なんとなくの日常~休日編~
春休みの最中、穂川 煌夏は今浅草駅前にいる。ある日昨日BlueStaR L!neЯのバンド練習をしてる時にある話が出たんだ。
「ね!皆さ、明日はバンド練習休みじゃん?たまには一緒に出かけない?」
「お、優いいこと言うな!そういうのもありかもな!」
私のスマホからスケジュールを見る。
「特に何もないから、皆がいいならいいよ。」
「俺も明日は暇だ。」
ということが話題になって、優が浅草に行きたいとの事で13時に浅草駅に集合とメッセージに来たのだ。今日は日曜日ということもあり、浅草駅前は人で賑わっている。目の前にある桜が散っていて風情があるなと駅周辺の写真を撮っていた。
「穂川さん!おはよう!!」
「おはよう。奏響。」
今日はいつになくテンションが高い、ウチのベーシストであるジージャンをカジュアルに着こなしている春田 奏響だ。心無しか周りの女性たちの視線を感じるのを気の所為と思いたい。
「よ、春田、穂川。」
「慧!」
パーカー姿のキーボード担当の柳 慧。
「今日はメガネなんだね。」
「コンタクトが切れてたんだ。」
「それ困るやつじゃね?」
「コンタクトつけるの面倒だから今日はメガネにしたが、午前中に眼科寄ったから大丈夫だ。」
「そういえば、私も眼科そろそろだったかな。」
「え!?穂川さんもコンタクトなの?」
「視力は悪くないけど乱視なの。」
「なるほど。」
そんな話をしていたら、一番この中で奏響と同じくらいテンションが高い、ピンク色のルーズフィットと灰色のパンツと黒のキャップを被って着こなしているドラマーの井間 優が来た。
「みんな、おっはよー!ごめん、ちょっと遅れちゃった。」
信号から走ってくる優。
「おはよう!いんや、俺らも来たところだ!」
奏響と優の会話の盛り上がり方がまさに男子高校生って感じだ。
「時間もぴったりだから優は気にしなくていい。」
「はよ。元気だな、お前。」
「ふふ、まーね!けーくんこそ元気ないんじゃない?」
「午前中眼科行ったからな。」
「確かにけーくんのメガネ姿を久しぶりに見たかも!きぃちゃんはベージュのカーディガンと水色シャツとグレーパンツ姿が似合うね〜!」
「優には負ける。」
「え!そんなことないよ〜」
「てか、日曜日だから人多いな!」
奏響の言う通り、駅から雷門は確かに人だかりが出来ている。
「どこ回る?」
「僕ね!赤鷺に行きたいんだ!」
スマホを私たちに見せてくる。
「メレンゲパンケーキか!優らしいな!」
「私、カワウソカフェに行きたい。」
それぞれ案を出し合い、浅草散策へ歩き出す。まずは無難に浅草寺と吉原弁財天本宮を周っている途中。
「俺人力車に乗ってみたい!」と奏響が言うので、人力車に乗ったりして浅草観光をした。浅草の和の感じと東京の洋のミスマッチがとてもいい。写真を撮っていたら、詩が浮かんだ。
"古き歴史の彼方に 現在の揺らぎを
桜の花たちが ビジョンを伝えている
川が流れて やがて浸透する"
「それ、歌詞か?」
思いついたインスピレーションをスマホにメモしていたら、奏響が私のスマホを覗いてきた。
「歌詞になるかはわからないけど、思いついたことは一応。」
慧と優も覗いてきた。
「いいな、それ。面白いし。」
「面白いかな?」
「穂川がインスピレーションを起こして行動しているのも新鮮だし、これがどう歌詞と曲になるか俺は楽しみだ。」
慧がそんなこと言うなんて、まだ書き出しの文字でしかないのに。
「穂川さんの作る曲は、俺ら弾いている側も楽しいんだよ!」
「歌詞というより、短歌みたいだね!きぃちゃん、それ絶対曲にしよう!」
「優、顔が近い。まぁ善処はするけど…曲にするのはいいけど、まだ三行だよ?」
「そーくん、けーくん!たまには僕たちも曲に貢献しない?このまま曇らせるなんてもったいないと思わない!?」
優は時々突拍子もないことを言うな。
「きぃちゃんが作ってきた紫色のファイルの中身もちゃんと曲にしようと目標もあるしね!絶対やった方がいい、やらなきゃ損!」
優のその前向きさが天気がいいからか、尚更眩しすぎるな。
「そうだな、たまにはそういうのも悪くない。」
「おお!優その提案いいな、俺も穂川さんの力になりたいし!」
「この曲は僕たちの曲でもあるんだから、きぃちゃんに協力させてよ!」
慧、奏響、優にここまで言われちゃったら
「わかったよ。」
断れない、3人のその気持ちが嬉しかったから。人力車に揺られながら、浅草伝法院通りへ行き、優がSNSで見て行きたい店があるのだと言うので行ってみることにした。
