笑うな!!
「民よ民……この世で一番美しいのは誰?」
「「「「「それはラン様です!」」」」」
俺以外の民衆が口を揃えて答えた。
「な!?」
みんな、焦点が合わない目でランを見上げている。
「何を言ってるんだ!」
「ラン様……」
「ラン……様」
「……ラン様」
口々にランの名前を呟いている。
異様な光景だ。
「ここは危険だ!ルゥルゥ!一旦外に……ルゥルゥ?ルゥルゥしっかりしろ!」
「……ラン……様」
「ダメだ!ルゥルゥまで魅了されてる」
「民よ!民!この世で一番美しいのは誰?」
「「「「「「「それはラン様です!!!」」」」」」」
「あはははははははは!」
ランが高らかに笑っている。
「あれはヤバイな……」
「私の民よ!見て!この腕を!」
ランが服で隠れていた左腕を出した。
「無い!ランの左腕が無い!」
腕が途中で無くなっている。
「私の腕を探してちょうだい!」
「おいおい!あいつは何を言ってるんだ?」
「私の腕は、忌まわしきヴァイラスに奪われたの!」
ヴァイラスだと!?
「な、何故ヴァイラスを知ってるんだ!……ヴァイラスを知ってる?……左腕が無い?…………あいつは!女神プライマリー!!!」
間違いない!あの時、超亜空間で、ヴァイラスが付着した左腕を、プライマリー自ら切り落とした!それを俺に投げつけて、左腕を残したまま次元の亀裂に消えて行った。
そして、左腕は次元の狭間に俺達と一緒に飲み込まれた。俺はヴァイラスに助けられ、ヒーローアンジュも背中に張り付き無事だった。だが、他の妖精アンジュと、プライマリーの左腕は、超亜空間から出て来てはいない……。
しかし、プライマリーはシステムだから、簡単に再生するもんだと思っていた。あれを見ると、左腕が無ければそれは出来ないみたいだ。ヴァイラスが影響しているのか?
それにしても、こんなに早くラスボスが出て来るとは!
「何故こんな所に!」
やはりこの世界は狭い。
「私の腕は妖精樹の下にある!……妖精樹……それは、絡まる五本の木。知っている者は前に出なさい」
絡まる五本の木だと?……知ってるぞ!この世界に来た時に見た木だ。
「妖精樹とは、ミニ世界樹の事か?」
あそこはどこだ!?どこに生えてるんだ!MAPを確認するが表示されていない。
「あの場所はどこなんだ!?……プライマリーよりも先に手に入れたい!……いや!昨日も見たぞ!ナレーション!妖精樹の場所は分かるか?」
『説明しよう!分かるのである』
MAPに赤丸が表示された。
「間違いない!昨日の場所だ!その下に左腕が埋まってるのか?妖精樹の下にあったのは……ダンジョン!そう!ダンジョンだ!!あのダンジョンにあった物は……木の杖?」
ショルダーバッグを覗いた。木の杖は、木の杖だ。しかし良く見ると、干からびた人の手にも見える!
「……これだ……」
ミイラのような左腕だ!
「間違いない……俺が持ってた……」
「いないみたいね……それじゃあ探してちょうだい!」
「……はい……ラン様」
民衆と共にルゥルゥも返事をした。
「ルゥルゥ!目を覚ませ!」
ダメだ!正気に戻らない。
「ナレーション!今直ぐにルゥルゥの魅了を解きたい!どうすれば良い?」
『説明しよう!魅了を解くためには、強いショックを与えるか、術者に大ダメージを与える必要があるのである』
「強いショック?ダメージじゃなくてショック?精神的にダメージを与えろってことか!」
「民よ!私のために探して!そして私に捧げなさい!」
「はい……ラン様」
「くそっ!時間が無い!ショックって何をすれば良いんだよ!……もしかして……このパターンは……キス……じゃないか?」
小説や映画で良くあるやつだ!眠っている姫は、王子のキスで目覚める!魅了されたヒロインは、主人公のキスで正常に戻る!
「それしか方法がない!ルゥルゥ!」
ルゥルゥの肩を掴んで見つめた。虚な目をしている。
よく見ると本当に美しい。世界で一番美しいのは誰だと聞かれたら、俺は迷わずルゥルゥと答える!
「ゴクッ!」
覚悟を決めて顔を寄せる。俺は自然と笑顔になった。
すると突然シルヴァが怒った。
「笑うな!!」
「いたっ!」
シルヴァにビンタされた。
【ー23】
「きゃぁぁぁぁ!」
「お、おいおい!大丈夫か!?俺を攻撃したから奴隷紋が……」
「……え?ご主人様?どうして?……私はまた……」
どうやら我に返ったみたいだ。
「俺の笑顔がショックだったなんて……」
「はい?何か言いましたか?」
「いや……何でもない……それより周りを見てくれ」
ルゥルゥが周りを見ている間に、ポーションを一気に飲んだ。またもや一撃で瀕死だった。恥ずかしくて回復する姿は見せられない。
今回笑顔になったのは、絶望や恐怖からじゃない。ただ、恥ずかしかったんだ。照れ笑いだ。その笑顔がルゥルゥにとってはショックだったのか……俺には、それがショックだ。
「……みんな……変です」
「そう!俺とルゥルゥ以外はみんな魅了されてる!あいつのスキルだ!」
女神プライマリーを指差した。
その時、女神プライマリーがこっちを向いた。
「ヤバイ!隠れるぞ!スピードスター!」
咄嗟にルゥルゥの手を取り小屋の陰に隠れた。
「ハァハァ、危ないところだった。見つかったら大変だ!ルゥルゥ逃げるぞ!」
ん?ルゥルゥの手がシワシワだ。
「ラン様……最高じゃ」
「誰っ!?」
ルゥルゥの手を握っていたつもりが、知らないお爺さんの手だった。




