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死に戻った私は、冤罪で殺された娘の幸せだけを求めます  作者: 凛蓮月@騎士の夫〜発売中です!
第二章/ユリアーナの幸せ

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28/29

28.予想外の発表


「マルレーネ様、お久しぶりですわ」

「お久しぶりね。すっかり元気になられたようですが、お加減はいかが?」

「ええ、おかげさまですっかりとよくなりましたの。毒気も抜けましたわ」


 ほら、このとおり、とアルビーナ様は朗らかに笑った。

 以前見たときはやつれ、ヨレヨレになっていたが、今は見違えるほどきれいになった。

 彼女は今、実家のハイツマン伯爵家に住み、兄夫婦の補佐をしていると聞いた。


「今はお義姉様が身重なので、お兄様のエスコートで参りましたの」


 アルビーナ様の柔らかな髪がさらりと揺れる。

 貴族女性は結婚すると結い上げるが、独身の令嬢は髪をおろしているのが主流だ。

 アルビーナ様は離婚して夫人から令嬢に戻ったせいか、ハーフアップでまとめられている。


「いきいきとなさっておいでで、私も嬉しいわ」

「ありがとうございます。マルレーネ様に、あのとき背中を押していただけなかったら、私はきっとあの家の醜聞に巻き添えになってしまっていましたわ」


 あの家とは、もちろんボルク伯爵家のことだ。

 アルビーナ様の元夫のエッカルト様は、離婚後すぐにティアナと再婚した。

 ティアナの娘のクラーラも、養子として迎えた。


 ところが、先日のお茶会でクラーラがラルス殿下に許可なく近寄り、殿下の不興を買ってしまった。

 その結果、二人は不敬罪で投獄されたため、事情を聞いたエッカルト様のご両親がカンカンに怒り、エッカルト様とティアナは強制離婚させられた。


 さらに言えば、エッカルト様は後継者から外され、ボルク伯爵位は父親に返上され、次期後継者はデニスになった。

 今のエッカルト様は伯爵令息で、デニスが成人するまでのサポート役という立場らしい。


「今日エッカルト様は……」


 辺りを見回していると、アルビーナ様に目線を送られた。その先を見てみると、こちらをチラチラと見ている、どこかやつれた風のエッカルト様がいた。


「無様よね。自分が迎えた女によって、家を危機に晒すなんて」


 アルビーナ様の冷ややかな目線がエッカルト様を刺している。

 だが、そこには捨てきれない情けも混ざっているような気がした。


「ご子息とは会えているの?」


 子どもの話に切り替えると、彼女は瞬時に母の目になった。その表情は暗い。


「月に……一、二度程度よ。元義父の……ボルク伯爵のご意向で、里心をつけないためらしいわ。

 それはそうよね。ボルク伯爵家の後継者は、デニスだけだもの」


 貴族の結婚は、後継者を儲けるためでもある。

 それは六公爵家だけでなく、どの家も等しく義務としてある。

 ボルク伯爵家の正統な血筋は、デニス様だけだった。

 アルビーナ様は産みの母ではあるが、離婚したら他人となる。

 あのときは命の危険性があったため、一刻を争う事態だった。

 ボルク伯爵も、エッカルト様にこれ以上醜聞を作らせないため、再婚させる可能性は低いだろう。

 むしろまだ貴族籍にあるだけで奇跡のような物だ。


 デニス様が母親に会い、母恋しさに家を出てほしくないため、あまり会わせたくないだろうが、それではアルビーナ様の気持ちを無視していることになる。

 だから、月一、二度程度の面会は譲歩した結果なのだろうと思う。

 なんの過失もなく子に会えなくなったアルビーナ様からすれば、納得はいかないだろうが、貴族とはそういうものだ。


「全く、ティアナに関わるとロクなことがないわね。どれだけの人の幸せを壊せば気が済むのかしら。もう二度と出てきてほしくないわ」

「本当、その通りだわ。娘もだけれど、王族に不敬を働いて罪を言い渡されるなんて、常識がないにしても限度というものがあるでしょう」


 色恋沙汰に振り回されれば悲惨な結果しか生まないというのは、身をもって体感した。

 誰かに恋をし、愛しても、正しく返ってくるとは限らない。

 自分が正しい感情でいられるかも分からない。

 よく熱病に例えられるが、本当にそう思う。

 一時の感情に振り回され、周りの人を巻き込み、時が経ってまともな思考になったとき、幸福であるか破滅しているかの究極の二択になるのだから。


 しばらくアルビーナ様と談笑していると、小さく声がかかった。


