Episode‐5~新星なる情熱と~
授業が終われば、放課後はライブに向けての練習を重ねる。ギターを弾いていたら、指にピリッと痛みが走る。
「いて。」
指を見ると、皮がむけてしまったみたいだ。ギターやアコギの練習で弾き過ぎたのかも。
「どした?穂川さん」
「奏響。ん、人差し指の皮がむけた。」
かわいいとは言い難いほど、指は絆創膏だらけだ。
「これはまた、ぱっくりいったな。」
「穂川、絆創膏やる。」
慧のカバンからポーチが出てきて、絆創膏を渡してくれた。まさに女子力だ。
「ありがと、慧」
「きぃちゃんの指、絆創膏いっぱいじゃん!痛そう。」
右手には親指と人差し指、薬指に複数巻かれている。
「休憩いるか?」
もう慣れてしまったのでさっさと絆創膏を指に巻く。
「必要ない!次!」
今は止まってなんていられないのだ。
「次でラストだぞ。もう20時になるぞ。」
「きぃちゃん、よく声が枯れないね〜」
時間が許す限り、部室でも、ライブハウスでも練習した。ついに来た土曜日にスマホを起動させて今日はSNSでライブだと呟く。やっぱりバンドやるからには、SNSはやっとかなきゃね。
「これでよし。」
「お!いよいよBlueStaR L!neЯのアカウントを作ったので、今日から解禁か!?」
「ライブもいよいよだ〜!」
「ここまで、できることはやったからね。」
「あとは出し切るだけだな。」
「ん〜、絶対盛り上げる!!」
初めてのライブで少し緊張する、メンバーの写真も撮ってSNSにアップしつつ、わくわくしながらSiNSilentに入る。
「あ、穂川さん。おはよう。」
「秦さん。今日はよろしくお願いします。」
「「「よろしくお願いします。」」」
「うん、よろしく。僕がこのライブハウスのオーナーだ。ライブの権利を勝ち取った、BlueStaR L!neЯには期待してるよ!
チケットも自力ではけたみたいだしね。」
「はい。期待しててください。」
「うん!これからリハをやるんだけど。その前にこれリストとセッティング図を書いといてくれるかな?」
「わかりました!」
もう事前に調べていたし、前のバイトの時にここの出演者にもいろいろ聞いてもいたから、それにそって、みんなで話し合って準備万端だ。
そしてもらったバックステージパスをもらい、ギター……私のギターケースに初めてのパス。めっちゃ感動するし、俄然やる気が出てきた。
「じゃ、リハいこう!」
秦さんとPAさんたちが、ステージの前にいる。
「はい。優、カウントお願い」
「OKー!いっくよ〜」
軽く曲と楽器音を流し通して、秦さんとPAさんに音響やスポットライトの調整の相談をしていたら、本番はもう目の前。
「あ!煌夏ちゃーん!」
他のバンドを見るのも勉強と思い、観客に行くともう花沢さんと樋野さんがいた。
「2人とも早いね」
「遅刻したくなかったからね!」
「煌夏たちのそのTシャツいいね!」
BlueStaR L!neЯを少しデザインしたのを、Tシャツ作ってくれるところに頼んだんだ。前に出演したバンドの人が、グッズ作ってくれるお店があるのだと教えてくれたのだ。
「デザインかっこいい!……ちょっとほしくなるかも。」
「だよね〜!出演する僕らも、これ見ちゃうと欲しくなるよー!」
「そんな?」
「穂川さん、いいセンスだと思うよ。」
お店に意見聞いたり、おまかせした部分もあるし、私よりお店の人の方がファインプレーでしょ。
「花沢さんと樋野さんがあー言うなら、次回からグッズを作ってみてもいいのかもしれないな?」
奏響の言う通りかもしれない。
「私もライブ自体は初めてだし、そんな興味持たれないかもと思ったけど。」
ふむ、次から物販を考えてもいいのかもしれないな。
「あ!MARIN RUNLYだ〜!僕個人的に好きなんだよね。」
「確かに井間は好きそうだな。このバンドはキャッチーなサウンドとメンバーにハープ奏者がいるのが特長的だな。」
「まるで水の中にいるような世界観が魅力的なんだよな!」
「MARIN RUNLY はSiNSilentの人気バンドだし、その人気も理解できる。」
自分のバンドの個性を活かしつつ勢いもあったし、楽器も悪くなかった。
「でもBlueStaR L!neЯも負けていない。この熱は私たちがこの会場に火をつける。」
「おう!」
「もちろんだ。」
「僕たちも負けてないよね?」
6バンド中の4バンドが終わり、次は私たちだ。
「「4人とも頑張ってね!」」
「芽衣と美紅に、絶対に最高と言わせる。」
私たちは本番準備のために楽屋へ向かった。楽器をケースから取り出して、ギターストラップを肩にかける。
奏響、慧、優の大丈夫という顔を確認して、ステージのハケに待機していたら。パタパタと足音がして、振り向くと慌てた顔の秦さんだった。
「穂川さんたち、すごいじゃん!」
「え、何がですか?」
「穂川さんたちのバンドが本番近くになるにつれて、お客さん超増えてるんだ。」
ストリートライブ効果が良かったみたいだ。
「それは嬉しい知らせだな。」
「ストリートライブやってよかったね!きぃちゃん!」
「よし、気合い入るぜ!」
「ね、この間のストリートライブの人も来てるから少しセットリスト変えようと思うんだけどどうかな?」
軽く適当な紙に、変更の流れをなるべく細かく書いて奏響たちに見せる。
「どうかな?ぶっつけだけどいけそう?」
「……うん、練習は裏切らない。」
「お客さんが喜びそうだし、いいんじゃない?」
「これくらいなら、問題ないな。」
このリストにスポットライトや照明の調整変更を書く。
「急ですが、秦さん行けますか?」
「どれどれ、うん!これくらいなら問題ないよ!」
「すみませんが、よろしくお願いします。」
「ここはプロに任せなさい!君たちはライブをやるだけを考えてくれ。スタッフも気合い入れ直しなさい。これは凄いことになるかも!」
スタッフたちが忙しなく動く中、前のバンドが終わったのか、前のバンドとすれ違った。
誰よりも、負けない!!この"SiNSilent"に、BlueStaR L!neЯの爪跡を残す!
