他人の金をあてにするな!
空が見える。……何故俺は寝ている?……何が起こった?
「……生きてるか?」
ジャックバッシュの声だ。生きてるかだって?どうしてそんな事を聞くんだ?
ああ……そうだった。アクセルビーから放り出されたんだった。家が見える。どうやら俺は町の中にいるみたいだ。
「いてて……」
体中に激痛が走る。ステータスを確認するとHPが残り3ポイントになっていた。
「……生きてるよ」
ギリギリだけどね。
「そうか……俺は……死んだ」
「えっ!?」
声のする方を見るとジャックバッシュが立っている。ボサボサの前髪が顔を隠して表情は分からない。左目が見えている。口の端からは血が滴り落ちる。ホラーだ。しかし、幽霊にしてはハッキリ見えるし足もある。
「アクセルビーの違約金を払わなければならない……家の修理費も……」
道を挟んで反対側の家に当たってひっくり返っている。今度こそ羽が折れてしまったみたいだ。
「あ〜ね」
そう言う事か。ジャックバッシュの目が0になっている原因はあれか。
元はと言えば、俺を迎えに来てくれたんだから俺にも責任がある。アクセルビーの前に飛び出したし……。
「俺にも払わせてくれ」
「馬鹿を言うな。アスカは金が無いだろ。それにGランク冒険者に金を借りたと噂になれば、俺は恥ずかしくて表を歩けなくなる」
「今は手持ちが無いけどそのうち……」
「いらん!1ギャリーも受け取らん!」
俺はジャックバッシュの事を勘違いしていた。金に目がなくて、ケチでがめつい無類の金好きだと思っていたがそれは違った。男気がある面倒見の良い生粋の兄貴肌だ。見直した!
「迎えに来てくれてありがとう」
「気にするな。俺が勝手にやった事だからな。アスカが無事で何よりだ。ほらポーションだ飲んどけ。もちろん金は要らん」
格好良い。こう言うところは流石勇者一行だな。
「ああ助かる」
ポーションを受け取り一気に飲み干した。HPが回復した。助かった。
「あなた達大丈夫?」
不意に女性から声を掛けられた。他にも沢山の人に囲まれている。どうやら野次馬で溢れているみたいだ。
「おい!あんたら無事か!?」
その野次馬を掻き分けて門番が駆け寄って来た。
「見ての通りさ」
ジャックバッシュが腕組みをしてため息を吐いた。
「そりゃ良かった。死なれたら困る。門の修理費を払ってもらわにゃならんからな」
「……」
「……」
門扉の片方が派手に破壊されている。エアダスターが炸裂したらしい。
「アスカ。一緒に弁償しような」
「うおぃ!!さっきまでの男気はどこに行った!」
「うるせぇ!良く見てみろ!巨大な門扉が壊れてるんだぞ!あれを修理するのにどれだけの金が必要か分かるか!?」
「知らんけど」
「じゃあ聞くが!アクセルビーの違約金と、民家と門扉を修理する金を俺は持ってない!このままだと俺は奴隷落ち確だ!そんな俺を見て見ぬふりするってのか!?」
「奴隷落ち!?勇者一行がそれはないんじやないか?」
「いや!確だ!確!」
「分かった!俺も払うよ!……でもそんな大金は無い」
「俺に考えがある!」
サムズアップするジャックバッシュの目がGになった。良からぬ事を企んでいそうだ。
「あ〜〜〜〜っ!!!」
突然、ジャックバッシュがアクセルビーを指差して声を上げた。野次馬達が振り向きアクセルビーに視線が集まる。その瞬間、ジャックバッシュがアクセルパイプを取り出し一息に吹いた。
「ヒュー!」
しかし特に音は聞こえない。ジャックバッシュの息が漏れてる。失敗か?
『ブィーン』
失敗かと思った矢先、アクセルビーが顔を上げジャックバッシュを見た途端、ひっくり返ったまま羽を動かした。
「キャ〜!!」
「アクセルビーが暴走し始めたぞ!」
アクセルパイプは、アクセルビーにしか聞こえないのか!?犬笛みたいだ。
「危ない!」
「逃げろ!」
「イヤァァァ!!」
アクセルビーが飛ぼうとするが、羽が折れているため上手く飛べず家にぶつかり壁に穴を開けた。
「アスカ逃げるぞ!」
「えっ!?考えって逃げる事かよ!」
「走れ!」
逃げ惑う野次馬に紛れてジャックバッシュが走り出した。門番が野次馬に揉みくちゃにされている。これはもう逃げるしかない。
「待ってくれ!」
ジャックバッシュの後を追う。
「お前ら逃げるな!!ぬわっ!」
門番に呼び止められたが、野次馬に押されて見えなくなった。
「どうなっても知らないぞ!」
お尋ね者になったりしないよな?