「じゃーん、ピヨトッツォ!」
優が注文して手に持っているのはどうやら小鳥の形をしたお饅頭の中にクリームが入った食べ物らしい。私たちも頼んでみることにした。なにより、小鳥のお饅頭が可愛かった。
「ん!?うまっ!!」
奏響がピヨトッツォを頬張って、美味しそうに食べている。
「たしかに、レーズンと胡桃がいいな。」
慧と奏響はレーズンと胡桃のクリームにしたらしい。
「チーズとレモンも美味しいよ!」
優の方は爽やかそうだ、優にぴったりだし。
私は小鳥の人形焼が乗った、抹茶桜餡ソフトにした。桜の華やかさと抹茶の苦味と餡子の甘味がちょうどいい。楽しんでいる皆の写真を撮って、BlueStaR L!neЯのアカウントに投稿した。みんないい笑顔だ。
"華やかな香りとほろ苦さが
写真に切り取られる キミの笑顔
そのちょっとした変化が心地いい"
そこから抹茶クレープやサンゴのチーズコロッケ、和風チックなカフェにも行った。
「さっきから食べてばかりだから、花やしき!行かねぇか!?」
奏響は確かにそういうの好きそうだ。優と奏響はノリノリでアトラクションに乗ってた。私は絶叫系が苦手なので写真係という名の見学だ。
「ひっ!」
慧は文化祭でもお化け屋敷を怖がってたのに、何でお化け屋敷に何で入ったのだろうか。
「けーくん、本当にお化け屋敷苦手だよね〜」
……うん、犯人はこの人らしい。ちょっと休憩も兼ねて、カワウソカフェに来た。
「カワウソ、かわいい。」
「きぃちゃん、動物好きだね!」
「うん、かわいいから。」
カフェのお土産コーナーで売ってた、カワウソのぬいぐるみをつい買ってしまった。
「ぬいぐるみ買ったのか?」
「うん、つい。」
「草津温泉旅行の時も、大きいカピバラのぬいぐるみ買ってたな」
「部屋にあるよ、ほら!」
「あれ、写真にグレーと黒の猫2匹がいる!」
「そーくん、本当だ!テスト勉強でお邪魔した時いなかったよね?」
「お隣さんの猫の子供が生まれたらしくて、譲ってもらって最近飼い始めた。」
「おーかわいいじゃん、まだちっちゃいね!」
「名前は決まっているのか?」
「うん、レイくんとラックくんだよ。」
「くんて事は男の子か、今度見に行ってもいい?」
「うん、いいよ。」
「そん時に、穂川さんのさっきの曲の打ち合わせ
もしようぜ!」
「いいな、参戦。」
そんな話をしながら、親子丼食べたり、浅草の商店街やお寺を回ったら、もうすっかり暗くなってしまった。
「夜と月と桜、素敵。」
写真を取る、今日だけで100枚もアルバムが増えてしまった。
「きぃちゃーん!」
「穂川、帰るぞ。」
「電車来ちゃうぞ!」
たまには、こういう休日もいいなと私はみんなところへ急いだ。
曲作り編(浅草旅行の後日談)
浅草旅行から3日経った。ギターをシャカシャカと鳴らしていたら、ピロンと鳴った。
「「にゃー」」
「レイとラックか、おいで。」
そう声をかけるとぴょんと膝の上に乗ってきた。
「ふふ、すっかり煌夏に懐いたわね!洗濯物ここ置いておくわね。」
「そうかな、ありがとうお母さん。」
小さい体を優しく撫でながら、スマホのメッセージ見るとBlueStaR L!neЯのグループトークだった。
『ね!明日練習ないからさ。きぃちゃんところの猫見に行きたい!』
昨日と一昨日はバンド練習したのだ、何がきっかけかわからないけど奏響と慧が練習したいと言うので、予定していなかったけどスタジオで練習した。
『明日両親出かけるから、来てもいいよ。』
『お!なら、新曲も作るか!』
『ふふ、紫色のファイルからも2曲くらいやりたいよね!』
『わかった。時間は14時くらいだな。』
明日新曲を作ることになった。紫色のファイルかまだ始めた時あたりに作ったやつだから拙いだろうな。
でも、4人で作るからには、いい曲になる予感はしている。
午前中に喫茶店の必要な買い出し、紅茶屋さんやコーヒー豆店に寄ったり、猫の玩具やおやつ買ったり、新発売のBANDOやKiRaNDaの音楽雑誌とCDショップに行き、パンクロックが支流のRyZaの新譜が出たのとRe:VIBEの新譜も見つけたから買った。
「あれ、この棚前買い直したのにもういっぱいになりそうだ。」
先々月に買ったばかりの棚が新譜とCDを片付けていたのだが、やばいな。
「にゃーん」
私のベッドに寝転ぶレイにジト目された気がした。キッチンでお湯を沸かしていた。
ーーーピンポーンと鳴ったので、玄関のドアを開ける。
「やっほー!」
優が手を振り
「おはよう、穂川さん!」
奏響が笑い
「よ。」