「絶対、成功させよう!」
「「「ああ!!もちろん!!」」」
私たちは、幕が上がるのを待つ。上がりきった音がして、目を開けると人がたくさんだ…私たちが見てた時よりも多い……嬉しい!
私はこれに応える、絶対。
ーーーカンカン!
1曲目はShady ShiCから始まる。優のスティックカウントからスネアの叩く音が聞こえて、私のアコギを弾き始める。アルペジオを効かせて風の涼しさや穏やかな心情を優しく響かせるんだ。
そして、慧のシンセが夜の風を上手く表現している。奏響の夜の影の重さも絶妙にいい感じだ。
「風が心地いい、涼しくて。
穏やかな気持ちに
僕は休みたくなる。
立ち止まって、下を向いて。
雨がしとしとと降り出してしまった
傘がなくて、雨やどりをした。」
ストリートライブで聞いて来てくれた人。美紅と芽衣も行きたいと言ってくれたことに感謝からギターと歌に込める。もしかしたら、Shady ShiCかTRAIN MOON'sのどちらかをやることになるかもねと優が言っていた。ほんと頼りになるな。
私はShady ShiCが終わると、すぐにアコギからギターへ肩にかけ直した。ドラムのシンバルとタムが太陽の日差しの強さが伝わる。慧の電子音が空気を揺らして、奏響の心地いいベースの音圧の波。私もこの勢いに負けないと、ギターを力強く弾いた。
「ShinE L!ghtー!!」
このBlueStaR L!neЯの代名詞曲に相応しい、初ライブの条件、私は負けない太陽のように眩しいスポットライトにも。
「ギラギラと眩しい太陽
あんなに輝いてて
暑くて存在感があるのに
手を伸ばせば遠そうで
バチッと弾かれて
手を引いてしまいそう」
ーーージャジャーン……
「はぁ、こんばんは。初めまして僕たち、BlueStaR L!neЯです。」
「「きいなーー!」」
「わーー!!」
太陽のような盛り上がりがまだあるな。
「初めてのSiNSilentのステージに緊張してしまって、メンバー紹介してなかったので紹介をさせて下さい。キーボード、柳 慧 !」
最近ほんとにハマってるらしく、シンセを軽く弾いて魅せた。
「どうも。ドラム、井間 優。」
あの明るい穏やかなのに、感じさせない力強いドラム。
「よろしく〜!ベース、春田 奏響!」
重低音のこの沈み、前の4バンドより最高。今度ベースセッションしたいと思っている。
「BlueStaR L!neЯ。今日がライブ初、ストリートライブで来て下さった、皆様。学校の友達も俺たちの出発点に来て下さり、ありがとうございます。」
さすが、コミュ力トップクラスの優に継いでの奏響。私は向かないから助かるよ。
「そして、BlueStaR L!neЯがこの会場を支配する」
支配するってなんだよ。
「ふふ。」
後ろから優の笑い声が聞こえるぞ、奏響。
「ギター&ボーカル、穂川 煌夏!」
ギターで次に行く曲のイントロを鳴り響かせて、エンジンをかける!そこに奏響の、この鼓動に深く響く音。そこに慧のピアノの音色が夏の青さが見える。優のリズミカルに叩くスネアとシンバルが疾走感を増させる。
「まだまだ行けるか、SiNSilent!!ーーーRiNG SuNRaNー!」
さらに会場の輪は、私たちの音楽の熱が走り抜ける。お客さん、ちゃんと盛り上がってくれている!
