良い名前だ
小鳥が窓をつつく音で目が覚めた。
「ふぁ〜……」
結局あの後、彼女は目を覚まさなかった。
彼女の部屋にシャロンを残し、アーヴァイン達は自分達の部屋に戻った。
彼女は無事だろうか……。
「アスカ起きてるか?」
ドアをノックしたのはジャックバッシュだ。
返事をすると、宿屋の一階で遅めの朝食を取る事になった。
朝食はパンと何かの卵の目玉焼き。それからボトジカの肉と野菜を炒めたものだった。朝にしてはボリュウムがあったが、サッパリしていてなかなか美味しかった。
「うっぷ……」
アーヴァインは飲み過ぎだ。昨日の夜こっそりギルドで飲んだそうだ。今は水だけ飲んで机に寝そべっている。
「そこで俺は言ってやったのさ!一昨日きやがれってな!」
「ギャハハハ!毎日来てる奴に言う言葉かよ!」
「あの声は……」
入り口で誰かが立ち止まってるんだろう。
「おう!こっちだ!」
そう言ってジャックバッシュが手を上げた。俺は振り向いて入口を見た。
「え?……あの子は!」
入り口に立っていたのはシャロンと、狼耳の少女……だと思う。布の服だった昨日とは違い、活動的でボーイッシュな服を着ている。体の汚れも更に綺麗に落ちて、金色の髪が太陽の光を浴びてキラキラと輝いている。そこに狼耳があるから彼女で間違いないみたいだ。
「実はな。今朝早くに目が覚めたんだ。まぁなんだ、落ち着いたみたいだから、ちゃんと話せるはずだ」
「あ、ああ……」
見違える程綺麗になった。
「具合はもう良いのか?」
「……」
俺の問いかけには答えてくれない。しかし、暴れはしないみたいだ。
「腹は減ってないか?何か食べたか?」
「……」
返事が無い。俺はキャッシュに朝食を2人分注文した。
「と、とにかく座ってくれ」
シャロンと少女に席を勧めた。
「ありがとうございます」
そう言ってシャロンは座ったが、少女は座らなかった。
「どうした?」
「……私は奴隷です……ご……ご主人様と同じ席で食事をする事はできません」
ご主人様……むず痒い。言う方も抵抗があるみたいだ。
「ご主人様はやめてくれ」
「それは命令ですか?」
うっ!俺は命令なんてしたくない。
「あ、いや、命令ってわけじゃないよ」
「……でしたら、ご主人様とお呼びします……」
「分かった……そこに座ってくれ」
「それは命令ですか?」
「いや……命令じゃない」
「それではこのままで……」
「ああ……」
「……」
空気が重い……。会話が続かない……。何か話題は……そうだ!名前を聞いてなかった!もしかしたら、名前は無いとか言って、俺が決めないといけないパターンかもしれない!だったら、彼女に合う名前を付けてあげないといけないな。狼だからウル……いや、ウルフィ……金色の髪だからゴールド!いや、ゴルフィが良いな!
「座るんだルゥ」
ん?ジャックバッシュ?今なんて?
「そうですよルゥ殿。アスカ殿が座って良いと言ってるんですから」
あれ?シャロンさんまで……。
「ですが!」
「ルゥ座りなよ」
アーヴァイン……何故?
「……分かりました」
「……」
名前……ルゥって言うんだね。どうして俺より先にアーヴァイン達が知ってるんだ?
「ルゥ……って名前だったのか?良い名前だ」
「……」
何故無視!?
キャッシュが食事を運んできた。
「ルゥルゥちゃん!しっかり食べなさいよ!」
え〜!!キャッシュも知ってるのかよ!しかも肉多めだし!そして正式にはルゥルゥ?みんな略してルゥって呼んでるし。なんだよこの疎外感!
「でも奴隷の私が、ご主人様と同じ物を食べる訳にはいきません……」
痛っ!いたた!みんなの視線が痛い!俺は悪者?ダメなんて言ってないじゃないか!
「……食べて良いんだよ」
「それは命令ですか?」
「あ、いや、命令って訳じゃないけど」
「……では食べません」
デジャヴ!……だったらこの後に続くのは……。
「食べるんだルゥ」
「そうですよルゥ殿。アスカ殿が食べて良いと言ってるんですから」
「でも!」
「ルゥも食べなよ。美味しいよ」
さっきまでグロッキーだったアーヴァインが、満面の勇者スマイルで朝食を食べている……。
「……はい」
おいおいおい!なんだなんだなんだ?
おかしい!流れがおかしい!激流が俺にぶち当たっている!
ルゥルゥは俺が助けた奴隷だ!しかし奴隷としては扱わない!仲間として一緒に旅をするつもりだ!
なのに、どうしてアーヴァイン達が仲良くなってるんだ?
普通は、俺と一緒に新しい服を買いに行くだろ?俺の言う事を聞くだろ?俺が最初に名前を知るだろ?
「なんで最後なんだよ!」
「どうした?」
しまった!声に出ていた!
「あ、いや、なんでもない……」
気まずい……。
しかしそんな事はお構いなしに、ルゥルゥが勢い良く食事を始めた。相当腹減ってたみたいだ。
「う……うう」
食べながら、ポロポロと涙を流し始めた。
シャロンが頭を撫でると、堰を切ったように声を出して泣き始めた。アーヴァインの胸の中で!おかしい!俺は食事を追加で注文する事しか出来なかった。
「そうだ!ルゥの食事が済んだら、みんなでお城に行くよ!」
「城に?どうして?」
アーヴァインに聞き返した。
「結婚相手のお披露目だよ」
「今日は第二皇子の結婚式だったな」
ジャックバッシュが腕を組んだまま言った。
「そうだよ。王命が出てて、今日の昼までにギャリバングの市民は、お城の広場に集合しないといけないんだよ」
「ギルドのみんなも行くわよ」
キャッシュが手をヒラヒラと振って受付に戻って行った。
「俺は市民じゃないけど?」
「ギャリバングにいる人全員です」
そっか……まぁ、行くけど。みんな行くのに、俺とルゥルゥだけ残るのはちょっとな。二人っきりだと気まずい。
ルゥルゥの食事が終わるのを待ってギルドを出た。




