吹っかけるのも気の毒になってきた
宿屋で目が覚めた。
「ふぁ〜」
もう昼過ぎだ。
「今日はジャックバッシュとオークションに行く約束をしてたな……」
夕方、ギルドに集まるように言われたが、それまでにたっぷりと時間があるから、午前中は必需品を見て回るつもりだったが……。
「もうあまり時間が無い!」
急いで身支度をして宿から飛び出した。
いつもの大通りに入り、肉屋のおじさんと軽く挨拶を交わして串肉を3本購入。それを食べながら隣の店で干し肉を購入。その流れで水屋のおばさんと雑談をして水を購入。気分は常連だ。
その後、ポーション、エーテルを購入して必要最低限の準備は完了した。そしてここからは幻属性の魔石の捜索だ!と、息巻いていたが、結局大通りでは見つからなかった。後でキャッスリンの店に顔を出してみるかな。
「新しい鞭が欲しいな」
インプから手に入れた蔦の鞭は攻撃力が低かったからな。もっと強い鞭が欲しい。それに……。
「ボロボロだ」
オークションでレアな鞭の出品があるかもしれないが、まずは武器屋を覗いておきたい。
大通りには、ナイフや安っぽい剣しか置いてないみたいだ。水屋のおばさんから教えてもらった武器屋に行ってみるか。ちょっと遠いが強い武器は必要だ。生身の状態でも、モンスターを倒せるようになりたい。
〜〜〜
「ここか……」
教えてもらった場所に武器屋はあった。
「……はぁ」
入り口の扉は空いている。
「……はぁ」
店の奥まで見える。
「……はぁ」
ため息が止まらない。
「……はぁ」
入り口には、剣、槍、斧が、これみよがしに並んでいる。
「……良いなぁ」
青い宝石が散りばめられた美しい大剣が出迎えてくれた。その隣には、炎のような装飾が施された赤槍と、闇を纏った漆黒の戦斧が、買っちゃいなよと微笑みかけて来る。
「……欲しい」
ゲーム序盤の街に置いてある武器とは思えない程、どれも豪華で攻撃力が高そうだ。
「……どれも俺には使えない物ばかりだ」
金はあるのに買えない……。いや、買っても使えない。残念で仕方ない!早く剣術や槍術を覚えたい!その内覚えるかもしれないから今のうちに買っておいても……。
「それは売り物じゃないぞ!」
店の中から男の声がした。
「客寄せのために置いてるのか?」
だとしたら、俺はまんまと引っかかったって訳だ。
「そんなとこだ」
店に入ると、鉄の剣やハンマー、木製の弓矢も置いてある。そして格闘用のナックル。魔法使いが持ってそうな長杖もある。どれもお手頃価格で購入できそうだ。
「どれにするんだ?」
50代後半で、中肉中背。二日酔いと言われても否定できない、気怠そうな表情の男が声を掛けてきた。湿気のある視線で、ジトリと俺の腰に下げている鞭を見ると、ドカリと椅子に座り、残念そうに天井を見つめた。
「チッ……あんたテイマーか?だったらそこだ。さっさと見てくれ」
感じが悪い店員だな。その店員が顎で指した棚に鞭が並べてある。が、種類が少ない。何かの毛を編んだ黒い鞭と、茶色い革の鞭の2種類しかない。
「ん〜……どっちにするかな……」
「試し振りはそれぞれ1回だ」
面倒臭そうに天井を見つめている。
「試して良いのか!?それじゃあこっちから試しても良いか?」
黒毛の鞭を手にすると、店員は天井を見たまま手を上げた。
「行くぞ!」
周りに注意して軽くその場で振ってみた。スパンとキレのある音が響いた。
「痛っ!!」
【ー13】
戻って来た先端が頬に当たり切れた。
「何してるんだ?」
何してるんだと聞かれても困る。初級鞭術のレベルが上がらないんだから仕方ないじゃないか。
「ちょっと失敗しただけだ」
「ちょっとにしては大怪我すぎないか?」
「え?」
切れた頬に触れると、血がダクダク流れている。
「はあ?何で!?」
ステータスを確認すると、鞭の名前はバイコーンテイルと表示されている。バイコーンというモンスターの尻尾の毛みたいだ。驚く事に攻撃力が41もある。
「欲しい!」
しかし、HPが13ポイントも減った。軽く振ってこれだ。攻撃する度に瀕死になってしまう。もしかしたら死ぬ可能性もある。
「やばっ!」
バイコーンテイルを置き、店員に背を向けてポーションを飲み干した。そして茶色の革の鞭を手にした。
「これの攻撃力は……」
振る前にステータスを確認する。革の鞭と表示されているこれは攻撃力15。こっちの方が良さげだ。
「ふぅ……行きます!」
何故か緊張して敬語になった。自分に当たると分かっているのに振るのは辛い。
「はっ!」
パチンと乾いた音が響き、ピシッと頬に当たった。
「いてっ!」
【ー3】
「下手くそ」
「うるせぇ!」
しかし、マイナス3ポイントか。これもヤバい……。でもこれしか無い。
「これをくれ」
「本当にそれで良いのか?バイコーンテイルの方が攻撃力は高いんだが?」
「コレが良い」
「チッ……そうかい……なら、五万ギャリー……と言いたいところだが、三千ギャリーで良いぞ。吹っかけるのも気の毒になってきた」
「そりゃどうも……」
革の鞭を手に入れた。
態度は悪いが意外と良いおっさんだ。
それにしても、攻撃力が低い方を買わないといけないのは悲しいな。どちらにせよ、ステータスを早く上げないと生身で使うのは危険すぎる。攻撃する度にダメージを受けるなんて、呪われた武器を装備してるみたいだ。
「……はぁ……剣が買いたい……」
そういえば、ゴブリンナイフを使った時は、当たりにくいだけでダメージは受けなかった。レイピアもそうだった。剣も当たりにくいだけでダメージは受けないだろう。そして、店の中を見回して思ったが、ダメージを受けるのは扱いにくい鞭だけな気がする。
「鞭は上級者が扱う武器だろ?」
「人気は無いが、テイマーだったら素人でも使えるさ」
武器屋の親父に鼻で笑われた。
「うっ……」
初級鞭術のレベルが上がらないから仕方ないじゃないか……。
「もう良いだろ?用が済んだら出てってくれ」
「何だよ急に!」
「こっちも忙しいんだ!さぁ、帰った帰った!」
「分かったから押さないでくれ!」
背中を押されて店を追い出された。ドアを閉められ、ガチャリと鍵までかけられた。
「ったく何だよ!でもまぁ、新しい鞭が手に入ったから良しとするか」




