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ギャリバング?

突如目の前に現れた小人は、棍棒を引きずり気味の悪い顔でこちらを見ている。


「こ、言葉は分かるか?」


『ゲギャギャギャ〜!』


「うわぁ〜!!」


小人は、奇妙な声を上げその場で飛び跳ね始めた。何だこいつは!全身緑で鼻は鷲鼻。口には牙が並び、耳は鋭く尖っている。こんな生物見たこともない。


「モンスターか!?」


モンリベの序盤に登場する雑魚モンスターのゴブリンに似ているが、実在するとここまで醜悪なのか。醜悪な顔に笑みを浮かべ、ピョンピョン跳ねておちょくっているようだ。

マズイな。俺は武器を持っていない。体格差を考えると何とかなりそうだが、素手で戦える相手なのか?いや、無理だろう。俺は格闘経験が全く無い。喧嘩すらした事がない。唯一あるとしたら、ゲーム内での戦闘だ。それは得意だ。超得意分野だ!しかしこれはゲームなんかじゃない。いや、ゲームなのか?だとしたら女神から与えられたスキルが使えるはずだ。

逆三角形に触れてステータスを表示させ、スキルをタップした。


「おお!」


ズラリと並ぶスキル名。魔法もある。この世界は魔法も使えるみたいだ。どれを使うか迷うとこだが、今は一刻を争う。緑の小人に手のひらを向け、目に入ったスキル名を叫んだ。


「ギガシャイニングレイ!!」


『ゲギャギャギャ〜!』


……何も起こらない。いや違う。『MPが足りません』と表示されている。


「しまった!強力な魔法はまだ使えない!使えそうなのは……」


『ゲギャ〜!』


確認する暇が無い。棍棒を振り回しつつ俺に向かって来た。思っていたよりも速い!こいつは雑魚じゃないのか?俺が弱過ぎるだけなのか?レベル1だからか?


「止まれ!……くそっ!言葉が通じない!」


振り下ろされた棍棒を、横に飛び回避……出来ない!恐怖で体が硬直している。殺られる!


「っ!」


『ゲギャ……』


棍棒を振り上げたままのゴブリンの首が飛んだ。何が起こったんだ?


「無事か!?」


声をかけてきたのは、無精髭を生やした西洋人のような男だ。何故か言葉が分かる。彼は周囲を警戒しつつ剣を収めた。


「あ、ああ、た、た、助かりました」


足の震えが止まらない。マジで死ぬところだった。


「怪我はないか?あんた1人か?他にやられた奴はいるか?」


「お、俺だけです。ほ、他には誰もいません」


「それは良かった」


西洋人の年齢は分かりにくいが、見たところ20代後半かな?無精髭を整えるとなかなかのイケメンだろう。しかも、皮の鎧を盛り上げる胸筋がイケメンに拍車をかけている。

対する俺は35歳のおっさんだ……自分の格好を確認すると装備……というか、着ているのはスーツ。会社に居た時の服装だ。ズボンのベルトは、はち切れんばかり。おっさんに拍車をかけてしまっている。武器になる物は持っていない。


「あの……命を救って頂きありがとうございます」


「偶然通りかかっただけだ。気にする事はない」


危ないところだった。この人が通りかからなければ、俺は死んでいたかもしれない。運が良かった。


「ところで、珍しい格好だな。どこから来たんだ?」


「それが……覚えてないんです」


現実世界と言っても信じてもらえないだろう。


「そうか……どこか行く当てはあるのか?」


「いいえ。ここが何処なのかも分かりません」


「それならギャリバングに行くか?」


「ギャリバング?」


「そうギャリバングだ。俺達が向かってる街なんだが一緒に行くか?」


ギャリバング……やはり地球では聞いたこともない地名だ。しかもモンリベでもそんな名前の街は無い。ここはアンジュのナイナジーステラで確定だ。


「悩む事はない。金も要らない」


「良いんですか!?お願いします!」


ありがたい。こんな場所で1人では生き残れない。自分の置かれた状況も分からないし、まずはそのギャリバングという街で情報収集をしなければ。

俺が思案していると、男は唐突に腰のナイフを抜き、倒れている緑の小人の胸に突き刺した。


「うっ」


吐きそうだ。何をしてるんだ?


「おっと。悪いな。これは魔石の回収だ。ゴブリンの魔石は売っても大した金額にはならないが、無いよりマシだからな」


やっぱりこいつはゴブリンだった。男はゴブリンの胸を裂き、茶色の石を取り出し袋に入れた。あの石が魔石か……この世界にも魔石は存在するみたいだ。モンリベのように魔石で変身が出来るかは分からないが、売るって事は使い道は無いのかもしれない。


「向こうに馬車を停めてある。そこまで行こう」


「はい」


男と茂みの奥に進むと、幌付きの馬車が停めてあった。


「遅いぞ!何して……そいつは?」


小太りの男が、馬車から声を張り上げた。


「ゴブリンに襲われていた所を助けたんだ」


「そうか!でかした!」


小太りの男は満面の笑みで話しかけてきた。


「怪我はないか?」


「おかげさまで擦り傷1つありません」


「それは良かった!ギザール良くやった!」


助けてくれたイケメンはギザールという名前みたいだ。


「ギリギリだったがな」


「それにしても変わった服を着てるな……もしかして貴族様ですか?」


「いいえ違います」


「そうか残念だ!貴族様を救ったとなれば、報償金がたんまり入ったのにな!だはははは!」


「す、すみません。お金は持ち合わせてなくて……」


「冗談だ!金はいらんよ。馬車に乗りな!ギャリバングまでは半日かかる。それまでゆっくり休むと良い」


良い人達に助けられて良かった。まずは今後のために馬車の中でステータスの確認をしよう。使えるスキルを知っておかないとな。

ギザールと呼ばれた無精髭の男の後に続き馬車の後ろへ回った。


「さあ、狭いが我慢してくれよ」


小太りの男が馬車の幌を上げると、荷台の中には女の子が1人乗っていた。頭に犬の耳が付いている。獣人だ!


「いいえ。乗せてもらえるだけでもありがたいんですから」


よく見ると少女は浮かない顔をしている。それどころか体中傷だらけだ。手は鎖で繋がれている。


「え?」


どうして鎖で繋がれてるんだ?

これは……何かヤバイ!後退りをすると、背中に何か当たった。


「どこに行くんだ?」


振り向くとギザールだった。しかし、さっきまでの穏やかな表情とは打って変わって、下卑た笑みを顔に貼り付けている。AI特有の気味の悪い笑顔だ。


「ちゃんと送り届けるから心配するなよ」


「ど、何処に?」


冗談じゃない!逃げなければ!


「地獄にな!」


後ろから小太りの男の声がした。振り向こうとした途端、後頭部に衝撃を受けた。


「ぐはっ!……」


激痛により体の力が抜け、その場に倒れてしまった。男達の笑い声が聞こえる。くそっ!騙された。

しかし体に力が入らず、意識と共に男達の笑い声が遠ざかって行った。

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