本気を出しても良いのかい?
『グォォォォォォォン!』
ファントムドラゴンが前足を振り下ろした。
「やばっ!」
足が俺の目の前に降りて来た。その風圧で吹き飛ばされた。
「うわぁぁぁぁ!」
ゴロゴロと転がり顔を上げると、再び前足を振り上げていた。マズイ!倒れた俺を踏み潰すつもりだ。
「アイスフィールド!」
瞬時に気温が下がり、地面に接するファントムドラゴンの三本の足が凍った。ピタリと止まり、振り上げていた前足をゆっくり下ろした。シャロン助かった!
『グルルル!』
しかし、ファントムドラゴンが歩き始めると、いとも簡単に氷が砕け散った。
「まだです!グレイシアソード!アイシクルダンス!」
シャロンが氷塊の大剣でファントムドラゴンに斬りかかる。
【パキン!】
砕けた!堅牢な鱗は如何なる攻撃も通らない!
『グォン!』
威嚇するように短く鳴いたファントムドラゴンは、呆気に取られているシャロンに向けて頭を振った。
「危ない!」
下顎から生える巨大な牙がシャロンを薙ぎ払った。
「かはっ!」
血を吐き吹き飛ぶシャロン。
そこへ、とどめと言わんばかりに前足を振り上げた。
「エアダスター!」
それを阻止するジャックバッシュ。口から突風が吹き荒れた。その突風はファントムドラゴンの顔面に直撃した。がしかし、何事も無かったかのように霧散した。
『グルル……』
「コォォォォ……」
畳み掛けるジャックバッシュ。風を纏い跳躍してファントムドラゴンの背中に乗った。
「エアブロワー!」
真下に向けて渾身の正拳突き。更にゼロ距離で風が爆発した。が、それすらも霧散した。
「うおっ!」
ファントムドラゴンが体をブルリと振るわすと、ジャックバッシュが放り出された。
空中で無防備なジャックバッシュに、ファントムドラゴンの右手が襲う!
『グォン!』
「ジャックバッシュ!」
空中では身動きが取れない。
「ぐばっ!!」
強烈な張り手を受け、ジャックバッシュは城の壁まで吹き飛ばされた。そして、力無く地面に落下したジャックバッシュへと頭を向けたファントムドラゴンは、地面スレスレに顎を付けた。あの体勢は突進する気だ!
させない!目玉に投石して気を引くしかない!
「ダメだ!目が閉じてる!」
こちら側の目玉はすでに潰れている。これじゃ気を引く事が出来ない!
「私奴にお任せを!」
ドラゴンの反対側にいるゼルバリウスがペーパーナイフを投げた。
【キン!キン!キン!】
瞼を閉じた!目玉には当たらない。しかしそれで十分だ。
『グォォォォォォォン!!』
頭を振って嫌がっている。
「アーヴァイン様!今ですぞ!」
「任せてよ!」
目を閉じている今がチャンスだ!俺も立ち上がり構えた。アーヴァインと目が合う。
「モモチロンちゃん行くよ!」
「モモ……」
また、モモチロンちゃんて……最高にシリアスな場面でこの勇者は!
「もうそれで良い!顎は任せろ!スピードスター!」
「僕は喉だ!8メガビット」
俺とアーヴァインは、ファントムドラゴンの元まで高速で移動した。
「行くぜ!パニックスマッシュ!」
【ぱふ】
微動だなしない。混乱も付与されていないみたいだ。
「8メガショック!」
【ギィィン!】
アーヴァインの稲妻を纏った剣も弾かれた。
「ダメか!」
『グオオオオオオオオオオ!!!』
「モモチロンちゃん!一旦引くよ!」
突然ファントムドラゴンが暴れ始めた。
「どうしたんだ!?痛がってるぞ?」
「ハァハァ……モモチロンちゃんのぱふぱふパンチが効いたのかな?」
「違うと思うけど」
でもどうして怯んでるんだ?
