芸の細かい話
あなたは『芸』と聞いて何を思い浮かべますか。芸能とか芸術でしょうか。
『芸は身を助く』といいまして、何かの一芸に秀でていると、人生の助けになるようです。
その森ではトチノキの葉が風にゆれていた。
木の根元に小さなタヌキくんと、頭に王冠のようなものを乗せた白いおサルさんがいる。
二人の間にあるお皿には、半円の焼き菓子が乗っている。
皿の横には湯気のあがる湯呑も置かれていた。
「んとね。白猿さん。7月7日は七夕だよね。ぼくも短冊に願い事を書いて吊るすの。おいしいものが食べられますように」
「子狸くん。七夕は元々は自分の芸の向上を祈るイベントなんだ。だから、短冊には欲しい物を書くのはちょっと間違っているかもな」
「芸って歌とか踊りとか、楽器の演奏かな」
「そういうのも含めて、練習を重ねて上達する技能全般だ。手芸、つまりお裁縫でもいいし、
武芸や学芸も含まれる。技術や芸術に関係ある願い事の方がご利益がありそうだぞ」
「そうなんだ。ところで七夕は一年に一度だけ、ひこぼしさんとおりひめさんが会えるんだよね。どうして一年に一度だけなんだろう」
「元々は中国の昔話だけど、ひこぼしは普通の人間の男性で、おりひめは天界の女性だということ。身分違いのお話だけど、出会いは2パターンある。1つめは、おりひめの方から人間の男性に恋をするもの。おりひめは、機織りが得意だったけど、結婚後にやらなくなった。おりひめのお母さんが怒って天界に連れ戻したんだ。で、一年に一回だけあうことを許可された」
「んとね。さっき、お裁縫の話がでたけど、おりひめの機織りと関係ありそうなの」
「もう1つのパターンは羽衣の伝説だ。身につけると空を飛べる羽衣で、おりひめが人間界におりてきた。ひこぼしが羽衣をかくして、無理やり結婚するんだ。おりひめは、あとで羽衣が見つけて帰ってしまう。ひこぼしは牛の神様の力で天界にあげるだんけど、おりひめの父親から一年に一回だけあうことを許可される」
「ひこぼしとおりひめの星って、実際にあるんだよね」
「東の空の高い位置に見えるよ。こと座のベガがおりひめ。天の川をはさんで、わし座のアルタイルがひこぼしだ。ついでに、はくちょう座のデネブも合わせると夏の大三角になるぜ。夏の夜空で星が見えたら、探してみるといいぜ」