21.いずれ行き着く先の問題
三人はとても楽しそうにおしゃべりをしている。
女の子二人と男の子一人。誰かあぶれるかな、という心配もいらないくらい、仲がよかった。
ブランシュ公爵家でのお茶会のあとは、ノワール公爵家、ベルンシュタイン伯爵家と順繰りにお茶会のホストをした。
三回程繰り返せばそろそろ親はいいだろう、ということで、次回からは子どもたちだけのお茶会となる。
しっかりしているとはいえ、まだ六歳。
護衛はつけたし侍女も専属の優しい女性を選んだ。彼らを信用していないわけではないが、心配なものは心配だ。
初めて子どもたちだけで、となった日は、ノワール公爵家だった。だから私は留守番。
「ではお母さま、行ってまいります」
「行ってらっしゃい。忘れ物は無い? 手土産のお菓子は持ってるわね? 公爵家までのルートは安全な道を通るのよ。それから」
「大丈夫ですよ、お母さま」
ユリアーナは苦笑して私を窘める。娘に心配をかけるなんて、情けないわ……
侍女と護衛と共に馬車に乗り込み、ユリアーナが乗った馬車は行ってしまった。
ユリアーナが不在の間、私は気もそぞろになり、何も手につかなかった。
「奥様、大丈夫ですよ」
「分かっているわ。ユリアーナの事だもの。しっかりとご挨拶をして、マナーも守って、レディとして申し分ない事はわかっているけれど、どうにも落ち着かなくて……」
侍女に苦笑されてしまったが、心配なものは心配だ。
ああ、やはりもう少し大きくなってから独り立ちさせるのだったかしら。
結局、ユリアーナを思ってそわそわして、私は一日を無為にしてしまった。
高かった陽が傾きかけた頃、外から馬車の音がした。
「帰ってきたわ!」
いてもたってもいられず、私はドレスをたくし上げ急いだ。後ろから侍女が慌てて叫んでいるが、構わない。
「ただいま戻りました」
「ユリアーナ! お帰りなさい!」
玄関先で侍女に連れられたユリアーナに駆け寄り、小さな身体を抱き締める。
ああ、温かい。ちゃんと生きて、無事に戻って来てくれた。こんなに幸せな事はない。
「お母様、苦しいです」
「ああ、ごめんなさい。無事でよかったわ。ケガは無い?」
「大丈夫です。危ない事はいたしません」
「そうね。そうよね。とにかく無事でよかったわ。疲れてなければ今日のお話を聞かせてくれる?」
「もちろんです! あとでお部屋に伺いますね」
ユリアーナは侍女に手を引かれ、自室へ向かった。
信頼していないわけではないが、あんな事を見てしまうとどうしても不安になるものだ。
もう少し護衛を増やせばマシになるかしら……
「今日はエルナ様と本を読んでいたの」
「シュバルツ様は?」
「シュバルツ様も一人で静かに読んでいたわ」
そう言ったとき、ユリアーナの頬にかすかに赤みが差した気がした。
「三人とも、とても仲がいいわね」
「ええ。シュバルツ様は優しいし、エルナ様もとても気が合うの。お友達になれて嬉しいわ」
──気のせいかもしれない。
ユリアーナに前回の記憶があるのかは分からないが、こうして幼い頃から仲良くしてくれる友人がいれば、たとえこの先何か悲しい事や試練があってもきっと支えてくれるだろう。
あとは……婚約をどうするか、だ。
今の所王家からの打診は無い。
貴族はもちろん、王家も早くに地盤を固めるため、幼い頃から婚約を整える事はよくある話だ。
条件が合う家は早めに押さえておかなければ他に取られてしまうかもしれない。
ラルス殿下の将来の治世を安定させるためには、妃となる令嬢の生家は伯爵家以上が望ましい。
だから早めに決めておきたいと思っているだろう。
ラルス殿下と同じ年頃の伯爵家以上の令嬢といえば、ユリアーナやエルナ様の他にも心当たりがある。
……そういえばクラーラも今は伯爵家にいたわね。
ボルク伯爵家の籍に入れられているかは分からないけれど。
ユリアーナはカールハインツの打診でなくても、家柄も申し分ない婚約者候補だった。
それは今回も変わらない。
けれど、私は自分の経験や前回の生を含めると、幼い頃から婚約を決めてしまう事に賛成はできなかった。
できればユリアーナは、幸せな結婚生活を送ってほしい。
高位貴族ともなれば気を張っていなければならないため、支え合える夫婦関係になってほしい。
だからせめて尊重してくれる令息を望みたいのが親心だ。
とはいえ、成長すれば分からない。
人はどうしたって変わりゆく生き物で、心を縛ることはできない。
今はよくても、些細なことがきっかけで裏切られたりする。
ユリアーナを傷つける人はいらない。
「そういえば、次はノワール公爵家の番なのですが、シュバルツ様のお父様が、お母様と、できればお父様も一緒に来てほしいとおっしゃいました」
「というと、ヴァイス様が?」
ユリアーナが小さく頷く。
付き添いとしては、カールハインツは仕事があったため、今までは私だけだった。
それが彼も一緒に、と言われてなんだか胸騒ぎがする。
公爵家当主も、というならば、まさか……
こういう時の予感は、なぜか当たってしまう。
「よく来たね、マリー。……カールも。折入っての話なんだが」
ヴァイス様はゆったりとした笑みを浮かべる。
「シュバルツと、ユリアーナ嬢を婚約させたいと思っているが、どうだろうか?」
それは貴族として生まれたならば、避けては通れない問題だった。




