俺はいりません
「ジャックバッシュ!オークションに行こう!」
俺はギルドに着くなり、ジャックバッシュの胸ぐらを掴んで叫んでいた。
「な、なんだよ?落ち着けよ。オークションには行くだろ」
「今直ぐにだよ!」
「急にどうしたんだ?そんなにやる気になって」
「欲しい物があるんだ!」
「知ってるよマジックバッグだろ?」
「違う!奴隷だ!」
「奴隷ですか?」
シャロンの周囲に冷気が集まる。
「アスカ落ち着け!でもまたどうして奴隷なんだ?」
「知ってる子がいたんだ!」
「何っ!?記憶が戻ったのか!!」
そういえばそんな設定だったな。
「彼女の顔を見て、彼女の事だけを思い出した!だから助けたいんだ!」
「そう言う事なら致し方ありませんね」
「そうだね。アスカの知り合いを助けに行こう」
「みんなありがとう!」
ジャックバッシュはエールを一気に飲み干した。
「さぁ行こうか」
四人でギルドを出て、陽が落ちたギャリバングの街を走った。
オークション会場は、角ばった四角い建物でレース場の目と鼻の先にあった。ここの経営もマリスガンが手がけているとのこと。オークションを開催していない日は、観劇場として使用しているそうだ。手広く儲けてるみたいだ。
入り口で武器の提出を求められた。俺は革の鞭とナイフを受付に渡した。アーヴァインとシャロンもそれぞれの武器を渡したが、ジャックバッシュは武器を何も持っていないそうだ。魔拳闘士は金が掛からなくて良いな。
番号札778番を渡された。惜しい!後一歩遅かった。
中へ入ると、正面を見下ろしたところに舞台があり、千人は入れそうな数の椅子が並んでいる。それもほぼ満席だった。
「155万ギャリーです!他にいらっしゃいませんか?……宜しいでしょうか?……ありがとうございます。それでは、非常に珍しいレイビ亜種!155万ギャリーで201番の方が落札です!」
木槌を叩く音が響き渡った。
「しまった!もう始まってる!」
舞台の中央では、木槌を片手にオークショニアが進行している。その隣にある檻にはモンスターのレイビが入っている。茶色じゃなくて白色だ。説明してくれたおばさんも、珍しい亜種と言っていたからレアなんだろうな。155万ギャリーで買われたレイビは舞台袖に運び出された。
「それでは次の商品です!」
巨大な檻が運ばれて来た。何台ものバイクが、アクセルをふかしているような音が響き渡る。
「生きたままのアクセルビー20匹です。テイムするも良し!防具の加工に使うも良し!モンスターの餌にするも良し!用途はさまざまでございます!5千ギャリーから始めましょう!さぁ、皆さん入札してください!」
「6千!」
「6千5百!」
「7千!」
それぞれの席から声が上がり同時に札を挙げている。それを横目に、俺達は中段の列の端に座った。
「他にはいらっしゃいませんか?宜しいですか?ありがとうございます!18万3千ギャリーで202番の方が落札です!」
その後もオークションは淡々と進んだ。後半になるにつれて、商品はレアな物になり、金額も上がって行った。
途中、トリックラットやレイビが出て来た時に、シャロンが冷気を纏い小声でブツブツ言い出した事と、豪炎酒「焔」というドワーフ族の珍しい酒が出て来た時に、突然金額を提示したアーヴァインが凍った他、特に問題は起こらなかった。
今、出品されている物は、ボルトナマズのヒゲだ。これは電気を帯びた鞭。アーヴァインが言うにはかなりレアな武器だそうだ。欲しい!ジャックバッシュに競るように言われたがそんな事はしない。鞭を振った瞬間、俺は間違いなく感電して死んでしまうから……。
「4百80万ギャリーで485番の方が落札です!」
「くそっ!」
今のは勿論、俺自身の弱さに対して出た言葉だ。競りに参加できなかったからじゃない。ボルトナマズのヒゲは欲しい!しかし、強力過ぎて扱えないから諦めるしかないんだ。強すぎる武器を扱えない俺には、呪いの武器と一緒だからな。
そんな俺を見て、アーヴァインとジャックバッシュはため息を吐いた。しかしその表情は、なんだか嬉しそうだ。やれやれって顔してるぞ。
……勘違いしてるな?知り合いを助けるために我慢してると思っているな?俺の事を良い奴だと思っているな?俺は本当に買いたくないんだ。
……もしや、俺を試していたのか?知り合いを助けるためじゃなく、他の事に金を使わせるように仕向けていたのか?もし、他の事に金を使っていたらこのイベントはどうなっていたんだろうか?