「アルビーナ」


 それは先程見たエッカルト様だった。

 せめて社交場にはまともな正装を、とボルク伯爵が準備したのだろう。

 窶れ、目の下に隈を作り、少し残ったヒゲと、パリッとしたタキシードを着る風貌が何だかアンバランスな印象だ。


「元気かい? ……その、あのときはすまない。どうかしていた」


 アルビーナ様は閉じたままの扇子を口元にあて、一応耳は傾けているようだが、目線は別方向を向いている。


「あ……、その。デニスとの交流のときも、会えないから、どうしてるかな、って気になってたんだ」

「…………」

「アルビーナ……ごめん。本当に、ごめん。俺、これからちゃんとやるから、できれば、戻ってきてほしいんだ。デニスのためにも」

「お断りいたします」


 エッカルト様が息を呑む。

 捨てられた犬のように瞳を揺らし、口を動かすが次の言葉が出てこないようだ。

 対してアルビーナ様の瞳は冷え切っている。


「今、私が生きていることが不思議なくらいの毒を盛られておりました。ただ、愛人が正妻になりたいという理由で。それだけのために、私は死ぬところでしたの」


 デニス様は目を見開いた。

 アルビーナ様の窶れ方は尋常ではなかった。

 まるで前世の私のように、急激に痩せていた。

 もしかしたら、同じ毒を盛られていた……?


「証拠不十分で誰に盛られていたかは有耶無耶になりました。幸い、解毒剤が間に合う段階でしたから奇跡的に生きておりますが……」


 アルビーナ様はエッカルト様に向き直る。

 その表情はもう、見限ってしまっているものだ。


「例えあなたのもとに戻っても、またティアナが出所してきたとき、あなたは彼女を迎えたいと言うでしょう?」

「言わない。言わないよ、絶対。もう二度とティアナもクラーラも迎えない。だから……」

「いいえ、もう信用できません。婚約していたときも、あなたはティアナを見ていた。結婚してからも、ずっとティアナを想っていたわ」


 違う、違う、とエッカルト様は言うが、二度も裏切られれば信用できなくなるのは仕方がない。

 私もカールハインツを信用しているわけではないから、アルビーナ様の気持ちはよく分かる。


「デニスをよろしくお願いいたします。立派な後継者として育ててください」


 そう言って、アルビーナ様は頭を下げた。

 エッカルト様は絶望的な顔をしていた。


「ごめんなさいね、マルレーネ様。私たちの茶番に付き合わせてしまって」

「いえ、いいのよ、気にしないで」


 アルビーナ様は穏やかに微笑われるが、内心は複雑だろう。

 婚約していたときから辛い気持ちを我慢して、それでもエッカルト様のそばにいたのは彼を愛していたからだ。

 その愛を壊したのは紛れもなくエッカルト様。

 今さら戻りたいと言っても、もう遅い。


「そろそろ国王陛下から何か発表があるそうだから、行きましょうか」


 アルビーナ様に促され、その場を離れる。

 視界の隅にいたエッカルト様は、肩を震わせていたが、すぐに視界から消えた。


「それにしても、何の発表でしょうかね」

「マルレーネ様の旦那様は宰相をなさっているのですよね? 何か聞いていませんか?」


 夫婦の会話はあまりない、とは言えず、苦笑でごまかした。

 何と返せば、と逡巡するうち、国王陛下が姿を現した。

 隣には王妃殿下、そしてその後ろには久しぶりに見るリュディガー王太子殿下とイルゼ様、さらにまだ六歳のラルス殿下の姿まである。


 ……気のせいかしら。

 イルゼ様のお腹回りが、少しふっくらして見えるのは。


「皆のもの、静粛に」


 国王陛下の声がかかると、辺りがしん、と静まった。同時に頭を垂れ、挨拶をする。

 もう一度お声がかかるのを聞いて姿勢を正すと、国王陛下が手を挙げた。


「今日、素晴らしき夜に集まってもらえたことに感謝をする。今宵、皆によき知らせがある」


 リュディガー殿下が、イルゼ様の手を取り一歩前に出た。


「この度、リュディガーとイルゼは、再び新たな命を授かった。安定するまで秘匿していたが、母子ともに順調だ。どうか皆の者、祝福してほしい」


 瞬間、どっと拍手が沸き起こった。

 私は驚愕で目を見開く。


 こんなこと、前回はなかった。

 リュディガー殿下とイルゼ様の間には、子は一人……ラルス殿下しかいなかった。


「まあ! これはおめでたいですわね!」


 アルビーナ様は笑顔で拍手を送り、祝福している。

 対して私は、前回と変わったことに、思考が追いつかないでいた。


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