余裕だな!
森の塔まで約200メートル。
「あの塔を折り返してくれ!」
『ブィンブィーン!』
エイトに俺の指示が伝わった。しかし問題は、その手前で、緑、黒、青マントの3人がこちらを向いてホバリングしている事だ。
「あいつら!待ち構えてるぞ!」
「気を付けて!私達を脱落させるつもりよ!」
「そうはさせない!俺に任せろ!」
「どうするつもり?」
「3人が乗ってるアクセルビーを魅了する」
「何を言ってるの?」
「まあ見ててくれ。チャームフォグ!」
チャームフォグを3回唱えた。それを3匹のアクセルビーが吸い込んだ。良いぞ。魅了した。
「森に行け!!」
『『『ブィーン!』』』
俺の言う事を聞いて森に向かって飛び始めた。
「お、おいどうした!」
「戻りなさい!」
「止まれ!……言う事を聞かない!?どうなってるんだ!」
3人は必死にアクセルビーへ鞭を入れる。しかし、俺の指示の方が効果は上みたいだ。
「脇役は退場してくれ」
慌てふためく3人を乗せたアクセルビーは、それぞれ森の中へ消えて行った。
「凄い……」
「俺は先に行って先頭集団のアクセルビーを魅了する!君は必ず1位になってくれ!」
「分かったわ!ありがとう!」
俺は赤マントにサムズアップをした。
「ちょっと待って!あなたの名前を教えて!」
「ふっ。名乗るほどのものじゃないさ」
笑顔を向けて先に向かった。俺に惚れるなよ。
『ブィンブィーン』
アクセル全開。さっきの指示通り、塔を折り返して……。
「あら?あらららららら?」
俺のアクセルビーが、塔を通過して森に向かって行く。
「何だ何だ?どこに行くんだ?どうして真っ直ぐ森に……そうかしまった!魅了した3匹に森に行けと言ったが、こいつも魅了してるから指示が効いてるのか!」
「どこに行くの!」
格好悪すぎる。ここで振り返るのも恥ずかしい……。
「ちょっとそこまで」
猛スピードで森に入ってしまった。
親指を上げて、笑顔を見せて、散々格好付けてこのザマだ。これじゃ惚れないな。ダサすぎる……。
「戻れ戻れ!!」
『ブブブ』
魅了が切れた。
「チャームフォグ!……あれ?チャームフォグ!くそっ!今度はMP切れか!」
急いでMP回復薬のエーテルを取り出した。飲もうとしたその時、エイトが暴れ始めてしまった。
『ブィーンブィーン!』
「ぐはっ!!」
【ー1】
暴れるエイトから放り出された。
「うっうう……あっ!エーテルが!」
放り出された衝撃で、持っていたエーテルが溢れてしまった。
『ブィーンブィーン!』
エイトが飛び去り見えなくなった。
「待ってくれ!!早くMPを回復させないと!」
ショルダーバッグを覗くと、残りのエーテルとポーションが割れていた。最悪だ。
「しまった!全部割れてる!!」
落ち方が悪かったみたいだ。これではMPが回復できない。それどころか、エイトを見失ってしまった。
「くそっ!……ん?」
シルクバットの魔石が目に入った。
「そうだ!ここだったら変身できる!」
幸運な事にここは森の中。周りには誰もいない。誰にも見られる事はない!
