカモメの音をBGMにして
書籍本と一緒にいると
「あっちーな。」
「奏響と慧」
「穂川は海行かなくていいのか?」
「私は鑑賞派なんだ。」
奏響と慧は、タオルで髪や体を拭いている。なんか眩しいな。
「はは、穂川さんらしいな」
「優は?」
「井間はかき氷を買いに行った。」
かき氷か……優が選ぶシロップなんだろうか。
レモンかイチゴのどちらかな気がする。
「はい、きぃちゃんにもあげる!」
まさかのブルーハワイ!
優の意外な一面、写真撮っとこ。ピースまで頂いてしまった。
「ありがとう。」
「どうしいたしまして〜」
優は、予想範囲外をするな。
「冷たい。」
「結構遊んだし、そろそろペンション戻るか?」
「そうだな、人も多くなってきたし!」
「そうだねー!」
3人が満足したのなら、私は何も言わない。
冷たいシャワーを浴びると少しヒリヒリする。お風呂から出て、洗面所の鏡を見ると目立って焼けてる訳じゃなさそうだけど、焼けてしまったらしい。
「日焼け止め、ちゃんと塗ったんだけどな〜」
髪を乾かして、3人がいるリビングに向かう。
「おまたせ。ごめん、先に使わせて貰って。」
「全然大丈夫だよ!」
「俺、先いいか?」
「けーくん、いいよ〜!行ってらっしゃい!」
「おう。」
慧とすれ違うように、私はソファーに座って、ノートパソコンを起動させる。
「穂川さん、なんかムスッとしてない?」
「そう?無意識だった、肌がヒリヒリするからかも。」
「あちゃ、日焼けちゃった?」
「それは、きちんと冷やした方がいいよ!」
私よりなんか、周りの方が心配してる気がするのは、気のせい?
「はい!保冷剤!」
「ありがとう。」
私は肌に保冷剤をあてる。冷たいな。
保冷剤を持っていない、左手でノートパソコンのキーボードを打ち込む。
「何やってんだ?」
「新しいフレーズ浮かんだから、作ってみようと思って。」
「きぃちゃんって、そんなに曲が浮かんでくるの?」
「確かに、二日前もそんなこと言ってたもんな。」
なんか少し茶化されてる気がする。
「浮かんだものは残しておきたいだけ。」
私はノートパソコンに集中した。
「こりゃ何も聞こえてないな。」
「しばらくそっとしとこうか」
奏響と優が何を言ってたのかわからないくらい、音楽の海へと沈んだ。
「ほい。昼飯。」
「ん?」
私の横に置かれたのは、綺麗に作られたオムライスだった。上を見ると慧だった。
ノートパソコンの時刻見ると13時。
「ありがとう」
「お前、集中しすぎ。」
「それは自覚ある。」
「睡眠だけじゃなくて、飯も抜きそうだな。お前
。」
否定は出来ないな。両親いない時とか特に。
「ケチャップ、猫だ。」
かわいいオムライスは、写真に残しておこう。
「おい、スルーすんな」
「はは、そういう所も、きぃちゃんらしいよね」
卵がとろとろで、ケチャップが程よい味がして
大変美味しゅうございました。
「昼飯を忘れるくらいの、曲の出来前はどうだ?」
「9割はできた。」
私は9割できた曲を再生する。
「おー!爽やか〜」
「もうほぼ完成だろ。これ。」
「まだ、ちょっと1割か2割足りない。」
「こだわりが凄いな。」
ギター触ってたら、何か浮かぶかもしれないし
「とりあえず、練習しますか。」
「そうだな。」
「よし、やるか!」
「頑張ろ〜!」
それぞれ部屋に戻り、自分の楽器を取りに行って、小さめの体育館みたいな部屋に来た。
ほんと凄いな、このペンション。
「まずは、何かやる?」
「俺、TR!BE L!NK DR!VEのサビの部分と、Ride: OЯ Die´SのBメロのところやりたい。」
「確かに、そこ難しいよね。」
「わかった、そこ重点的にやろう。優、カウント頼める?」
「もっちろん!そーくん、けーくん、きぃちゃん準備はいい?」
「いつでも来い!」
「ばっちりだ。」
「大丈夫」
