アーヴァオロロロロロ
「民よ!民!この世で一番美しいのは誰?」
「「「「「「それはラン様です」」」」」」
「……あなた!どうして答えないのかしら?」
小屋の陰から顔を出すと、プライマリーはルゥルゥを指差している。
「最悪だ!」
ルゥルゥを置いてきてしまった。しかも見つかってる。
「顔を見せてちょうだい!」
「……」
ルゥルゥは俯いたまま動かない。
「民よ!その者を捕まえて顔を見せなさい!」
「「「「「「はい……ラン様」」」」」」
虚な目をした民衆に、ルゥルゥが捕まり見えなくなった。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「ルゥルゥ!」
ダメだ!人が密集していてルゥルゥの元まで辿り着けない!変身して助けるしかない!
「ダメだ!大勢が見てる!変身出来ない!」
どうする!?
『ブルルッ』
馬小屋から鳴き声が聞こえた。
「そこだ!」
スピードスターで素早く馬小屋に逃げ込んだ。
馬小屋の中には、毛並みが美しい馬がズラリと並んでいる。流石は王家の馬だ。
「誰もいない!ここなら変身できる!」
ルゥルゥを助ける!そして女神プライマリーを倒す!それで全てが終わる!案外短い冒険だったな。
魔石の出し惜しみはしない。Fランクのインプだ。その2つしか持ってないけど……。革の鞭を放り投げ、魔石を胸に添えた。
「ヴァイラス!」
『説明しよう!インプの魔石に秘められたスキル、【魔力+6】【MP+4】の中から1つ取得可能である』
「MPプラス4だ!」
『説明しよう!MP+4を取得した』
ヴァイラスピンクに変身完了。
革の鞭を拾ってポーズを決める。
「I’m ready!」
白馬の背中を踏み台にして、天井付近の窓に向かってジャンプした。
『ヒヒ〜ン!』
「ごめん!」
それでも高さが足りない。
「そりゃっ!」
革の鞭を振って天井の骨組みに絡み付けた。そのまま振り子のように体を振って窓へ向かう。足から外に出て、逆上がりをするように屋根の上まで跳ね上がった。そして屋根の端に着地した。
「おっとと!」
バランスを崩して落ちそうなところを踏ん張る。下を見るとルゥルゥが揉みくちゃにされていた。それでもフードを取られまいと必死に握っている。
「どこから現れたの?あなたも魅了されてないみたいね?一体何者!?」
プライマリーだ。俺を見ている。
いいだろう。ヒーローのように名乗ってやるよ!
「ァ……」
ダメだ!声を出したらバレてしまう!
作戦変更!
左手を高らかに上げて、左腕を右の手刀でスパンと切るジェスチャーをした。
「お……お前は!ヴァイラス!!!」
正解!
右手で拳銃を作り、プライマリーを撃つ真似をする。
「バン!」
は、もちろん小声で。
「生きていたのね!姿まで変えて!小賢しい!……ヴァイラスが生きているという事は……ワンカラーも生きている可能性があるわね」
やばっ!
「……民よ!ヴァイラスとフードを殺して!」
「「「「「かしこまりました……ラン様」」」」」
何っ!ルゥルゥが危ない!こうなったらやるしかない!
空に向かって叫ぶ!
「させるか!威圧!うらぁぁぁぁぁ!!」
超裏声の全力シャウト。
大気が震え、城のガラスが全て割れた。
「ちょっとやり過ぎたか……」
バタバタと倒れ始めた。白目を剥いてピクピクと痙攣している者もいるが、死んだ者はいないみたいだ……良かった。裏声ならイケるかも!
バルコニーにいる王達も気絶している。プライマリーだけは効いてないみたいだ。流石はラスボス。直接拳を叩き込んでやる!
