……まさかな
投石でラスボスを倒した。
未だかつて、こんなゆるゲーは聞いた事がない。
しかしこれで、電子世界と現実世界を救う事ができたはずだ。以外と早かったな。
いや、安心するのはまだ早い。遠足は家に帰り着くまでが遠足だ。ゲームはエンドロールが流れるまでがゲームだ。
「ば、馬鹿な……」
穴の空いた胸を押さえ、顔を上げたプライマリーが、忌々しいやつめ!的な目で俺を睨む。
「お、おのれぇ……ヴァイラス!!……よ、よくも……私の美しい体に……くっ……傷をつけてくれたわね」
「かすり傷みたいに言ってるが胸に穴が空いてるんだぞ。致命傷だろ?強がるなよ」
「こ、こんなもの!……ガハッ!」
プライマリーが血を吐いて倒れた。
「ハァハァ……腕さえあれば」
左腕に向かって手を伸ばすが届くはずがない。100メートル先に落ちている。
「民よ……民……私の腕を……ハァハァ……腕を拾いなさい!」
しまった!魅了された民衆が腕を拾ってしまう!
「……ラン様?……どうしてここにおるんじゃ?」
「俺は……何をしていたんだ?」
「あれ?お母さんはどこ?」
民衆が目を覚ました!プライマリーに大ダメージを与えた事により魅了が解けたみたいだ!
「ちっ!……ハァハァ……腕さえ……戻れば」
プライマリーがゆっくり立ち上がった。
「皇女様!」
「皇女様が怪我をされている!」
「神官達は回復魔法をかけろ!」
魅了されていた事を覚えてないのか?
「何をしてる!とどめを刺せ!!」
地に伏せているジャックバッシュが叫んだ。
そうだ!プライマリーが民衆で見えなくなるのはまずい。左腕を取られる前に倒さなければならない。
近くに倒れているアクセルビーの死骸から魔石を抜き取った。風の魔石はヒットしたら、砕けるのと同時に無数の風の刃が襲う。アクセルビーの魔石は、バレーボールほどの大きさだから更にダメージは上がるはずだ。
次で決める!
「これで終わりだ!投石!」
アクセルビーの魔石は緑の帯を引き高速で飛んで行く。
そして、プライマリーの顔面を捉えた。
「弾けろ!」
これで全てが終わる……。
【パシッ】
「何ぃ!キャッチした!?まだそんな力が!」
「……ハァハァ……やってくれたわね……ゴホッ!」
魔石をキャッチされたのには驚いたが、プライマリーは既に倒したも同然だ。
「諦めろ!」
再度、アクセルビーから魔石を取り出し、投石の態勢に入った。
「ハァハァ……私は……もうダメみたいね……残念だけど……魔石を砕かれたから……」
ポッカリと穴が空いている胸には、ピンクに輝く魔石の欠片が残っている。プライマリーは魔石で動いてたって事か?モンスター枠なのか?いや、今はそんな事よりも、プライマリーを倒す方が先決だ。
魔石をキャッチされたのには焦ったが、どうやら諦めたようだ。もう一発投げれば、今度こそ倒せるだろう。
「……不本意ね……ゴホゴホッ!……ガハッ!……ハァハァ……醜くなるのは嫌……でも……これしか……ないようね」
何が言いたいのか分からないが、プライマリーはそう言って、アクセルビーの魔石を空いた胸に押し込んだ!
「きゃぁぁぁぁぁ!……ハァハァ……」
苦痛で顔が歪んでいる。あれで血を止めたつもりか?
プライマリーは不敵に微笑み、両手を胸の魔石に添えた。
「何をする気だ!?」
「ハァハァ……メタモルコンバート!」
そう叫んだプライマリーの傷口から、無数の糸が飛び出し、アクセルビーの魔石を包むと、胸の穴が塞がった。
「なっ!……まるで、ヴァイラスに変身するみたいだ……それに、メタモルコンバートはモンリベで使うパッドだろ」
メタモルコンバートとは、俺が作ったゲームのモンスターリベレーションで、胸に装着して使用するパッドの名称だ。メタモルコンバートにモンスターコアを嵌める事でモンスターに変身できる。
「……まさかな」
次の瞬間、プライマリーから、ドン!と衝撃波が発生し、人がドミノのように次々と倒れ始めた。ここまでビリビリと衝撃波を感じる。まるで心臓の鼓動のようだ。
「くっ!嫌な予感がする!」
三度目の衝撃波のあと、ピンクと緑の禍々しいオーラが渦巻きプライマリーを包み込んだ。
ヴァイラスに変身する時と酷似している。
「お、皇女様!」
「皇女様を守れぇ!」
慌てふためく王族達。俺に向かって武器を構える騎士達。
そして、プライマリーに駆け寄る神官達。しかし、風圧で弾き飛ばされた。
「「「「「うわぁ!」」」」」
渦巻くオーラが徐々に消えていく。
光が消えて姿を表したのは……人型をした蜂のモンスターだった。
「おいおいおい!本当に変身しやがった!」
モンスターに姿を変えたプライマリーは、節足動物のような節のある二本の足で立ち、四本の腕を広げ、確認するかのように背中の羽をザワザワと動かし始めた。しかし、左腕の1本は、肘から先が生えていない。
頭部には、スズメバチのような攻撃的な複眼が二つあり、額には三つの単眼が緑に光る。獲物を探すように別々に動く二本の触角。口元は左右に割れた大顎をガチガチと鳴らしている。
全身は昆虫のような外骨格で覆われており、その色は深いピンク色で、所々黒のラインが入っている。
「まるで女王蜂だ」
胸の傷は跡形も無く消えている。
「はぁ……最っっっ悪っ!」
ため息を吐いたプライマリーは、首に手を当てコキコキと鳴らした。
「モ、モンスターだ!!!」
「皇女様をどこにやった!」
騎士達がプライマリーを囲んだ。
「はぁ……目障り」
そう言って、軽く手を払う仕草をすると、騎士の体が上下に分かれズルリと落ちた。
「……きゃぁぁぁぁぁ!」
「ひぃぃぃぃ!!!」
「に、逃げろぉぉぉ!」
民衆は大パニックだ。
「邪魔だ!どけ!」
「わ、私を守りなさい!」
貴族達は民衆を突き飛ばし、引き倒し、我先にと逃げ出した。
「王を守れ!」
「お下がりください!」
騎士達は、王族達を護衛しつつ下がり始めた。戦う意志は無いようだ。
広場の民衆は続々と逃げ始めた。
「だからこの姿は嫌だったのよ!」
プライマリーが不機嫌そうに吐き捨てた。
「醜いな」
「今だけよ。左腕を取り戻したら全て元通り」
『ブィンブィン』
プライマリーが羽を動かし前屈みになった。
「しまった!腕は渡さない!トリックスター!」
俺がバルコニーから飛び降りたのと同時に、プライマリーが低空で飛行を始めた。
『ブィブィーーーーン』
「間に合わない!」
プライマリーが左腕に手を伸ばした。
「あはははははは!ゲームオーバー!」
「くそぉぉぉ!」