「じゃ、いっくよーー!!1.2.3...!!」
慧が言った2曲に留まらず、勢いに乗って
WaterArM BANGまでやっていたら
もう日が暮れていた。
「完成度、やってる感じ結構仕上がってる感じだよな?」
「そうだねー、あともう少し詰めた方が良さそうだけど。」
「SiNSilentのライブには間に合うだろう」
遅めの晩御飯を囲って、3人の話をぼんやり聞いていたら
「むぐ。」
無理やり口に入れたのは、どうやら優らしい
「何するのよ。」
「箸が止まってたからさ〜!お肉美味しいでしょ?」
確かに美味しいけど……
「食べないとなくなるぞ」
「そんなに食べられないから、どうぞ。」
「穂川さん、少食だね」
男子3人と一緒にされてもな。。。
話の尽きない夕飯を食べて、それぞれ好きなことをして過ごす時間になった。
私は外に来た。風が私の長い髪を撫でていく。
「海の夜風は涼しいな。」
「おい。」
相変わらず、海の風に負けないくらいクールそうな一言だな。
「慧じゃん。どしたの?」
「どしたのじゃねーよ。女子が一人で出歩くなんてあぶねーだろ。」
ほんと慧って、クールなのに面倒見いいよね。
「慧って、妹でもいるの?」
「あ?2人いるが??」
なるほど、それでか。
「お前、少しは自覚しろ……その、お前悪くないんだから。」
……え?
「ははっ!!けーくん、かっこいい〜!」
「ふふ、慧。やるな!」
「ちっ、うっせーよ。」
静かな夜の海は、すぐに波が立ってしまったので、私たちはペンションに戻ることにした。
穂川さんの集中力と音楽に対しての向き合い方が凄いんだよな。
青い空のように、透き通って見えるのに
音楽という熱が存在感を見せる。
それは時折見せる、目の下にクマをつくったり、慧が差し出さなかったら、昼飯を抜いてしまうくらいの勢いがあるくらい。
「きぃちゃんって、青空みたいな感じだよね」
「わかる気がするな。」
幼馴染みの俺と慧だからわかるけど、優って人懐っこいように見えて、そうじゃないからな。そんな優がここまで穂川さんを気に入るのは少し驚いている。
「たく。穂川のやつどこ行きやがったんだ。」
「ん?きぃちゃん部屋にいないの?」
「スイカ持って、部屋ノックしたけど返事がねぇ。」
慧がここまで穂川さんの世話を焼いているのも、なんか穂川さんパワーかもしれない。
俺は慧の双子の妹と絡む意外でこの光景はめにしたことがない。
「探しに行ってくる。」
慧は行ってしまった。
「行っちゃったね、けーくん。よっぽどきぃちゃんが気に入ってるんだね〜」
「ま、わからないわけじゃないけどな。」
あの音楽性はバンドやってる側は魅力的だろうな。
「きぃちゃん、可愛いしね」
……優、まさか。。。な?
「ふふ、僕も探しに行こっかな〜?そーくんは?」
「勿論、探すに決まってるだろう。」
俺と優も、慧の後を追った。
ペンションから少し歩くと、慧と穂川さんがいた。
「あんまり離れたところにいなくて、良かったね!」
「あぁ、そうだな。」
だが、なんか話しかけにくい雰囲気なんだが。
「お前、少しは自覚しろ……その、お前悪くないんだから。」
は!?……まさか、あの慧が、あんなこと言うのか!!?
「まさか、けーくんにあんなことを言わせるなんて。きぃちゃんは本当に凄いな。」
マジか。。。もしかして……
まぁ、最初はしんとしていて。一人でいるのが好きな人なのかなって思ったけど。
バンド活動を通して、穂川さんの意外な一面とか見たりしてはいるが。
青春だな、まさにBlueStaR L!neЯかもしれないな。
……To be continued
エピソード7を読んでいただき
誠に有難う御座います!
朝のランニングをしたりと夏を楽しむ中
夏の旋風はまだ始まったばかり!!
次回の投稿は、8月25日の夕方17時です!
よろしくお願いします!