38.罪と罰
ラルス殿下はユリアーナを冤罪で殺したあとの話を始めた。
前回の生で、ユリアーナに直接手をかけた騎士──ドナート男爵令息ゲオルクは、即座に囚えられ魔法で封じられた牢屋に入れられた。
心身摩耗状態でずっと「クラーラ様、クラーラ様」と呟き、動機の捜査にも応じられない状態だったらしい。
クラーラも貴族牢に入れられた。
「私の父はブランシュ公爵よ!」と叫んでいたが、カールハインツはこれを無視。
名目上のブランシュ公爵夫人ティアナが掛け合ったが、結局解放されず。
その後はラルス殿下も謹慎処分を受け、生かされた中で最も罪が重い刑と言われる『黒の塔』に軟禁されたらしいからクラーラたちがどうなったかは分からないらしい。
そして黒の塔幽閉中に各地で王家に対する反乱が勃発。
二代に渡り婚約破棄騒動を起こし、著しく貴族社会の規律を乱したとして、既に国王陛下と王妃殿下として即位なされていたご両親であるリュディガー殿下とイルゼ様は、その罪を償うために毒杯を賜われた。
兄の騒動の尻拭いが終わらないうちに息子の騒動だったから、とばっちりのような気もしないではないが、前回のお二人も……合意の上かどうか、また真偽も定かではないが、愛人疑惑があったから、それもまた火に油を注ぐ形となったのだろう。
「私もどうにかして自死しようとしていたら、ブランシュ公爵とノワール公爵が来て時戻りの魔法を使ったんです」
時戻りの魔法は、ノワール公爵家に伝わる秘伝の禁忌魔法らしい。
光の公爵家と闇の公爵家、そして王家の力で発動させられるとラルス殿下は語る。
「私とブランシュ公爵は、ノワール公爵の敷いた魔法陣の上で、ブランシュ公爵が準備した短剣で胸を突き死亡しました。気づいたときには小さな身体になっていて、成功したのだと知りました」
それからラルス殿下は、再び過ちを犯さないように動くことにしたらしい。
まず両親の仲を正した。
ラルス殿下が生まれて以降共寝をしていなかった王太子殿下夫妻は、やはり前回の生でお互いに愛人を持っていたらしい。
毒杯までの判断が短かったことから、もしかするとフォルクハルトと同じだったのかもしれない。
だからそうならないように、二人に愛人ができないようにと不仲を解消すべく話したそうだ。
「ちなみに具体的にどのような……?」
「……」
ラルス殿下は気まずそうに気恥ずかしそうに目を逸した。両親に共寝をしろ、と子が言うのは……親からすればだいぶ……くるものがある。
「時戻りの話はされましたか?」
「それは……していません。ただ、弟妹がほしいと、言っただけです」
それは……
7歳のラルス殿下がおねだりしたと思えばまだ可愛らしいが、18歳のラルス殿下が強請ったと思うと……
「ユリアーナ嬢が死んだり、国が滅びるより……マシだ。これくらい、どうってことない……っ」
目を瞑り、膝の上で拳を握り締めるラルス殿下は、わざとそう振る舞わなくてはならなかったことに羞恥心を募らせているようだ。
悶える姿を想像するだけでなんだか気まずくなるのは気のせいだろうか。
だが、彼の羞恥をかき捨てた分、ユリアーナの幸せに繋がると信じたい。
「そ、それでお二人の仲が改善されて、イルゼ様はご懐妊されたのですね」
「そうです。元々基礎的な王子教育しか受けていなかった両親は、王太子、王太子妃になるために今まで以上に詰め込まなくてはならず、互いに多忙を極めました。お祖父様もなるべく早めに王位を譲りたかったようです。前回は私が王太子に任命されて間もなくして譲位されました」
なるほど。……王太子として詰め込まなくてはならない時に、更に多忙となる譲位……。
お二人のストレスは半端ないものだっただろう。
「互いにギクシャクして、労うこともままならず、会えば余裕の無さからケンカして……結局すれ違ったまま他に癒やしを求めてしまい、修復不可能な状態でした。……父に至っては子もいたんじゃないかな……」
トオイメをしたラルス殿下の言葉で確定した。おそらく貴族の中ではそれも革命に至る理由の一つになったのだろうな。
婚外子は王位を揺るがす事に繋がる。
「だから、目覚めてすぐに両親の仲を改善しました。強制的に同じ部屋に押し込んで話し合ってもらって、すれ違いをなくしました。私は前回の生で自分は王位に相応しくないと分かったから……、母上が懐妊してくれて良かったと思っています」
ユリアーナもそう思っているだろうか。
あの子は自分があとを継ぐと言っているが、……本当に心からそう思ってくれているだろうか。
「ラルス殿下が自分なりに運命を変えようとしているのは分かりました。自分の矜持を捨ててでも、ユリアーナの事を慮ってくださっているのも。……でも、クラーラに傾倒していたあなたが、どうしてそこまで変わったのですか?」
ユリアーナに婚約破棄を告げ、舌の根も乾かぬうちにクラーラに求婚した。
それが何故?
ラルス殿下は唇を噛み締め、痛いくらいに膝を握り締める。
「時を戻って記憶が甦ってから毎晩……、夢に見るんです。毎回ユリアーナ嬢が、ドナート男爵令息に剣を突き刺されて血飛沫をあげて絶命する。
それで飛び起きるんです」
……さすがに、それは……、と、絶句してしまった。
時が戻った彼は、7歳くらいだ。悪夢に魘され、飛び起き、……そのあと眠れているのだろうか。
ラルス殿下をよく見てみれば、目の下に大きな隈がある事が分かる。
眠れないのは辛いことだ。けれど。
「……それは、ラルス殿下の自業自得というものではないでしょうか」
きっと私の性格は悪い方だ。
7歳の子ども相手にして、許せるほど人間できていない。
記憶が無いならまだしも、彼は婚約破棄をし、冤罪で殺させた記憶を持っている。
無罪とは思えない。
「すまない……、ごめんなさい、すみません……ぅ……ゔぁ……ぅうぅ……ぐぅ……」
涙を堪えるように歯を食いしばり、けれども溢れて来る涙はぼたぼたと床に落ちていく。
時を戻って、彼も苦しんだのだろう。
被害者であるユリアーナは覚えていないようだから、謝罪すらできないだろう。しても意味が無い。
許しを得られないことは、罰がいつまでも続くという事だ。
悪夢もいつまで続くか分からない。
……それが彼にとっての罰なのかもしれない。




