ナイナジーステラ……クリア!
3階に辿り着き、目の前のドアを開け中に入った。壁には穴が空いている。ここは俺が吹き飛ばされた部屋だ。
「隣の部屋のドアが開いてるはずだ!」
壁の穴を通り抜けて、隣の部屋に入りドアを大急ぎで閉めた。
「ハァハァ……ふぅ……モンスターはいないみたいだな……」
壊れた壁を覗くと、奥の方にバルコニーが見える。その周辺にアクセルビーの死骸があるが、他にモンスターの姿は無いみたいだ。
「ここで時間を潰すか……念には念を入れて……気配感知!……ん?この反応は……」
真後ろに何かいる!
『ヂィィィッ!』
【ー3】
「ぎゃぁぁぁぁぁ!」
トリックラットだ!また尻を齧られた!
「いつの間に入ったんだよ!」
鷲掴みにして尻から取り外し、窓に向かって投げようとした。窓ガラスは俺の威圧で粉々になっている。
「落ちろ!」
しかし真横に飛んで行き、ベッドの上に落ちた。
「だよね!命拾いしたな!」
壊れた木材を拾い構える。上手く扱えはしないが怯ませる事ならできるはずだ。あわよくば当たるかもしれない。
「そこを動くなよ!」
『チチチチチ』
ベッドの上で首を傾げて可愛い声で鳴いた。
「その手には乗るか!騙されないぞ!!」
力任せに木材を振り下ろす。しかし、トリックラットから30センチ離れたベッドを叩いた。
「そんなに!?」
離れ過ぎだ。しかし、ベッドを叩いた反動でトリックラットが跳ね上がった。
【ー2】
「いたっ!」
左頬を引っ掻かれた。
再び、ベッドに着地したトリックラット目掛けて木材を振り下ろす。しかし、まただ!50センチも離れた場所を叩いた。その反動でトリックラットが再び跳ね上がる。
【ー2】
「いってぇぞ!おい!」
また引っ掻かれた。
「決めた!お前の魔石をもらう!」
ポーションを取り出し飲み干した。
「ぷはぁ!待たせたな!全快だぜ!」
木材を振り下ろそうとした時、足元の氷で足を滑らせ体制を崩してしまった。
「うおっ!」
ショルダーバッグが地面に落ちた。インプの魔石が転がり出る。
「……っとっと!」
【ガン!】
【ー2】
ベッドで脛を強打した。
「あだぁぁぁぁ!!」
『ヂィァァァァァ……』
無意識に振り回した木材が、偶然トリックラットに当たり窓の外に飛んで行った。
「待ってくれ〜!俺の魔石ぃぃぃ!……戦うって決めたらこれかよ……いてて……」
『説明しよう!クールタイムが終了したのだ』
「ポーション使ったのに……」
変身すれば、回復するから使うのを我慢してたのに……。
だがこれで、プライマリーと戦える!床に落ちた最後の魔石を拾い、握りしめ胸に添えた。
「ヴァイラス!」
『説明しよう!インプの魔石に秘められたスキル、【魔力+6】を取得可能である』
「魔力プラス6で!」
『説明しよう!魔力+6を取得した』
ヴァイラスピンクに変身。傷が癒えた。凍った床を滑ってベッドで打ったダメージだけど……。
「I’m ready!」
誰もいないがポーズを決める。
「待ってろよ!プライマリー!」
ショルダーバッグと小石を拾い、凍り付いた床をスケートのように滑り、あっという間にバルコニーまで辿り着いた。
「……これは一体……」
民衆が広場の中央を向いている。中央には、アーヴァインとジャックバッシュが血を流して倒れていた。その周りを囲んでいるのは城の騎士、執事やメイド、貴族、聖職者、冒険者。見知った顔も混じっている。槍を構えたフィーゴと、筋肉を盛り上がらせるシモンに、小太りのドラペイ。みんな魅了されている。
「手が出せなかったのか!」
「あははははは!」
声高らかに笑うのはプライマリーだ。その隣にはシャロンがいる。まるでプライマリーの側近だ。
プライマリーが笑いながら言った。
「それじゃあ……約束通り、アリスには死んでもらうわ」
アリスを人質に取っている!
「あれは……ゼル!」
焦点の合わない虚な目で、アリスの首にペーパーナイフを突き付けているのは執事長のゼルバリウスだ!アリスの事は、命よりも大切だと言っていた。プライマリーの野郎!卑劣な真似を!
「ガハッ!……約束が……違う!」
アーヴァインが血を吐き出し顔を歪めて言った。
「約束?約束を破ったのは貴方達でしょ?動かないでって言ったのに寝転んだじゃない!あははははは!」
「おいおいおい……倒れるまでサンドバッグにしたのかよ」
「それじゃあ執事長さん。アリスを殺してちょうだい」
「……はいラン様」
「やめろぉぉぉぉ!!!」
アーヴァインの叫びは虚しく、ゼルバリウスがペーパーナイフを振り上げた。
「させるか!!投石!」
当たってくれ!
【パキン!】
俺最高!ペーパーナイフを破壊した。
「どうしたのっ!……あれは……ヴァイラス!生きていたのね」
プライマリーと目が合った。
「あなたも動かないでちょうだい!一人ずつ死んで行くのをそこで見てなさい!執事長アリスを殺して!」
やばい!ゼルバリウスが新たなペーパーナイフを取り出した。このままじゃアリスが殺される!何か手は無いか!?……手?そうだ!この手があった!
「やめろ!これがどうなっても良いのか!!!」
プライマリーの左腕を掲げた。
「執事長!止まりなさい!!!」
ペーパーナイフが、アリスの首1ミリで止まった。
「な、何故……何故、貴方が私の左腕を持ってるいの!……ヴァイラス!!!」
「ふぅ……やっぱりこれはお前の落とし物だったみたいだな」
「返しなさい!それがあればシステム操作ができるのよ!」
「だろうな。それを知って、はいそうですかって渡す訳ないだろ?取り引きだ!」
「取り引き?」
「今直ぐ全員の魅了を解け!」
「左腕が先よ!」
「冗談だろ?取り引きって知ってるか?」
「知らないわ」
「強気じゃないか。良いのか?この腕を粉々に破壊す……」
背後から何者かにプライマリーの左腕を奪われた。
「しまった!」
『ピィィィィィィィィ!』
「レッドイーターだ!あいつも魅了してるのか!?」
「左腕が先って言ったでしょ?」
油断した!レッドイーターに、死角から音もなく接近され奪われてしまった!急降下してきたのか?
このままだとプライマリーが左腕を手に入れてしまう。そうなると力が戻るだろう。システム操作ができるようになると言ってたな。それだけは絶対に阻止しなければならない!
「投石!」
『ピィッ!』
石がレッドイーターを貫いた。プライマリーの左腕と共に落下する。
「ああ!私の左腕が!!」
プライマリーが血相を変えて、民衆を掻き分けながら左腕の落下地点へと走り出した。
「くそっ!人が邪魔で攻撃できない!」
投石すると人に当たってしまう。
「邪魔よ!どきなさい!」
プライマリーの声に反応して、モーゼの十戒のように民衆が左右に割れた。
チャンスだ!
「悪く思うなよ!投石!」
投げた石はプライマリーに向かって飛んで行く。プライマリーは左腕を追うのに夢中で気付いてない。
【ボコン!】
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
プライマリーの胸に風穴が空いた。貫通した石は地面に突き刺さり、遅れて背中の穴からピンクに輝く粉末が飛散した。プライマリーの魔石を砕いたか?
ラスボスを倒した……。
「ナイナジーステラ……クリア!」