「とう!」
ルゥルゥの目の前に飛び降りて、プライマリーに操られている人達を引き剥がした。
「う、うう……え?今度は何?貴女は?きゃっ!」
身動き取れずに慌てふためくルゥルゥを抱えて、革の鞭を駆使して馬小屋の屋根に飛び乗った。
「そこを動かないで!……と、君の主が言ってた!」
裏声でそう言った後、振り向きプライマリーを一瞥して馬小屋から飛び降りた。そして人の隙間を縫うようにして城の前まで辿り着いた。
城の入り口は、騎士により塞がれている。力の加減が分からないから手を出せない。ちょっと手を出しただけで、大怪我をさせてしまうかもしれない。
「ここからは入れそうもない……他に入り口は……」
無さそうだ。革の鞭を使って上まで登るか?
3階を見上げると、バルコニーからプライマリーが見下ろしながら俺に言った。
「ここまで登って来るつもり?」
「茶菓子でも用意して待ってろ!」
「パーティーの招待状は持ってるの?」
「残念だがパーティーはもう終わりだ」
「そうね。では早々に退場してもらおうかしら。民よ! ヴァイラスを殺して!」
「「「「「かしこまりました……ラン様!」」」」」
「何っ!?」
目を覚ましてる!民衆が一斉に襲いかかって来た。その中には、大通りの店員やギルドにいた冒険者、宿屋の親子までいる。
「卑怯だぞ!」
「あははははは!攻撃すれば良いじゃない」
人間を攻撃はしない!
「くっ!……」
「ほらほら!どうするの?」
「「「「「うおぉぉぉぉぉ!」」」」」
雪崩の如く向かって来る。
戦うか逃げるか……。勿論逃げる!しかし城内には入れない!残された道は上!
「とう!」
二階のバルコニー目掛けて革の鞭を振る。手摺に絡めて飛び移った。民衆は俺を捕まえようと手を伸ばして来る。しかし全く届かないが、それ以上は何もして来ない。虚な目で見上げている。まるでゾンビだ。これを解除するには、プライマリーを倒すしかない!
「プライマリー!今直ぐそこに行ってやる!待ってろ!」
「よそ見しててもいいの?」
プライマリーが俺から目を切り、城の中を見た。
『ゲギャギャギャ!』
「この声はゴブリン!」
ガラスが割れた窓からゴブリン達が飛び出して来た。
「邪魔だ!」
革の鞭を一振り。ゴブリンは真っ二つになった。しかし次から次に出て来る。
『ゲギャッ!』
革の鞭を振り続ける。
『ギャ!』
「これじゃキリがない!」
次々に出て来るゴブリンを相手にしていても埒があかない。手摺に足をかけてジャンプ!プライマリーがいるバルコニーの手摺に革の鞭を絡めて飛び移った。
「着いたぜ!」
裏声だと締まらない。が、正体を知られて消滅するよりは良い。プライマリーは、右手にあのレイピアを持っている。
「あらあら良いの?ゴブリンを置いて来たりして」
「何だって?……しまった!」
バルコニーから溢れたゴブリン達が、地上の民衆を襲い始めた。
『ゲギャギャギャ!』
「逃げろ!」
「……」
しかし民衆は、戦おうとも逃げようともしない。
棍棒が当たり、頭から血を流しているが虚な目をしたまま動かない。普通なら衝撃を受けると、魅了や混乱は解けるはずだが、プライマリーのテンプテーションは解けないみたいだ。強力過ぎだろ!
「何してる!逃げるんだ!くそっ!魅了されているから動けないのか!?」
中には子供もいる。宿屋の娘さんだ!その子に向かってゴブリンが棍棒を振り上げた。
「やめろぉぉぉ!!」
助けに行くしかない!
手摺に手を掛けたその時、あの声が聞こえた。
「8メガビット!」
あのダサスキル名は!
「アー……」
危うく地声で名前を呼ぶ所だった。
アーヴァインが少女の前に立ちはだかり、棍棒を斬り上げると、一太刀でゴブリンを真っ二つにした。
「8メガショック!」
それでも止まらず、目にも止まらぬ速さでゴブリン達を切り刻んだ。
「魅了されてない!私の美しさが分からないなんて……あなた一体何者!?」
勇者アーヴァインだよ。やっぱり勇者だな。美味しいとこを持って行かれた。
アーヴァインは剣を掲げて名乗りを上げた。
「僕は……うっぷ……勇者アーヴァオロロロロロ……」
吐きやがった……。