「アーヴァイン様!!」
鬼の形相のゼルバリウスが、俺とアーヴァインを突き飛ばした。
「うわっ!」
直後、俺達が居た場所を、大蛇のような尻尾が通過した。
「ゴボッ!」
ゼルバリウスが俺達の代わりに吹き飛ばされた。
「ゼル!」
「ゼルすまない!僕とした事が……」
『グルルルル……』
ファントムドラゴンが俺達を睨む。
怯んだように見えたのは勘違いだったのか?
「残すはあなた達二人だけよ……あははははは!でももう万策尽きたって感じかしら?」
ジャックバッシュ、シャロン、ゼルバリウス。皆、気を失っている。
「冗談きついぜ!まだまだこれからさ!」
ハッタリをかますしかない。実際は万策尽きたに一票だ。何か策は無いか!?変身時間は残り5分弱。どうする?
「僕もまだ本気は出してないけどね」
アーヴァインもハッタリだ。
膝が笑ってるぞ。8メガを使い過ぎた影響か?
「あらあら。それなら早く本気を出さないと、本気を出す前に死んじゃうわよ?」
『グオオオン!』
ファントムドラゴンが尻尾を地面に叩きつけた。
「ちっ!……」
「そうだね……それじゃあお言葉に甘えて……本気を出しても良いのかい?」
「あははははは!……笑えない冗談ね。それとも、話を伸ばして何か策でも考えてるのかしら?だったら左腕を返してくれる?そしたら、殺しはしない……かも……あはははははは!」
「他意はないよ。本当の事だよ……分かった。そろそろ僕は本気を出そうかな。モモチロンちゃんは?」
勇者ウインクだ。パチリと左目を閉じたぞ!
「あ〜……俺も本気を出そうかな」
何だ?アーヴァイン?何か策があるのか?勇者ウインクをされても、察しがつかないぞ!つい最近知り合ったばかりだ。長い付き合いじゃないから全く分からない!ちゃんと口に出して言ってくれ!
「よし!」
そう言うとアーヴァインは、両手をパチンと叩いてマジックバッグに手を突っ込んだ。何を出すんだ?この場で逆転できそうな物と言えば……聖剣か!?
「それじゃあ早速……」
取り出したるは、10年物のヴィンテージワインでございます!
「って、酒かよ!」
「そっ!豪炎酒だよ」
「豪炎酒ってオークションのやつか!最後の晩餐でもおっ始めようってのか?まさか諦めたのか!」
「そっ!諦めたんだよ」
そう言ってポンッ!とコルクを飛ばして瓶に口を付けて一気に飲み始めた。
「あはははははは!」
「おいおいおい!勇者が聞いて呆れるぜ!俺は諦めない!ナレーション!ファントムドラゴンが怯んだのは何故だ!?」
『説明しよう!ファントムドラゴンの弱点である、逆鱗を攻撃したためである』
「なるほど逆鱗!聞いた事があるぞ!そういや龍は、体のどこかにある逆さまになった鱗が弱点だったな!……あれか!」
首の付け根に逆さまの鱗を見つけた!アーヴァインが攻撃した場所だ!逆鱗を攻撃する!
足元に転がる大岩を担ぎ上げた。
「投石!どぉぅりゃあ!!!」
ファントムドラゴンの逆鱗に大岩が飛んで行く。
『グォォォン!』
口でキャッチしてバキバキと噛み砕かれた。
「それは囮だぜ!」
大岩を囮にしてファントムドラゴンに接近した。
「喰らえ!パニックスマッシュ!」
『グォォォォォン!』
逆鱗を殴った。と、思ったが、首を捻り避けられてしまった。
「くそっ!」
バックステップで元の位置まで戻った。
「ぐびっ……ぐびっ……ぷはぁ〜!」
「良い飲みっぷりだな!最後の高級酒は美味かったか?」
「豪炎酒『焔』最高だよぉ……ひっく……モモチロンちゃん……この事は誰にも言わないでよね……ひっく」
「ん?ああ、言わないさ」
勇者が戦闘中に諦めて酒を飲み干したなんか言えるかよ。
「助かるよ……うっぷ……モモチロンちゃんが見てるけど諦めたよ……勇者が……酔えば強くなるなんて格好悪いでしょ?……ひっく」
「え?」
「行くよ!……酔剣!」
「スイ……ケン?……えぇぇぇぇ!」




