騙された!
変身解除3秒前!
「ふぅ……で?」
ジャックバッシュが振り向いた。
「お前は敵か?それとも」
変身解除2秒前!!
「なっ!何だその姿は!!!」
変身解除1秒前!!!
何だその姿は?だって?……俺の今は、大股を開いて倒れている。スカートの中身が丸見えだ!……と、思ったのだろう。ジャックバッシュは慌ててそっぽを向いた。
変身解除!!!!
「……っ!?」
消滅しない!!!!!
見られてない!?ギリギリだった。ジャックバッシュがウブで助かった!
「は、は、破廉恥な!あ、あ、あ、足を閉じろ!」
しかし、まだまだピンチに変わりはない。俺は変身が解除されている。今振り向かれたらヴァイラスピンクは俺だとバレてしまう。
「答えろ……お前は何者だ?」
「……くっ!」
何て答えれば良いんだ?何を言っても振り向かれてしまう。この姿は見せられない。
「……」
この場から逃げるべきか?
いや!ジャックバッシュの方が早い!すぐに追い付かれる。動いてはダメだ。
沈黙が続く。
「……」
ジャックバッシュが振り向こうと頭を動かした。
詰んだ……。
「……言えないという訳か……」
頭を真横に向けた所で止めた。そこには窓がある。ジャックバッシュは窓の外を見つめた。
「まぁ良い……背を向けた俺に攻撃して来ないと言う事はそれが答えだ」
「!?」
奇跡!振り向かない!
「うちの騎士が世話をかけた。すまない……死ぬなよ」
前を向いた!そのまま風を纏い広場に駆けて行った!
「ぷはぁ〜!……た、助かった!惚れそうだぜジャックバッシュ!男は背中で語るとはこの事か!」
……違うか。
それにしても男前だった!見知らぬ人間に対して、背を向けたまま会話をするなんて俺にはできない。
去り際にチャリンチャリンと小銭の音がしたのは聞かなかった事にしよう。いや、これはツッコむとこだ!
「盗んだな!それは泥棒だぞ!泥棒するなら恋泥棒だけにしとけよ!……さてと……俺はベッドの下に隠れさせてもらうぜ。ジャックバッシュ頑張れ!」
ベッドスカートをめくり、転がるようにベッドの下に隠れた。ここで息を潜め、5分間のクールタイムをやり過ごそう。
「残りの魔石は……インプの魔石1個だけだ……」
ショルダーバッグを確認するが、やはり残りは1個しかない。
「この魔石でプライマリーを倒さないといけない……か」
残り1個の魔石で、果たして倒せるのか……。いや、倒してみせる!
【トタタタタ】
ん?この音は……何か小さな生き物の足音が聞こえた。
【タタタタ……タタタタタタ……トタタ】
直ぐそこにいる!
【トタン……ポフ』】
ベッドの上に移ったみたいだ。
【ポフポフポフ……トン……トタタタタ……】
ベッドから床に降りてどこかに行ったか?……静かになった。
「ふぅ。もう安心だ……」
事なきを得た。ふと、反対に顔を向けた。
『ヂィィィィィィィ!』
トリックラットが目の前にいた!目を真っ赤に光らせ、牙を剥き出している。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!」
慌ててベッドから転がり出た。
「騙された!」
『ヂィィヂィィィィ!』
追いかけて来る!
「うおっ!パニックスマッシュ!」
寝そべったままトリックラットに拳を振る。
『チチチ』
易々と避けられた。飛び上がったトリックラットはクルリと回転してベッドに乗った。
『ヂィィィィッ!』
威嚇している。
「投石!」
石を拾って投げたが当たらない。
「的が小さすぎる!逃げるが勝ちだ!」
トリックラットに背を向けてドアから飛び出した。
『ヂィッ!』
「来た!」
ドアを慌てて閉める。これでこちら側には来れないはずだ。
「ふぅ……生身のままじゃトリックラットさえ倒せない」
『ヂィィィィィィッ!!』
「うおい!」
トリックラットが隣の部屋から出て来た!壊れた壁を通ったのか!
「来るなよ!」
反対は行き止まり、目の前には階段がある。逃げ道はそこしか無い!転がるように階段を降りて、二階のフロアを猛ダッシュ。スピードスターを使用して更に速度を上げる。
『ヂィッ!』
トリックラットは、階段の手摺を滑るように降りて、俺の後を一直線に追って来る。
「来るなって言ってるだろ!」
トリックラットもスピードスターを使えるから差が開かない。むしろ距離が縮む。
「ヤバイ!追い付かれる!」
『ヂィィィッ!』
背後から飛びかかって来た。
【ー3】
「あたたたたたっ!」
右の尻を噛まれた!手で掴んで壁に投げ捨てる!
「このっ!」
後ろへ飛んで行った。どうやったらそっちに行くのか、いまだに解らない。
トリックラットはクルリと回り難なく着地して、再び俺に向かって走り始めた。
「いてぇ……ハァハァ!しつこい野郎だ!来やがった!」
尻を押さえて左側にある部屋のドアノブを回すと開いた。
『ヂィッ!』
飛び掛かって来た。
「鬼ごっこは終わりだ!」
そう言って、俺は勢い良くドアを開いた。
『ヂィァァァァ!』
トリックラットはドアにぶつかり床に落ちた。
「じゃあな!」
部屋に入りドアを閉める。
「ハァハァ……いてて……ったく!冗談じゃ……」
『グルルルル……』
「げっ!」
ソファーにウインドウルフが寝転んでいる。俺を見て低く唸った。
「はは……落ち着けよ……何もしないさ……」
ゆっくりと頭を上げて姿勢正しく座った。
『……グルルルル』
お座り状態でゆっくりと唸り声を上げた。
「……静かにしててくれよ」
『ワオォォォォン!』
「静かにしろって言ったのに!!」
次の瞬間、遠吠えを聞き隣のベッドルームから、三匹のウインドウルフが出て来た。
「ひぃっ!」
慌ててドアから外に出た。
『ガウガウガウ!』
ドアの隙間から顔を出して噛みつこうとする。
「やめろ!閉まらないだろ!」
『ガウガウ!』
ドアが閉まらない。
『ヂィィィッ!』
待ち構えていた、トリックラットが飛びかかって来て、左の尻を噛まれた。
【ー3】
「痛っ!こいつ!ふざけんなよ!」
だが、ウインドウルフよりはマシだ。あいつらを絶対に部屋から出してはいけない!
「このっ!このっ!下がれ!」
足の裏で顔を蹴りなんとかドアを閉める事に成功した。
「ハァハァ……危なかった」
【バキッ!】
「おいおいおい!」
ウインドウルフの爪が木のドアを破壊して出てきた。
【バキバキッ!】
幾つもの爪が出てくる。
「嘘だろ……ドアが壊れる!」
その前に逃げる!
「どこに行けば良いんだよ!」
『ヴゥゥゥゥ』
「お前はそろそろ離せ!!」
尻に噛み付いたトリックラットを振り払って走り続ける。
「ハァハァ……ナレーション!変身まであと何分だ!?」
『説明しよう!2分24秒である』
「まだそんなにあるのかよ!ハァハァ!クールタイムが終わったら教えてくれ!」
『説明しよう!了解したのである』
部屋に入るのは怖すぎる。またモンスターがいるかもしれない。それこそ藪蛇だ。
さっきの階段が見える。あれを降りて1階に行けば何か突破口があるかもしれない。
「げっ!」
階段から1階を覗き込むと、通路を歩くコボルトが見えた。
「ハァハァ……3階だ!」
吹き飛ばされた部屋に戻るしかない。




