ブルルルィィィハァァァァァ
アーヴァインは満足げに、空になった豪炎酒の瓶を投げ捨てた。
「うぃ〜……行くよ〜……ひっく……酔剣!」
剣を肩に担いで片足で立った。
「すいけん!?」
聞き間違いか?酔拳と言えば、酔えば酔うほど強くなるっていうあの拳法の?酔拳いや、剣を使うから酔剣!?って勇者が使う技じゃないだろ!
「ういっく……ふぅ〜」
片足のアーヴァインがユラユラと揺れて後ろに傾き始めた。
「よいっ!……ひっく」
倒れると思ったが、肩に担いだ剣が地面に刺さり背中がわずかに浮いている。
「ふひひ……うっぷ」
剣を軸にしてクルクルと回り、着地してフニャフニャと剣を動かし、肩に担いで再び片足で立った。
「これが酔剣……」
「はっ!……あ〜……うぷっ!」
肩に担いだ剣を振り……いや、剣に振り回されている……今度は前のめりに倒れ始めた。
「お?お?お?……ふひひひ……」
倒れると思った所で剣を地面に突き刺してクルリと回った。
「行くよ〜……うっぷ……ぶふぅ〜……はい!……ほっ!……はっ!……うぃっく」
「な、何だあの動きは!!……フラフラだ……」
剣が重いのか、千鳥足で行ったり来たり。ファントムドラゴンには全く近付けてないじゃないか!
「ア、アーヴァイン?……行かないの?」
「ぷふぅ〜……ん?うぶっ!」
吐きそうになったのを両手で押さえた。
「汚っ!ちょっ!ただの酔っ払いじゃないか!酔剣はどうした!」
「ゴックン!……うっぷ……ふぅ〜……落ち着きなよ……ぷふぅ……こっちから行かなくてもさ〜……ういっ……向こうから来るでしょ?」
「行くよって言ってただろが!」
『グォォォォォォン!』
ファントムドラゴンが顎を下げて地面に付けた。あれは突進の姿勢だ。
「来るぞ!逃げろ!」
「っぷ……ふひひひひ……うぃ〜っく!」
「ったく!アーヴァイン!来い!」
アーヴァインの腕を握ろうとしたが、スルリとかわされた。確かに触れたはずだ!
「何っ!?」
「大〜丈〜夫だよ〜……ひっく……モモチロンちゃんは……ゲプッ……逃げてよ〜」
しかしベロベロだ。フラフラで足元も覚束ない。これじゃあ突進は避けれない!
「大丈夫な訳ないだろ!一緒に逃げるぞ!」
そう言ってアーヴァインの腕を握った。今度はしっかりと握れた。さっきのは、たまたまか?
「逃げてって言ってるのにぃ〜……うっぷ……」
腕を引っ張って逃げようとした。しかし……今度はピクリとも動かない!
「くっ!動かない!」
ヴァイラスに変身している状態で引っ張っているのに動かないとはどういう事だ!?
「ブルルルィィィハァァァァァ……」
深く息を吐き出したアーヴァイン。陽炎のようにユラユラと歪んで見える。高濃度のアルコール混じりの息を一気に吐き出したからか?おっと、冷静に分析している場合じゃない。
「アーヴァイン逃げるぞ!」
「……逃げる……だとぉ?」
目が座っている……。
「な、何だ?アーヴァインの雰囲気が変わった!」
「誰に言ってるんだ?あ〜ん?」
顔をにじり寄せガンを飛ばして来た。
「酒臭っ!どうしたアーヴァイン!とにかく逃げるぞ!」
しかし俺の言葉に唇を尖らせ、剣を肩に担いだ状態でその場にしゃがんだ。ヤンキー座りだ。
「や〜かましいっ!俺様があんなゴブリンのケツ虫みてぇな奴から逃げる訳ねぇだろぉ〜!あ〜ん!」
「ケ、ケツ虫!?」
喋り方そして、顔付きまで変わっている。片眉を上げて睨み付け、唇を尖らせて喋る様はもうヤカラだ!