「輪を広げる 音楽は風に流されて
太陽のように走り出す
勇気をくれる
友達と この熱を
君たちの心の輪まで
溶かして 熱く走り抜けろー!
さあ 手を挙げて
叩こう、叫ぼう!
ここでは それが許される!
夢を追いかける、最高のステージへ
ボクらは、太陽の輪を追いかける!」
すごいすごい、これがライブをするのって初めてだけど、こんな感覚なんだな。
「これはたまらないなってことがわかるな。」
奏響が言葉を零して、慧と優を見ると全力でやり切ったと顔をしていた。セトリ全3曲が、全て終わった。
「ちょっと、穂川さん!すっごい良かった!」
「ありがとうございます。秦さん」
カバンからタオルを取り出し、止まらない汗を吹いていく。
「あそこまで盛り上がるなんて、なかなかないよ」
秦さんに褒められると、ライブ成功したと思えるな。秦さん、バンド界を一風させた一人で結構凄い人なんだから。
「いやぁ、最高だったな!」
「俺たち初ライブだけど、良かったな。」
みんなに記念撮影しようって言ったら、素敵な笑顔が返ってきて、私も企画して良かったなと嬉しくなった。
「え!?初ライブなの!!?」
「実は、そうなんですよ〜!」
奏響も慧、優もやりきった顔をしている。私も緊張のため息を吐き出して、心を撫で下ろした。
「大変です、秦オーナー!」
「ん、スタッフが慌ててどうするの?」
「す、すみません。」
「で、どうしたの?」
「BlueStaR L!neЯへのアンコールが止まりません。」
今トリは"Ronder Here"、王道のロックバンドで圧巻の演奏とボーカルの声量に魅了されているバンドで、このライブハウスの常連バンドだ。それなりに人気で、結構盛り上がっていたのに?
「おー!僕たちがつけたお客さんの熱がまだ残ってたみたいだね〜!嬉しいな!!」
私たちを焚きつけるように言う、優。
「どうする?奏響、煌夏。」
一見クールになのに、瞳は燃えている慧。
「BlueStaR L!neЯ、初ライブにふさわしい!な!煌夏!?」
まだまだ暴れ足りていない様子の奏響。
「「きいなーー!!」」
応援しに来てくれた、芽衣と美紅の声が聞こえる。
「「BlueStaR L!neЯー!アンコール!」」
まだ鳴り止まない、観客の声。
3人の満足した顔とは逆に私は、本当はまだ満足してなかった。"Ronder Here"と"MARIN RUNLY"もここの常連でレベル高かった。今回の2バンドのライブだってめっちゃクオリティ高くて。
でも、今だけは……お客さんのこの声は。
「行ってきなさい、BlueStaR L!neЯ!」
呆然してしまっている私の背中を秦さんが押された。
「はい!みんね行こう、アンコールとは言え、この熱はBlueStaR L!neЯが終わらせないよ!」
絶対、この熱は次に繋げる!!
「はは!やばいね!」
「優、最高のドラムのよろしく。慧のシンセめっちゃいい、もっと慧の世界を私に見せて。奏響、奏響のベースはピカイチ、このライブで分からせる!!」
「穂川さんの音楽の熱を伝えに行こう!」
私たちは急いで、楽器のセッティングとチューニングを済ます。みんな楽器慣れしているのがここでとても活きるのが助かる。
「そーくん、けーくん、きぃちゃん!いける!?」
「OK!」
「いけるぞ。」
「よし、この曲に最後を込めるーーTR!BE L!NK DR!VE!」
私の音楽を今は誇ってもいいのかもしれない。この想像も出来なかった奇跡を奏響と慧と優の楽器隊の音と私が作った歌詞と曲調が、こんなにもいい感じに混ざり合って。
「暑い夏の視線が、冷めた熱を起こす
あまりの天気の良さに
出かけてみようと思い立って
Tシャツと短パンに着替えて
キャップを被って 自転車を走らせてみた
公園の緑の多さに
少し自然のエネルギーを貰えた
さらに自転車のペダルを強く踏んだ。
途中で寄り道した
駄菓子屋のラムネが甘くて美味しすぎた
はじける炭酸にリフレッシュされて
吹いた風で髪がなびいて
少しの嬉しさが
チャレンジの力に変わった。
例え途中で止まって
雨宿りに 本屋で立ち読みしたり
コンビニでアイスを買ったりしながら
また晴れた日に その足で何度でも
走れ!ペダルを踏み続けて
自分のリズムに合わせて
どこまでも 遠い場所に向かって
TR!BE L!NK DR!VE!
それでいいんだ!」
美紅も芽衣も楽しそうで、お客さんがあんなに盛り上がって、最高の顔をしてくれてるんだから!
「「「「本日は、ありがとうございました!BlueStaR L!neЯでした!!」」」」
このお客さんの歓声と笑顔を一生忘れない。
……To be continued