さらっと簡潔に挨拶する慧。この光景が少し増えたなとさらっと思った。
「いらっしゃい。」
自室に招く。
「おじゃまします!」
「おじゃましまーす!あ、これシュークリーム買ってきた、皆の分とご家族にもどうぞ!」
「わざわざありがとう、優。」
シュークリームか、冷蔵庫に入れなきゃ。
「俺からも母さんが持ってけって。」
慧から袋を受け取り中身を確認すると、この周辺で人気の洋菓子店のクッキーだった。
「シリウスのクッキーだ、慧ありがとうとお母さんに伝えて。」
「ん。」
「てか、この棚なんか増えてないか?」
「ほんとだー!前より少し棚が大きくなってる気がするかも。あ!今月号のBANDOやKiRaNDaだ!」
「マジだ!まだ俺買ってないんだよなー!」
さっそく私の棚から何かを見つけたなと思いながらキッチンに向かい、トレーにカップとティーポットと桜ジャムを並べて。優から頂いたシュークリームを小皿に乗っけて、トレーを持って部屋に戻る。
「ふわふわだ〜!」
「本当にちっちゃいなー!」
「ほぼ俺の手のひらサイズだな。」
さっそくレイとラックは、奏響たちに撫でたり遊んでもらっているらしい。
「良かったね、レイとラック遊んでもらって」
「あ、きぃちゃんおかえり」
「うん。紅茶持ってきた」
カップに紅茶を入れて、スプーン1杯分の桜ジャムを紅茶に混ぜる。
「穂川さん、ありがと!」
「ほんのり桜のいい香りがするね〜!」
「いただきます。」
ふと見たら、慧の足の上にあの大きなカピバラのぬいぐるみがいてちょっと紅茶を吹き出しそうになった。
「さてと、曲作りしますか!」
「だな、それが目的だしな。」
「やろう!」
「とりあえず浅草旅行の時の歌詞は6割が出来てるよ。」
"古き歴史の彼方に 現在の揺らぎを
桜の花たちが ビジョンを伝えている
川が流れて やがて浸透する
華やかな香りとほろ苦さが
写真に切り取られる キミの笑顔
そのちょっとした変化が心地いい
人に助けられて 言葉に励まされて
小鳥の声に気付かされる
春が来たのだと
始めるのは ここからだと
そう言うように ふわっと温かく吹いた
背中を押されて
いろんな花が応援だと咲いて
夜の月に照らされて
ボクは思い知らされる
こんなにも愛されているのだと
ぽろっと温かい一雫が流れる"
「もうこれ、ほぼ完成じゃね?」
「たしかに。」
「何か足したいなー。いろんな花のところにそれぞれのメンバーカラーにちなんだ花にする?
例えばきぃちゃんはチューリップ、そーくんはヒヤシンス、けーくんはネモフィラ、僕はフリージアとか?」
"あからかにチューリップは温かく
爽快にヒヤシンスが元気に振る
姿に背中を押されて
夜の月に照らされて
縁でネモフィラに不思議と
フリージアがポジティブに
勇気が駆け上がってくる"
「めっちゃいいじゃん!!」
「花の名前でより春らしい歌だな。」
「次のライブで披露したいよね!良かった、きぃちゃんの力になれて!」
「ありがとう。奏響、慧、優。」
この歌詞には"HaRuViNenS"と名付けた。
「よーし、この調子で紫色のファイルに突入だ!」
「…本当にやるの?」
「嫌なのか?」
「嫌というか、まだ歌詞作り始めたばかりの時のだから恥ずかしいなって思って…」
私は紅茶を飲もうとカップに口付けようとした時。
「恥ずかしい物じゃないよ。」
「優?」
優が珍しく下を向いている。
「恥ずかしくない、絶対!!だって初めてで25枚もきぃちゃんが作ったんでしょ!?こんなにファイルがみっちりとしてて、きぃちゃんの努力とか想い詰まったものなのに…」
「そうだな。Shine L!ghtも今やBlueStaR L!neЯには無くてはならない1部だからな。」
「足りない部分はあっても、俺たちで足し合えば4倍の曲になるんだから、やらなきゃもったいないと俺も思うなー!」
困ったな、これの後の曲の方が何倍も良いはずなのに…まさかHaRuViNenSを歌う前に私が背中押されるなんて。
「わかったよ。」
「ふふ!大丈夫、絶対良い楽譜だよ!」
「だな、俺もそう思う。」
「よし!もうひと踏ん張りしようー!」
「「にゃー!!」」
私たちじゃなくて、レイとラックが返事した。
「はは!いいね、子猫2隊員!」
「あ、レイくんとラックくんも僕たちを応援してくれてるのかな?」
私たちは外が暗くなるまで、曲作りは覚めなかった。
"SigNaLNo!Se"と"STEP×4≒ How far!"とアップテンポで軽やかなロックサウンドがこの紫色のファイルから生まれた。