何だその姿は!!!
足元の氷が体を上がって来る。あっという間に腰まで凍り付いた。全く動けない!しかも、凍ってるのは俺だけだ。
「あらあら。更にピンチになったわね」
「ぬかせ!……シャロン!目を覚ませ!シャロン!」
俺の声が聞こえてないみたいだ。
魅了されているフリをしているのかとも思ったが、演技にしては上手すぎる。全く焦点が合っていない。そもそもシャロンはそんな事をする人間じゃない。騎士道に反する事はせず、正々堂々と戦うはずだ。
「シャロンと言ったかしら?ヴァイラスを殺してちょうだい」
「……承知しました……ラン様」
俺を見るシャロンの目は虚だ。完全に魅了されている。勇者一行は魅了されないって訳じゃないのか?
「しっかりしろ!敵はプライマリーだ!」
返事がない。感情が無いロボットのようだ。いや、両手を前に垂らし、猫背でフラフラとしている様は、まるでゾンビだ。
「……」
シャロンは無言で剣を抜くと、手摺から高く飛び上がり、剣を振り上げ降下してきた。
回避不可!脳天に氷の刃が直撃した!
「ぐはっ!」
【ー11】
「……」
ヒーローポイントへのダメージは大した事ない。それよりも心へのダメージの方がデカい。まさか味方から、それも確実に死ぬような攻撃を受けるとは思ってもみなかった。
しかしそれはまだ続く!着地したシャロンは、俺の周りをクルクルと踊るように移動しつつ、冷気を纏った剣で何度も斬り付けてきた。
「……アイシクルダンス」
「うわぁぁぁぁ!!」
金属音が鳴り響く。
【ー12】【ー9】【ー10】……。
視界にマイナス値が次々と表示される。ヒーローポイントが容赦なく削られていく。
【ガキン!】
剣が折れた!騎士団の剣よりも、ヴァイラスの強度の方が上だったみたいだな。流石ヴァイラス!これで俺を攻撃する手段は無くなった。
「シャロン!もうやめるんだ!」
しかし、シャロンはバックステップで距離を取り、止めと言わんばかりに折れた剣を両手で握り直した。折れた事に気付いてないのか?
「勝負はついた!そんな折れた剣じゃ俺は倒せない!目を覚ませ!」
「……グレイシアソード」
折れた剣を氷が覆い、2メートル超の氷塊の大剣になった。
「なっ!?」
あれはマズイ!
「や、やめろ!」
シャロンが氷上を滑るように向かって来る。そして氷塊の大剣で、甘いストライクボールを打つホームランバッターのように、恐ろしく腰の入ったスイングで俺を振り抜いた。
「がはっ!」
【ー21】
腹に直撃!体がくの字に曲がり、衝撃で腰まで覆っていた氷が砕けた。
「うわぁぁぁぁぁ!!」
地面に固定されていたものがなくなり、俺は城内へと吹き飛ばされた。
「さようなら〜!あはははははは……」
プライマリーの笑い声が遠のいていく。
「くそっ!……って、おいおいおい!」
吹き飛ばされた通路の先の壁には、この城をモデルに描いた大きな絵が飾られている。
「ぶ、ぶつかる〜!ぐへっ!」
【ー1】
その絵を容易く突き破り、壁を破壊して隣の部屋に出た。それでも止まらず、次々と部屋の壁を壊して行く。
「うごっ!……あだっ!と、止まれぇぇぇ!」
7、8部屋通過したところで、床に手を伸ばしブレーキをかけた。すると数回バウンドして、豪華なドレッサーと壁を破壊してようやく止まった。背後の壁に空いた穴から空が見える。城外へ飛び出さなくて良かった。
「城が広くて助かったぜ……」
顔に、ドレッサーの瓦礫が頭に落ちて来た。
「ぶふっ!」
【ー1】
「……散々だ……」
瓦礫を退かすと、壁の一部が頭に落ちて来た。
「べへっ!」
【ー2】
「いてて、舌噛んだ……」
そして静かになり、パラパラと壁から石が落ちる。
「それにしても、なんて力だ!プライマリーの攻撃でもビクともしなかったのに」
頭に落ちて来た壁の瓦礫を腕で押し除け、ドレッサーの瓦礫を足で蹴り上げた。
「ヴァイラスじゃなかったら死んでたぞ!」
立ちあがろうとした時、けたたましく警告音が鳴り始めた。
「ちっ!ダメージを受けすぎたか!」
視界下部には【CAUTION】の黄色文字が表示された。予想よりも早く変身が解除されてしまう。
「仕方ない!どこかに隠れてクールタイムの5分をやり過ごそう……ん?」
どうやらそれは無理みたいだ。穴の空いた壁の向こうから、ピキピキと床が凍り始めた。
「おいおいおい!」
氷を滑る音が近付いて来る。
「げっ!」
壊れた壁の穴から見えたのは、アイスリンクを滑るスピードスケート選手のように、体を前に倒し猛スピードで向かって来るシャロンだ。
「来るなぁぁぁ!」
あと8秒で変身が解除される!
しかし既にこの部屋に入って来た。
目の前でシャロンが急ブレーキをかけると、俺の顔に、かき氷のような細かい氷がかかった。氷で何も見えなくなった。
「ぶはっ!」
顔にかかった氷を払い除けると、シャロンが折れた剣を上段に構えていた。
「折れた剣で攻撃するつもりか!?そんな物で……」
「グレイシアソード」
再び氷塊の大剣となった。
「待て待て待て!」
シャロンは倒れている俺に対して、躊躇なく氷の大剣を振り下ろした。
しかし、それは悪手だ!
「シャロン残念だが俺には当たらない!」
屋外ならまだしも、ここは室内!大剣を振るには狭すぎる!
氷塊の大剣は天井に当たった。
「フッ!」
ほら見たことか。と、笑った瞬間、天井をバキバキと切断して氷の刃が俺へと向かって降りて来た。
「なにっ!?」
悪手だと格好付けた俺が恥ずかしい。
「くっ!!」
殺られる!
【ガキン!】
しかしそれを受け止めたのは、風を纏って現れたジャックバッシュだった。両手とも拳でシャロンの氷塊の大剣を挟んでいる。拳での真剣白刃取りだ!
【バキン!】
氷塊の大剣が砕け散り、太陽の光を浴びてキラリと輝いた。
「シャロン!目を覚ませ!」
「……ラン様」
ジャックバッシュが声をかけても戻らない。
「仕方ない。少し痛いが我慢してくれ!コォォォォ……」
ジャックバッシュが大きく息を吸い込んだ。
「エアダスター」
息を吐き出すと、バシュンと圧縮された空気がシャロンに当たり、来た道を吹き飛ばし見えなくなった。
助かった!
と、思いたいがピンチは続く。このままでは、ジャックバッシュの目の前で変身が解除されてしまう。
「ふぅ……で?お前は敵か?それとも……」
ジャックバッシュが振り向いた。バッチリ目が合っている。
マズイ!もう残り3秒だ!
3……2……1……終わった……。変身が解除された。
「なっ!何だその姿は!!!」