『グォォォォォォン!』
悪口が聞こえたのか、下顎で地面を削りながら突進を開始した。
「来たぞ!アーヴァイン!」
「ちったぁ黙ってろ!見りゃあわかんだよ!ケツ虫の方から来て当たり前だるぅが!俺様に来て貰おうなんぞ10メガビット早ぇんだよ!」
「何を言ってんだよ!こんな所にしゃがんでたらぶっ飛ばされるぞ!」
「誰に言ってるんだ!あ〜ん?言葉に気を付けろよ!ぶっ飛ばすの間違いだるぅが!ひっく」
「おいおいおい!酔っぱらいがこの野郎!」
「あ〜ん?この中に酔ってる奴いる?いねぇよなぁ!!!」
「おまえだよ!!」
『グォォォォォォン!』
「もう限界だ!逃げるぞ!」
「テメェは好きにしろ!……うっぷ……来い!ケツ虫1号!」
「どこに2号がいるんだよ!くそっ!酔っ払いの戯言に付き合ってる場合じゃない!」
アーヴァインが剣を投げて地面に突き刺した。
「おい!アーヴァイン!」
それを逆手に持ち、ユラリと立ち上がり引き抜いた。
「……うっぷ……行くぞケツ虫1号ぉぉぉ!」
【ピリッ】
アーヴァインの体に稲妻が走った。
「100メガビット・焔!」
【バリバリッ!】
赤い稲妻を残し姿を消した。
「なっ!消えた……どこに……いた!あそこだ!」
ファントムドラゴンの目の前に移動している。行かないとか言ってたくせに、結局自分から行ってるし。どっちなんだよ……。
「ういっ……うっぷ」
具合悪そうに前屈みで立っている。逆手で持つ剣に稲妻が走った。
「赤い稲妻……あの姿は……」
刀身をバリバリと赤い稲妻がほとばしる!そして、真っ赤に充血した目でファントムドラゴンにガン飛ばす。前屈みで立つあの姿はまるで悪魔……。
しかし既に、ファントムドラゴンとの距離はゼロ。衝突する!
「危ない!」
アーヴァインがユラリと動いた。
「ブルルルィィィハァァァ……100メガショック・焔!」
アーヴァインは、ファントムドラゴンの下顎から生える巨大な牙に、赤い稲妻がほとばしる剣の刀身ではなく、持ち手である『柄』をぶち当てた。
『グォォォァァァァァァァ!!!』
柄で突かれた事で、牙は稲妻がほど走りバキリと音を立てて折れた。
「剣いる?」
折れた牙が空中を舞う。グルングルンと回転して飛んで行った先にはプライマリーがいる。
「もう!」
しかしプライマリーが手を払うと、ファントムドラゴンの牙が真っ二つに割れて地面に落ちた。
「あっさり切断しやがって……」
ラスボスなだけはある。
「アーヴァイン!逆鱗だ!逆鱗を狙え!」
「黙ってるぅぅおぉ!今からやんだよ!100メガショック・焔るぅあぁぁぁ!」
剣の柄を逆鱗にぶち当てた。
『グォォォォォォォォォ』
逆鱗が割れ砕け、赤い稲妻がファントムドラゴンの体内を突き抜ける。
『ォォォ……』
ファントムドラゴンは白目になり、全身からプスプスと黒煙を上げた。そしてズシンと地響きを起こして、その場に倒れ込んだ。
「一撃か!やるじゃないか!」
「うっぷ……当たりめぇだるぅが!……オエッ……次はテメェだ!ケツ虫2号!」
剣の柄を上空のプライマリーに向けた。
「2号はプライマリーの事だったのか……」
でも、これならいけるかもしれない!
「そんな汚い名前で呼ばないでくれる?」
プライマリーが怪訝そうに眉をひそめた。
「ブルルルルルィィィハァァァ……降りて来い!俺様と勝負しオロロロロロロロ……」
ファントムドラゴンに手をついて吐いた……。
「アーヴァイン!」
まるで酔っ払いの手本のようだ。
「ハァハァ……うっぷ……あ、頭が……頭が割れそうだよ……」
「あれ?喋り方が戻ったぞ?」
「……酔いが……覚め……ちゃった……よ……うぷ」
「大丈夫か!?」
「大丈夫大丈夫……ハァハァ……でも、もうお酒は飲めないよ」
「え?酔剣は?」
「ね!」
「ね?」
勇者スマイルだ。これは分かる。ダメなやつだ……。




