4.やらかした
カーテンの隙間から朝日が差し込む。眩しさで目が覚めた。
「うわ、頭いった…」
完全に二日酔い。ガンガンする頭を抱えてベッドから起き上がる。とにかく水、水…と体を起こして、そして気づく。
「……え?」
横を見ると、そこにはスヤスヤと寝息を立てる犀川さん。しかも、布団の中からのぞく白い肩。そして…俺も、裸。
「……え、ちょ、えっ!?」
一気に目が覚める。乾ききった喉を一瞬で忘れ、全力で昨日を思い出そうとする。
(いやいやいや…さすがにこれ、やってるだろ……やってるやつだろ……)
頭ガンガンなのに、こういう時ほど記憶がじわじわ蘇る。で、やっぱり確信する。
(あああ~~やってるわこれ~~~)
1人で悶絶していると、隣から声が。
「ん……なに、うるさ……まだ寝かせて……」
ゴロンと横向きになった犀川さんは、ぼさぼさの髪で目をしぱしぱさせながら俺を見る。あまりに無防備で、もちろん全部丸見えなわけで、こっちは余計に混乱。
「え、あ、いや、あのっ……!」
「……ふふ。なにその反応~、面白~」
ニヤッと笑った犀川さん。明らかに昨日のこと覚えてる顔。
「かわいかったぞ、昨日」
「やめてくださいマジで!!」
必死に顔を隠す俺を見て、声を出して笑う犀川さん。くっそ、こっちはパニックなのに余裕しゃくしゃくでイジってきやがる。
「ほらほら、なんて呼ぶんだっけ~?」
「あっ……」
「なんて?」
「……咲、……さん」
「ブッブー」
「咲……」
「正解!」
めっちゃ満足そうに頷いて、またゴロンと布団に潜り込む咲さん。その背中を見ながら、なんかもう全部流されるしかないなって思い始めてきた。
「ねぇ、咲さん…」
「呼び方」
「…ちょっとづつでおなしゃす」
「まぁいっか、でどしたの?」
「昨日……なんで、俺と?」
すると布団の中からクスクス笑い声が。
「んー、ま、ノリ?でもまぁ、ずっといい子で我慢してたし~。ご褒美?」
「……俺ペット扱いっすか」
「んー、違う。ちょっとかわいい後輩?」
「いや結局ペットだわ!」
そう言うと、咲さんはまたクスクス笑いながら、手を伸ばして俺の手を引いた。
「わかる?お前は私のかわいいペットだよ」
そう言って笑う。その笑顔にドキッとさせられる。
「ほら、いいから、もっかい寝よ。今日はオフなんだしさ」
「え、いや……水……」
「水くらいあとであげるって」
そのまま腕を引かれて、あっさり布団に引きずり込まれる。近すぎる距離と、接している素肌に心臓が思わず跳ねて、言葉に詰まる。咲さんはクスクス笑って、俺の髪をぐしゃっとかき回す。
「昨日も今日もほんっと可愛い~。……もう一回やっとく?」
とても魅力的な提案だが、まじで水が飲みたすぎる。だが、このままでは絶対に咲さんに逆らえないことは分かってる、どうすればいいんだ!そう考えているとふと思い出した。
「…そういえば……そろそろパチ屋行く時間じゃないんすか……?」
そう言うと、咲さんの手がぴたりと止まる。一瞬だけきょとんとして、それから「あっ!!」と叫んだ。
「やっば、ほんとじゃん!ちょっと、何で早く言わないの!?」
一気に飛び起きた咲さんは、毛布を蹴飛ばして時計を確認し、慌てふためく。整理券配布が9時20分で現在は7時半。しかし、打ち切り600人なうえに、この地域一の優良店なので確実に600以上は来る。
「いやいや、さっきまでめちゃくちゃ余裕そうだったじゃないすか」
「だって! 完全に忘れてたんだもん……! やばい、財布……着替え着替え!!」
バタバタと部屋の中を行き来しながら服を探す咲さん。髪もまだぐちゃぐちゃで、いつもの余裕顔はどこへやら。そんな必死な姿が新鮮で、ちょっと可愛くも見えた。
「……で、俺も行くんです?」
服を着ながら聞くと、咲さんは下着をつけながらキッとこちらを見てきた。
「当たり前でしょ!何言ってんの、今日どんだけ気合い入ってると思ってんのよ!今日こそコンプすんの!」
「はは、はいはい。じゃあ、俺もゆっくり準備しますね」
「ちょ、ふざけんなって! あんたの分もタバコ持ってくから、さっさとして!!」
顔を赤くしながらも、必死に準備する咲さん。その後ろ姿を見ながら、俺はのんびりと服を着続ける。
「……ほんと、カスだなぁ」
小さくつぶやくと、咲さんが振り返って、目を細めながら指を差してきた。
「何か言った~? 置いてくからね、ほんとに!!」
「へいへい、すぐ準備しますって」
笑いながら、俺はペットボトルの水を一口飲む。咲さんはまだバタバタしてるけど、なんだかこの空気が心地よかった。
(……まあ、悪くないかもな。こんな朝も)
そう思いながら、昨日落ち込んでいたことに気づきはしなかった。
ちなみに抽選には間に合い、600人打ち切りの
咲 430番/600番
望月 29番/600番
収支は
咲 投資100k 回収15k
望月 投資10k 回収140k
もちろんめっちゃくちゃ喧嘩した。