契約?
マリスガンがアクセルビーを指差して言った。
「君はテイマーだろ?あいつをテイムしてレースに出てくれ」
嫌な予感が的中。だがそれは無理だ。
「俺はアクセルビーを操る事はできない!」
「頼むアスカ!乗ってくれ!」
ジャックバッシュに懇願されるが無理なものは無理だ。
「いや、だから無理だって!そもそもそんな簡単に選手の交代ができるのか?」
マリスガンが不敵に笑う。
「俺が許可すれば問題ない。それに契約は成立している。君がレースに出ようが出まいが、俺は一向に構わない。くく……どちらでも良いんだよ」
「契約?」
マリスガンが契約書を出して俺に見せた。
「簡単な契約だよ。君がこのアクセルビーに乗ってレースに出る。そしてゴールする。出来なければ、くく……ジャックバッシュは生涯ここで働いてもらう」
「そういう事だ」
ジャックバッシュは腕を組んで誇らしげに言った。
「そういう事だじゃない!俺はアクセルビーを操れないって言ってるだろ!」
「大丈夫だ。アスカなら出来る!」
操れないって言ってるのに……。
「このアクセルビーは最速だ。しかし見ての通り、くく……気性が荒い。君は乗れないだろうな。だが、何も恥じる事はない。仮に乗れたとしても、乗りこなすのは無理だ。ゴールできないのは目に見えている。そしてレースに出場しなければその時点で、くく……ジャックは俺の所有物になる。いずれにせよ俺には何一つ損は無い」
最悪だ!
「なに勝手な契約を交わしてるんじゃないよ!」
「どのみち俺は奴隷落ちだ。だったらマリスの用心棒にでもなるさ」
「勇者一行が何を言ってるんだよ!魔王討伐はどうするんだ!」
「もちろんやるさ。俺はアスカに賭ける!」
「待て待て待て!俺とは会ったばかりだろ!そんな奴を信じるなんて可笑しいだろ!」
「誰でも信じる訳じゃない!アスカだから信じるんだ」
おいおいおい……さすが勇者一行のストーリー。友情ど真ん中だ。重い……。
「話は以上だ。さてジャック……彼がアクセルビーに乗らないのであれば……」
「乗るよ!乗ってやる!」
「アスカならそう言うと思ってた!」
ジャックバッシュが歯を光らせサムズアップする。その直立した親指をへし折ってやろうか!
「ほう。その心意気は買ってやろう。しかしどうだ?くく……怪我する前に逃げた方が賢明だぞ?」
『ブブィンブィーン』
アクセルビーが羽を広げて威嚇している。自然と笑顔になる。これは恐怖だろうな。
「乗れば良いんだろ?」
「くく……乗れればな」
いけ好かない笑い方だ。
「嫌味な野郎だ!だが、その余裕はいつまで持つかな?」
「くく……君もね」
「その笑顔を消してやるよ!」
とは言ったものの、例え乗れたとしても俺にはアクセルビーを操る事ができない。それにレースのルールが分からない。
「ルールは?」
ジャックバッシュに聞いた。
「ルールは簡単だ。北の塔、森の塔、北の塔と順に通過して戻ってくれば良い。例えアクセルビーから落ちてもまた乗れば問題無い。ゴールは、アクセルビーに乗った状態で通過するんだ」
くく……。とほくそ笑んでマリスガンが続けた。
「ちなみに、レース中はアクセルパイプの使用は不可だ。まぁ、使ったところで側に来るだけだがな。そして、このアクセルビーをテイムするのは無理だ。気絶している彼が主だからな」
「ご忠告痛みいるよ。だが、テイムする必要はない」
俺はテイムのスキルは使えない。しかしテイムとは良い事を聞いた。ナレーションに小声で確認する。
「ナレーション。テイムされているモンスターにチャームフォグは効くのか?」
『説明しよう!チャームフォグはテイムに関係なく効果はあるのだ』
よし!それならチャームフォグを使い続ければ、なんとかなるかもしれない!ただ、チャームフォグはモンスター特有のスキルの可能性がある。あまり見られたくないな。人払いしなければ。
「アクセルビーと二人きりにしてくれないか?」
「ダメだ」
このままじゃチャームフォグを見られてしまう。
「だ、だったら皆んな向こうを向いててくれ!」
「何のために?」
「……」
だよな……。チャームフォグは見られても良いのか?モンスター専用のスキルの可能性は?だとしたらそれを見せるのは自殺行為だ。ん〜……どうしよう……。
『プオォォォン』
突然、角笛の音が響き渡った。
「くく……もう時間が無いぞ。間もなくスタートだ」
他のアクセルビーが出走ゲートにスタンバイしている。
「落ち着くんだ。アスカなら大丈夫だ」
ピンクのジャケットを渡され、ジャックバッシュが真っ直ぐな目で俺を見ている。暑苦しい……。
ジャケットに手を通した。
「さあ、行ってくれ!」
ジャックバッシュが期待を込めてピンクのマントを俺に掛けた。
「次の角笛がスタートの合図だ」
マリスガンの言葉に笑顔が引き攣る。しかし、もうやるしかない!!
「チャームフォグ!」
アクセルビーにピンクの靄が掛かった。
「何だそれは!?」
案の定マリスガンが驚いている。やはりモンスターのスキルみたいだ。が、見られてしまったからには仕方ない。
「聞いてるのか!答えろ!!」
無視だ。
『ブブブ』
アクセルビーが大人しくなった。
「良し!効いた!」
今だ!急いで背中に乗った。
「馬鹿な!!他のテイマーに背中を許すはずが!」
マリスガンの顔から笑顔が消えた。
時間が無い。背中に乗って触角を捻る。……が、体が動かない。これじゃ操れない!いや、諦めるな!アクセルビーの頭に触れて心から叫ぶ。
「頼む!飛んでくれ!」
『ブブブブィーン』
アクセルビーが浮き上がった。魅了しているからだろう。操作は出来ないが、俺の言う事を聞いてくれる!
「受け取れ!」
ジャックバッシュが、ピンクのヘルメットとゴーグルを投げた。ピンク一色だ。それを装備して大声で指示を出した。
「行けぇぇぇ!」
俺の声に反応したアクセルビーは、フルスロットルで出走ゲートに向かった。
『プオォォォン』
二回目の角笛だ。
「「「「「うおぉぉぉぉぉぉ!!!」」」」」
歓声で大気が揺れる。
出走ゲートにたどりついた。
「間に合った!」
それと同時にゲートが開き、アクセルビーが一斉にスタートを切った。
『『『『『ブィーン!!!』』』』』
砂塵が舞う。
「「「「「「「わぁぁぁぁぁぁ!!!」」」」」」」
観客の歓声。とてつもない熱気だ。
「おいおいおい……」
そして、俺のアクセルビーはゲートで停止した。




