どこで買えるかな?
「「「「「「かんぱ〜い!」」」」」」
ジャスティスダブルモフの勇者一行と、赤マント改め、テイマーのモニカとギルドで打ち上げ中だ。
「モニカ!改めておめでとう!」
笑顔のアーヴァインが祝福した。しかし、モニカは唇を尖らせている。
「ありが……とう」
歯切れが悪いモニカ。
「どうした?もっと喜んで良いんだぞ」
ジャックバッシュが続けるが、モニカは眉間に皺を寄せたままだ。
「そうですよ。モニカ殿は1位になったのですから」
シャロンは相変わらず無表情だ。
「どうしたのモニカ?浮かない顔して」
キャッシュが食事を運んで来た。
「はぁ……やっぱり納得いかない……気が付いたらゴールしてたのよ?しかも1位で!おかしいでしょ?」
「そんな事言われてもなぁ。何もおかしくないぞ。俺は見てたが、ちゃんとゴールしてたからな」
俺が苦労してた時に、観客席でピーチエールを飲みながら観戦していたジャックバッシュ。
「でも、モンスターの大群を見た辺りから記憶がないの!私が1位になったなんて信じられない……実感が全く湧かないから……喜べないよ」
俺のチャームフォグで魅了状態だったから記憶が無いみたいだ。
「そんなに難しく考えなくても良いんだよ。モニカは一生懸命頑張った。記憶が飛ぶ程必死に頑張った。それだけの事だよ。だから素直に喜べば良いんだよ!ね?アスカ!」
「ん?ああ、アーヴァインがそう言うならそうなんじゃないか?」
そうじゃないと思うけど、それで良いと思う。
あの後、モンスターの大群は俺が指示した通り何もせずに森へ帰った。しかしギルドは、森で何かが起きている可能性がある。又は、起こる前兆かもしれないと、ギルド調査団の派遣を国王に進言した。全てを目の当たりにした国王は勿論、騎士団の派遣と、レース終了後も西門の一時開閉を許可した。俺が魅了したモンスター達だから、魅了が解けた今は何も問題無いんだけど。とは言えない。申し訳ない……。
レースの結果は、モニカが1位、俺が2位でゴールした。
モニカは賞金一千万ギャリーを受け取り、孤児院の施設長であるローザさんに全額寄付した。ローザさんは涙を流して感謝の言葉を述べ続けていた。多分孤児院の問題は、モニカが1位になれなくても、いざとなればアーヴァインが何とかしてたんだろうけど。正体がバレるかヒヤヒヤだったが、モニカを1位にする事ができて本当に良かった。
俺はと言うと、賭けが見事に的中。払戻金額はなんと、一億六千ニ百万ギャリー!俺の一人勝ちだった。
マリスガンは、怒り狂う貴族達に頭を下げて回っていた。顔から笑顔は消えていた。いい気味だ。
それと、ジャックバッシュが何故迎えに来てくれたのかと言うと、アーヴァイン達は結婚式の件を王様に聞きに行ったそうで、そこで門が閉まる事を知って急いで俺を迎えに来てくれたそうだ。ありがたい。
しかし、その他の事は教えてもらえなかったみたいだ。
ちなみに、賭けの原因だった南門の修繕費は七百万ギャリーで、アクセルビーの違約金は五十万ギャリーだった。
「アスカは俺に感謝しろよ」
腕組みをしたジャックバッシュが得意げに言った。
「何言ってるのよ!アスカが2位で帰って来たから良かったものの、賭けに負けてたらジャックは奴隷落ちだったのよ!」
キャッシュはそう言って、ジャックバッシュの前に乱暴に木製のジョッキを置いた。
「でもそうならなかった」
「そんな事言って!アスカにちゃんとお礼を言いなさい!」
そう言いいながらキャッシュは、今度は音が鳴るほど勢い良く皿を置くと、メインの肉がテーブルに溢れた。ジャックバッシュはそれをつまみ上げ、気にする事なく口に放り込んだ。
「アスカは俺のお陰で大金持ちだ。門の修理費七百万ギャリーなんて、安いもんだろ」
「親父ギャグ!」
門…安いもん……。
キャッシュのツッコミに、ジャックバッシュの顔が赤くなる。
「今のは狙った訳じゃないんだ!」
この世界にも親父ギャグはあるのか……。誰一人笑っていないのも同じだな。言うつもりがなくて、親父ギャグになっていた時の切なさは俺も知ってる。しかしそんな事は関係なくシャロンが冷気を纏った。場が凍るとは正にこの事だ。
「キャッシュ殿の言う通りです」
「ま、まぁ、なんだ……アスカ……助かった」
「俺の方こそ助かったよ。迎えに来てくれてありがとう」
「ジャック!今後は気を付けるのよ!」
キャッシュは腰に手を当て、ジャックバッシュに顔を近付けた。
「わ、わかってる!」
ピクリと眉を動かしたジャックバッシュは、気まずそうに視線を外した。
「それなら良し!」
腕組みをするキャッシュ。
「ジャック兄は相変わらずキャッシュ姉の尻に敷かれてるのね」
モニカが言う、その相変わらずってのは俺は知らないよ。
「仕方ないだろ、キャッシュの尻はデカいからな」
おっとジャックバッシュ。その小さな反撃は、現実世界ではセクハラだぞ。
「何ですって!」
「「「「わははははは」」」」
今のは孤児院のお決まりか?モニカも笑っている。俺もつられて笑ってしまった。
アーヴァインが、エールの入ったジョッキを持って立ち上がった。
「それじゃあモニカの笑顔が戻った事だし、改めて乾杯!!」
一時はどうなる事かと思ったが、全て丸く収まったみたいだ。何よりも俺の正体が気付かれなくて本当に良かった。俺はそれに乾杯したい。
アーヴァインがエールを一気に飲み干した。左手には既に次のエールを持っている。今回は祝賀会だからか、シャロンも見逃しているみたいだ。
その後、祝賀会はレースの話で大いに盛り上がった。
今回の件で分かった事が2つ。
まず1つ目は、魔石が投石に使えるという事だ。
投石は石しか投げる事ができないが、魔石も石のカテゴリーに分類されるので投石する事ができた。そしてまさかの追加効果があった。これは今後も使えそうだ。
そして2つ目は、ショルダーバッグだ。
容量が少ない事もそうだが、激しく動くと中の物が壊れてしまう。今回はなんとかなったが、今後のためにも早く何とかしたい。金はあるんだ。マジックバッグが手に入れば……。アーヴァインに聞いてみるか。
「アーヴァイン。そのマジックバッグはどこで手に入れたんだ?」
「これかい?僕のマジックバッグは王様から貰ったんだよ」
ほほう。流石勇者。最高のスポンサーがついてるな。
「どこで買えるかな?」
「普通の店には売ってないよ。高ランクダンジョンで稀に手に入る代物だからね」
「そうか……」
やっぱりこんな序盤で手に入るアイテムじゃないみたいだ。
「オークションだ」
腕組みをしたジャックバッシュが口角を上げた。
「っ!?オークションには出品されるのか?」
「それは分からない。全ては運次第だな。ただ……」
「ただ?」
「……明日のオークションは結婚前夜祭のメインイベントだ。珍しい物が数多く出るはずだ。あるとすればそこだろうな」
「なるほど……」
「行くか?もし行きたいなら連れて行ってやるぞ」
「行くだけ行ってみるか」
「決まりだな!明日の夕方ここに集合だ」
「了解」