シルクバットの魔石を取り出し胸に添えた。
「ヴァイラス!!」
『説明しよう!シルクバットの魔石に秘められたスキル、【暗視】、【素早さ+2】、【魔力+2】の中から1つ取得可能である』
超音波じゃなかったが、暗視は使えそうだ。
「暗視だ!」
『説明しよう!暗視を取得した』
「I’m ready!」
飛び去ったエイトを追いかける。
「気配感知!」
周囲から膨大な数の気配を感じる。
「エイトは……いた!!」
ジグザグに飛び去る気配がある。間違いないこいつだ。
「スピードスター!」
地面に深々と足跡を残し、勢い良く駆け出した。結構木が密集してるな。走りにくい。だが距離は縮まっている。
「見つけた!!」
木を避けながら飛行するエイトを見つけた。早速、手の平を向けた。
「チャームフォグ」
エイトの周辺にピンクの靄がかかる。
「良し!吸い込んだ!止まれ!」
『ブブブ』
エイトは言う事を聞いて速度を落とした。
しかし問題発生だ。チャームフォグがエイトを包み込んだと思ったら勢い良く広がり始めた。
「やばっ!忘れてた!ヴァイラスに変身するとスキルの効果が上がるんだった!」
あっという間にチャームフォグが森一面に広がった。辺りはピンクの靄で何も見えなくなった。
「視界不良だ!」
森の中はまだ良いが、草原で何度もチャームフォグを使うと怪しまれてしまう。効果時間も上がってる事を期待するしかない。
「考えてる暇は無い!」
『ブブブブィーン!』
足元の石を数個拾ってアクセルビーの背中に飛び乗った。
「ゴールに向かってくれ!」
『ブィーンブィーンブィーン!』
アクセル全開だ。
森の出口へ向かって飛行を開始した。がしかし、目の前に突然木が現れる。
「うおっ!」
『ブブィーン!』
ギリギリで避ける。
「くそっ!これじゃスピードが出せない!」
速度を落としたアクセルビーが、辛うじて木を避けつつ進んでいると、チャームフォグが薄くなり森の終わりが見えて来た。
「視界が晴れる!」
チャームフォグを抜けて直ぐに森から飛び出した。
「出た!」
何とかなった。しかし、ヴァイラスに変身している事は絶対にバレないようにしなければならない。
幸い、元々全身ピンクだったから、遠く離れた観客席からは違和感無く見えているはずだ。だが最低でも、ゴールの1Km手前で解除する。
用心のため、姿を見られないように体を低く倒し頭を下げた。
「まだゴールはしてないみたいだな」
先頭集団は北の塔付近で、低速で飛行をしながら鞭で戦うフリをしている。見せ場を作っているんだろう。
そして、先頭集団と俺の中間で赤マントが蛇行している。
「まだそんなところにいたのか!!」
赤マントの上空を、10羽を超えるレッドイーターが飛び交っている。原因はあれだろう。
「レッドイーター多すぎだろ!」
更に、森の塔の天辺から飛び立った2羽のレッドイーターが、赤マントを追従し始めた。
俺は森の塔を通過したのと同時に、森で拾っていた石を投げた。
「行かせるか!投石!」
『ピィィッ!』
石はレッドイーターにヒット。
「もう一丁!投石!」
更にヒット。インプに比べたら楽勝だ。
2羽のレッドイーターが落下した。残り10羽。しかし、距離がまだ遠い。
「急いでくれ!」
『ブィン!ブィーン!』
赤マントは必死に鞭を振っている。レッドイーターをチャームフォグで魅了すれば早いが、ピンクの靄が上空に広がれば観客達に見られてしまう。不審に思われて正体まで辿り着いてしまったらそれまでだ。
投石で倒すしかないが残りの石は5個。だが、やるしかない!
距離を詰めつつ、慎重に投げるタイミングを計る。
「ここだ!投石!」
投げた石は、レッドイーターを貫通して、もう1羽を貫いた。
『『ピィィィィィィ』』
「良し!一投で二羽落とせば問題ない!」
レッドイーターが重なったタイミングを狙う。
「えっ!?」
赤マントが落下するレッドイーターを見て驚いている。そして後ろを向こうとした。
「振り向くな!レッドイーターは俺に任せろ!」
「この声は!戻って来たのね!」
「真っ直ぐ前だけ見てゴールを目指せ!俺を信じろ!!」
「分かったわ!!」
そう返事をした赤マントが、体勢を低くして触角を捻った。
「危なかった。この距離でヴァイラスの姿を見られたら正体がバレるところだった……素直で助かったな」
このままの速度では追い抜いてしまう。
「前のアクセルビーの後に続いてくれ!」
『ブィーンブィーン』
アクセルビーは、俺の指示通りスピードを落として赤マントの後ろについた。
この距離ならレッドイーターにも届きそうだ。慎重にタイミングを計って2羽が重なる瞬間を狙う。
「投石!」
石が手を離れた瞬間に、2羽のレッドイーターに風穴が開いた。
「投石!」
続けて更に2羽を落とした。残りのレッドイーターは4羽。石は2個。
「余裕だな!このまま一気に畳み掛ける!」
2羽が投石の延長線上に並んだ。
「投石!」
『ピィッ!』
2羽を貫通した。
「百発百中!余裕だな!」
残りのレッドイーターは2羽。石はラスト1個。
「これで終わりだ!投石!」
『ブィン!』
投げる瞬間、エイトが目の前に落下したレッドイーターを避けて体勢が崩れた。
「のわっ!」
手から離れた石は、軌道がずれている。
『ピィィッ』
1羽にヒット。もう一羽には当たらなかった。調子に乗ってしまった……。
「……どうしよう」