〜〜〜
混乱のどさくさに紛れて必死に逃げた。
「ハァハァ……ここまで来れば安心か?」
そして着いた場所は、巨大な建物の前だ。
「いや、まだだな。あの建物の中に逃げるぞ!」
あの建物?人の出入りが多い。ここはもしかして……。
「「「「「わぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」」」
歓声が上がった。
「ジャックバッシュ?ここはもしかして」
「そう!レース場だ!」
やはりそうか!この歓声を聞けば誰でも分かる。
「おいおいおい!レースはダメだ!」
「他に大金を手に入れる手段は無い!」
「アーヴァインに借りるとか、王様に借りるとかあるだろ」
「他人の金をあてにするな!」
「どの口が言ってるんだよ!」
俺の金をあてにしたくせに。
「ここにいても見つかるだけだ!入るぞ!」
「ったく……分かったよ!」
中に入ると広いロビーを人が埋め尽くしていた。
酒を掲げ仲間達と肩を組み喜ぶ者。世界が終焉を迎えたかのように絶望感丸出しで椅子に腰掛ける者。これからのレースに期待を込めて目がバキバキに決まっている者。
十人十色。レース場は大盛り上がりだ。
「ジャック!また負けに来たのか?」
突然、ド派手な服装の男に声をかけられた。年齢は20代前半。
「うるせぇよ!イカサマ野郎!」
知り合いか?
「くく……何の証拠もない。負け犬の遠吠えだ」
ド派手な男は薄ら笑いを浮かべている。
「相変わらず嫌味な笑い方だな」
「相変わらず貧乏面だな」
「うるせぇ!大勝ちして、ここの金を根こそぎ頂いてやる!それでも笑ってられるかな?」
「笑えねぇ冗談だ。お前にギャンブルのセンスはねぇ」
「イカサマの間違いじゃないか?」
「口だけは一丁前だ……なっ!」
突然男がジャックバッシュに殴りかかった。危ない!
「お前も……なっ!」
ジャックバッシュが殴り返した。拳と拳がぶつかる。そして……ん?拳を広げてタッチ、手の甲でタッチ、そして最後にガッシリと互いの腕を交差させた。
知り合いみたいだ……。肩を組んで何か楽しそうに話をしている。俺は蚊帳の外。これはメインストーリーが進行してるのか?それともサブストーリー?確かなのは、俺のストーリーではない事だ。
「そうだ!紹介がまだだったな、こいつはアスカ。テイマーだ。そしてこいつはマリスガン。ここのオーナーの跡取りだ」
「テイマーか。くく……よろしくな」
「よろしく……って次期オーナー!?どうしてそんな凄い人を知ってるんだよ?」
ジャックバッシュに問いかける。
「マリスとはガキの頃からの腐れ縁だ。運良く、ここのオーナーに拾われたってだけだ。こいつが凄い訳じゃない」
マリスガンが葉巻に火をつけて言った。
「ふぅ〜……くく……今日は遠吠えがよく聞こえる」
アーヴァイン、ジャックバッシュ、キャッシュ、そして4人目の孤児院出身の幼馴染マリスガン。か……。
今後ストーリーに、どう絡んでくるんだろうか。俺のじゃなくて勇者一行のストーリーに。
「いい加減、俺の提案を受けてくれないか?」
「俺は一ヶ所に留まるつもりはないって言ってるだろ」
「旨い話だと思うがな……ふぅ〜。ところでジャック。次が最終レースで、今回のメインイベントだぞ。賭けなくても良いのか?」
煙を吐きながらマリスガンが言った。
「丁度よかった。それを狙ってたのさ!行くぞアスカ」
そんなこと言われても、何一つ丁度よくない。
「俺は1ギャリーも持ってないぞ。あるのは魔石だけだ」
バッグを開けて見せた。
「それだけあれば十分だ!またなマリス!」
「ほどほどにな!」
不敵な笑みをこぼすマリスガンと別れた。
ジャックバッシュに連れられて、ロビーの端にある換金所に行くと、急いで魔石を出すように言われた。
必要な魔石を残して他を渡すと直ちに換金が行われ、受付の男から6千ギャリーを受け取った。そして今度はロビー正面に移動した。
「間も無く受付を終了します!」
案内係がメガホンのような物を使って周知している。
「説明している時間は無い!超大穴に賭ける!9、7に全額だ!!」
「9番が1着、7番が2着だな!分かった!で?ジャックバッシュは賭けないのか!?」
「俺は無一文だ!」
「何だよそれ!!完全に俺頼みじゃないか!!」
「違う!ビギナーズラックに賭けてるんだ!」
「同じだろ!そもそもビギナーズラックってのは、俺が賭ける馬を選んで……」
「次の方どうぞ」
受付嬢から呼ばれた。
「ゴチャゴチャ言ってないで急げ!」
「分かったよ!9、7だな。で?どうすれば良い?」
ジャックバッシュが前に出て、受付にある羊皮紙を指差した。
「アスカの冒険者の認識票と、換金した金をこの羊皮紙に乗せろ!」
言われた通り、受付にある羊皮紙に乗せた。
「次は賭ける番号と金額を言うんだ」
「9、7に三千ギャリー全部だ!」
羊皮紙が淡く光った。
「契約完了です」
そう言うと、受付嬢が金を受け取り羊皮紙を棚に収納した。
「賭けてしまった……」
今のが手続きみたいだ。馬券のような物は無く、魔法で契約するって事か。
賭け方はシンプルで、1着、2着を選択して的中させれば良さそうだ。
「最終レースの受付を終了します!」
当たると良いな。




