表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死に戻った私は、冤罪で殺された娘の幸せだけを求めます  作者: 凛蓮月@騎士の夫〜発売中です!
第二章/ユリアーナの幸せ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/26

23.その笑顔のために

 

 時を遡り、死んでいた私は肉体を得てこの世に甦った。

 死に際に手を握られた時の温かさを大切にしたくて、今世こそは手を握ってくれた娘──ユリアーナの幸せのためだけに生きると決めた。


「あのね、今までお母さまとお父様とあまりお話できなかったでしょう? だから、こうしてお話できるのが、とても嬉しいの」


 頬に手を添えて、瞳を輝かせながら言う我が娘は誰よりもかわいい。

 私は確かに自分を犠牲にしてまでもこの笑顔を絶やさない、と決意した。だが。


「ちょっと前まではお仕事ばかりで忙しかったお父様は、最近夜はお屋敷にいらっしゃるし、お母さまも痩せていらしたけれど今はとても美しくなられたわ。だから、お二人が並んでいる様を見るのが、私の幸せなの」


 えへへ、と笑うユリアーナに対して、私は自然に笑えているだろうか。たぶん否だ。どうしても引きつってしまう。

 何度でも言うが、私はユリアーナの幸せを願っている。望みは何でも叶えてあげたい。


「そ、そうなの……」


 どうしよう、苦笑いしかできない。どう答えたらいいかしら。


「そういえば、お父様はどちらへ?」

「え、ええ、領地のことがあるから、と家令に呼ばれて行ったわ」

「そうなの……。まだ陽も高いから、三人でお庭でお茶会ができたらいいな、と思っていたのだけれど……」


 ユリアーナがしゅん、と俯いてしまった。

 う……こ、これでは私が悪みたいじゃない?

 正直、カールハインツには必要以上に会いたくない。

 でもユリアーナのこんな表情を見たら、私の嫌な気持ちは呑み込まなくてはならないじゃない?


 ええい、腹を括れマルレーネ!

 お前のやるべきことは、ユリアーナを笑顔にする事だ。そのためには何でもやると決めたでしょう?


「お父様は執務室にいらっしゃると思うわ。一緒に行ってお誘いしてみる?」

「いいの?」

「ええ。あまりにも忙しそうならお断りされるかもしれないけれど、そのときはお母様とピクニックしましょう」


 ユリアーナは嬉しそうに笑い、コクコクと頷いた。

 手を繋いで執務室を目指す。ユリアーナは少し緊張気味のようだ。

 目的の場所に到着し、扉を叩いた。


「どうぞ」


 聞き慣れた声がして、私まで緊張が走る。思わずユリアーナの小さな手を握る力がこもってしまった。


「お母さま、大丈夫ですよ」

「えっ? ……あ! ごめんなさい、強く握りすぎちゃったわね」

「私は平気です。おかげでドキドキが取れました」


 逆に励まされてしまい、その頼もしさに惚れるところだったわ。


「失礼いたします」

「……ユリアーナ? と、マリー……? どうした? 何かあったのか?」


 侍従と共に書類の見比べていたらしきカールハインツは、顔を上げて手を止めた。


「お忙しい中、失礼いたします。お父様、お手すきであればお庭でお茶会をしたいのですが、いかがでしょうか?」

「お茶会……?」


 今までこういう事はなかったせいか、カールハインツは驚き、戸惑っているようだ。

 返事が無い事にユリアーナの手を握る力が少し強くなった。


「まだ陽も高いし、お天気もいいから、とユリアーナの提案なんです。お忙しいのであれば、日を改めますわ」

「あ……すまない。いや、その、……私が一緒にいてもいいのか?」


 今までの不甲斐なさを気にしているのだろうか。

 私達が嫌そうにした事はないが、積極的に踏み込まれても……まあ、確かに私の気持ちとしては突っぱねてしまうだろう。


「お母さまと、お父様と一緒にお茶会をしたいのです。お仕事ばかりでは疲れてしまうでしょう? ですから、どうかな、と思いまして」


 なおも誘うユリアーナに、言葉が見つからない様子。

 嫌なら嫌でも構わない。私とユリアーナだけでも問題ない。


「ユリアーナ、お父様は……」

「行く! 行くよ。行きます。きみたちがいいなら、行く。いいだろう?」


 侍従に聞けば、片眉を上げて頷かれた。

 どうやらカールハインツはお茶会に参加するらしい。

 ユリアーナを見れば、目が合った。とても嬉しそうな顔をして、今にも飛び跳ねそうな勢いで喜んでいる。


「ありがとうございます、お父様! 早速準備しますね!」

「あぁっ、ユリアーナ! 走るのは、はしたないですよ!」

「今日は見逃して!」


 嬉しいのは分かるが、あんなにはねっ返りのようだったかしら? とため息が漏れる。

 前回も含め、今まで大人しく、聞き分けのいい子だったが、あんな一面もあるのだと驚いた。

 だが、今の方が子どもらしくていいのかもしれない。

 ユリアーナには笑顔が一番似合う。


「んんっ」


 声がした方を見れば、カールハインツが立ち上がり、なぜか咳払いをしながらこちらに向かって来た。


「……行くのだろう?」


 ぶっきらぼうに腕を差し出す。エスコートをするつもりかしら?


「早く。ユリアーナが待っている」


 そっぽを向きながら、気のせいかしら。耳が赤い気がするわ。

 ……そんな反応、求めていないのだけれど。

 でも、紳士淑女として、礼節は重んじなければならないし、先程ユリアーナも私たちが並んでいるのを見るのが幸せだて言っていたわ。

 ここは一つ、女は度胸ってところの見せどきね。


「早く行きましょう」


 ええい、ままよ、と言わんばかりに差し出された腕に手を添える。

 硬くて、温かくて、慣れない感触に緊張感が走る。

 並んで廊下を歩いていると、メイドたちが頭を下げて見送ってくれた。


 広庭にはお茶会のためのテーブルが準備されているところだった。

 どうやらユリアーナが采配し、あれこれと指示を出しているようだ。


「あ、お母さま、お父様! こちらです!」


 小さな手を大きくぶんぶんと振る様の可愛らしいこと。

 嬉しそうに笑い、楽しそうに手を振る。

 少しは並んできた甲斐があったというものだ。


「お母さまは、こちら。お父様はこちらです」


 指定席に座ると、ユリアーナは控えていたメイドに合図を送る。

 私の隣になるように円卓を囲み、ユリアーナは向かい側に座った。


「今日はようこそいらっしゃいました。お時間の許されます限り、おくつろぎくださいね」


 どうやらユリアーナはお茶会の主催をしてくれるらしい。

 あまりの可愛らしさに悶えてしまいそうで喉がぐるっと鳴った。


「素晴らしい席をご用意いただき、ありがとうございます」


 カールハインツがユリアーナに便乗する。

 ちらりと目配せをされ、私も向き直った。


「本日はお招きいただき、ありがとうございます。私も、楽しませていただきますね」


 戸惑いが先にあってぎこちなくなった気もするが、ユリアーナに微笑んでみせる。

 すると、ふわっと花が綻ぶような笑みが返されて、誰もいなければ転がりまわって悶えたいところだった。

 もちろんそれは淑女として眉を顰められてしまうため、心の中で存分に悶えることにした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