ちゃんと説明してくれよ!
「レース場が見える場所に移動しよう」
そう言うとジャックバッシュは足早に奥へ進んだ。平静を装ってはいるが足取りが軽い。今にも駆け出しそうな高揚感が伝わって来る。
しかし奥の扉を抜けると、目の前に現れたのは街を囲む外壁だった。左の方には西門が見える。ジャックバッシュが壊したのは南門だ。
「街の外壁だ。行き止まりか?」
「いや、あれを登るんだ」
外壁には階段が幾つも設置されていた。何人もの人達が、それぞれの階段から続々と登っている。俺も流れに乗って登ってみると、外壁の上が観覧席になっていた。
「お〜……」
「あそこにいるのが国王だ」
「国王もいるのか!?」
「結婚式絡みのイベントだからな」
豪華なテントが建てられている。騎士に囲まれて国王は見えない。厳重な警備体制だ。
しかし、レース場はどこにも見当たらない。
「レース場はどこにあるんだ?」
「目の前にあるだろ」
目の前には、ただの草原が広がっているだけだ。ボトジカが草を食べている。その奥には森が見える。
「何も無いけど……」
「ここがレース場だ」
「ここが!?」
「そうだ。下を見てみろ」
「ん?あれか?」
外壁の真下を見ると、左に出走ゲートのような物がある。
「あのゲートから出走して、右にある北の塔を真っ直ぐ目指す。そして北の塔を通過した後、今度は森へ向かう。森の手前にある塔が見えるか?あれが森の塔だ。森の塔を折り返して来た道を戻って来る。それがコースだ」
なるほど。直進4回。カーブ3回のコースか。
まず、南側にある出走ゲートから出発して、俺達の目の前を通過し北の塔までの直進1回目。距離は約2Km。
次に、北の塔で左にカーブして森の塔までも同じく2Kmほど。直進2回目。森の塔はここから右斜め前に見える。ここまでが往路。
復路は来た道を戻るだけ。
コースとしては、森の塔を折り返して北の塔を目指す。直進3回目。
最後は、北の塔から俺達の目の前を通過して出走ゲートの手前にあるゴールを目指す。盛り上がり必須の直進4回目。
ちなみに、出走ゲートと北の塔、それから森の塔の位置を結ぶと三角形になる。つまりコースは、その二辺を使用する形だ。
「自然のコースか」
外壁の下を覗くと、外壁に沿って小屋が幾つも並んでいる。その前方には、スタートラインとなる出走ゲートがあった。
「へぇ〜……」
そして目の前は草原が続き、その先は森になっている。ジャックバッシュが言ったように、森の手前には一際目立つ背の高い塔が建っている。森の塔だ。
「おっと、そろそろ出てくるぞ」
すると聞き覚えのある音が鳴り始めた。
『ブィーン』
50ccのエンジン音が幾つも聞こえ始めた。
「おいおいおい……レースってまさか!?」
「決まってるだろ?アクセルビーだ」
「何ぃ!?馬じゃないのかよ!!」
レースと聞いて競馬だと勝手に思い込んでいた。まさかアクセルビーのレースだったとは……。
それぞれの小屋からアクセルビーが現れた。
「おお!アクセルビーのレースか!バイクレースみたいだ……人が乗ってるし」
音だけ聞けば、バイクのロードレースみたいだ。
「乗ってるのはテイマーだ」
「テイマーか!なるほど、テイムしたアクセルビーを登録してレースに出場してるんだな」
「テイマーのほとんどは、アクセルレースに出て生計を立てている。冒険者よりも危険が少なく稼げるからな」
「なるほどねぇ」
「アスカもどうだ?アクセルビーをテイムしたらマリスに雇ってもらえよ」
俺はモンスターをテイムできないんだけど……。
「考えとくよ」
『ブィーン』
「アスカ見えるか?あそこの小屋から出て来たアクセルビーが9番だ。テイマーが赤色のマントを着てるだろ」
テイマー達は、それぞれ色違いのマントを着ている。背中には何か文字が書かれている。きっとあれは数字だろう。ゼッケンみたいなものか?
「全身真っ赤だな。あれが1着になれば良いんだな?」
服も帽子も赤だ。遠くからでも識別できそうだ。
「そうだ。そして2着は……おかしいな」
ジャックバッシュが怪訝な表情で小屋を見ている。
「どうした?」
「7番のアクセルビーが出て来ない!何かあったのかもしれない」
「7番は2着に予想した奴じゃないか?」
「そうだが……出て来ない。7番がレースに参加しなければ始まる前から負けだ!」
「出走しなければ賭けは無効だろ?返還金は?」
「そんな物は無い!契約は成立してるんだ!出走しなければ負け確だ!」
「そんな馬鹿な話があるか!」
「それがあるんだよ!アスカ行くぞ!」
「え?どこに?」
「マリスのところだ!」
そう言うと、ジャックバッシュが外壁から飛び降りた。
「了解!」
俺も飛び降りる。……振りをしてやめた。下を見下ろしてブルリと身震いをした。
「……」
俺は、階段を使って降りる。こんな高さから飛び降りたら怪我じゃ済まされない。ジャックバッシュは既に建物の中に消えて行った。
「待ってくれよ!」
階段を駆け降りて、建物内の広いロビーまで戻ってきた。
「ジャックバッシュのやつ、一体どこに行ったんだ?」
見失ってしまった。
キョロキョロしていると、背後から声をかけられた。
「アスカ!!」
振り向くと、正面入り口付近にジャックバッシュが立っていた。その隣には不適な笑みを浮かべたマリスガンがいる。
「こっちだ急げ!」
ジャックバッシュの元まで駆け寄ると、マリスガンから話しかけられた。
「話は聞いた。本当に良いんだな?」
「何の話だ?」
そう言って、チラリとジャックバッシュを見た。
「問題無い」
さっぱり話が分からない。
「ついて来い」
マリスガンが踵を返し建物から出て行った。
「どこへ?」
俺の問いかけに誰も答えてくれない。
「ジャックバッシュ説明……」
「行くぞ」
ジャックバッシュはそれだけ言い残してマリスガンの後を追った。
「ちゃんと説明してくれよ!」
俺も建物から出て、そのまま街の西門から外に出た。
『ブィンブィーン』
アクセルビーが飛び交っている。
「襲って来ない……本当にテイムしてるんだな」
ふと視線を戻すと、マリスガン達は7番目の小屋に入って行った。俺も急いで後を追う。
「こら!大人しくしろ!!」
『ブブィーン!ブィーン!』
小屋の中ではアクセルビーが暴れていた。その首には4本のロープが繋いであり、それぞれを男達が引っ張っている。近くには男が1人倒れている。
「状況を説明してくれ」
マリスガンが、必死にアクセルビーをなだめる男達に話しかけた。
「マリスガンの旦那!アクセルビーが言う事を聞かないんだ!」
「テ、テイマーが振り落とされて気を失ってる。あの腕じゃレースは無理だ」
テイマーの男の腕は、あらぬ方向に曲がっている。骨折してるみたいだ。
「選手交代だ」
マリスガンが俺に向かって言った。嫌な予感がする。
「アスカ!お前がレースに出るんだ」
「はぁぁぁぁ!?俺が?」