でも俺には強い武器は装備できない。結果良かった。
次は小さな箱が運ばれて来た。
「続きまして鉄の腕輪です!」
箱には鉄の腕輪が入っていた。あの時、先頭の馬車で見た物だ。
「鉄の腕輪?オークションに出す必要があるのか?あんなつまらん物は店で見ても買わんぞ」
ジャックバッシュが皮肉混じりに言った。
「何か付与されてるのかもね。でも、たかが知れてるけどね」
アーヴァインもだ。
会場にいる他の客もザワザワと騒ぎ始めた。
「……え〜……皆様。こちらの思惑通りの反応ありがとうございます。鉄の腕輪なんて……と思われたかと思います……が!心の準備は宜しいですか?こちらの蓋を開けますと!」
オークショニアが腕輪に付いている蓋を開けると、突然、槍が飛び出した。
「槍が出たぞ!」
「あの腕輪から出たように見えましたわ!」
「そんな馬鹿な!?」
「あれはまさか!!」
会場が騒めき始めた。
「皆様お静かに!……またしてもありがとうございます。既にお気付きの方もいらっしゃるようです……そうです!実はこちらの腕輪。小型のマジックバッグにございます!」
「マジックバッグ!?」
「あんなに小さいのに!」
「くそっ!あれはノーマークだった!」
驚きの声が上がる。
「しかも!!!これだけではございません!なんと!馬車が一台丸ごと収まる容量となっております!」
今度は馬車が現れた。
「「「「「おぉぉぉぉぉぉ!!!」」」」」
「それでは宜しいですか?鉄の腕輪!100万ギャリーから始めます!さぁ、皆さん……」
「150万!」
「200万!」
「300万!」
「500万!」
「800万!」
「2千万!!」
あっという間に額が跳ね上がった。あれは俺も欲しい!
「アスカ。競りに参加しなくても良いのか?」
「そうそう。マジックバッグは欲しかったんだよね?」
「欲しい!……けど……」
悩む!これは手に入れるべきじゃないか?
「流石だな。俺だったら手に入れるぞ」
「僕も欲しいかな」
「アーヴァインは持ってるだろ」
そう言ったジャックバッシュの目の前に、アーヴァインは人差し指を出して左右に振った。
「エール用だよ。腕からエールが出せるなんて最高だからね」
「ぬかせ!どこから出しても一緒だろ」
「出したことがないから試してみないと分からないよ。アスカは?本当にいらないの?」
「俺は……」
「何を迷ってるんだ?金はあるんだろ?あれは使えるぞ」
「だよね!いらないなら僕が落としちゃおうかな?」
確かに、門の修理費等支払った残りは、約1億4千万ギャリーもある。その半分……いや4千万までなら使っても良いんじゃないかな?
「アスカもどうだ?ん?ん?」
右の口角を上げて、同じ方の眉毛も上げたジャックバッシュ。しかし、そのままの表情で固まった。
「ん???」
ジャックバッシュの顔に霜が降りている。これは……ヤバイ!
「お、俺はいりません!」
「当然です。お知り合いを助けるために来たのですから」
ジャックバッシュの隣に座るシャロンが、前を向いたまま無表情で静かに言った。口から冷気を出しながら……怖い……。
振り向いたアーヴァインの顔にも霜が降りている。ウィンクをしたままニヤケ顔で固まっている。イケメンが台無しだ。
「ドンマイ……」
俺も他の物に金を使おうとしたら、シャロンに強制的に止められていたんだろうな。
結局、鉄の腕輪のマジックバッグは6千2百万ギャリーで落札された。
それからしばらくは、鉄の腕輪が最高金額だった。
しかし、巨大なレッドドラゴンの牙が登場すると、あっさりと抜かれた。
「8千6百万ギャリーで159番の方が落札です!!!」
どよめく会場。
そして黒い布が被さられた物が運ばれて来た。
「お待たせ致しました……本日ラストの商品となります」
ドクンと心臓が鳴った。
来た……いよいよだ!
明かりが消えた。
異様な緊張感が会場を包み込んだ。
そしてスポットライトが、ステージ中央にある四角形の黒い布を照らした。
「黄金の獣人……それは……御伽話の住人ではありません!実在したのです!……今宵……伝説が蘇ります……ご刮目下さい!絶滅種!ゴールドウルフ族の少女です!」
オークショニアが黒い布を勢い良く取り去った。
「「「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」」」
あの子だ!
スポットライトが幾つも照らされ眩しそうに目を細める。
金髪で黄金の瞳をした狼耳の少女。檻の中で、あの鎖で繋がれている!
「待ってろよ……今助けてやる!」




