だったらギャリバングに戻るしかないじゃないか
ジャックバッシュに絡まる蔦を取り除いた。
「あだっ!」
頭から盛大に落ちた。フラフラと立ち上がり首を鳴らす。大きな怪我は無いみたいで良かった。
一息付いたジャックバッシュは、堰を切ったように怒鳴り始めた。
「何を考えてるんだ!いきなり飛び出して来る奴があるか!!」
「いや俺は……」
「言い訳をするな!アクセルビーは急に止まれないんだぞ!」
車は急に止まれないみたいに言うなよ。
「悪かったよ。でもどうしてアクセルビーに乗ってたんだ?」
「はっ!そうだアクセルビー!!」
何かを思い出したかのように突然走り出した。
「あ、おい!待ってくれ!」
ジャックバッシュと共に、アクセルビーの元まで戻った。仰向けで倒れ足がピクピクと痙攣している。
「脳震盪を起こしてるみたいだ。こいつを起こす。手伝ってくれ」
アクセルビーを横から二人で押した。ゴロリと転がり元に戻ると、頭を振り羽をブィンブィンと動かした。
「良かったまだ飛べそうだ」
「何を心配してるんだ?モンスターだろ?」
「こいつか?こいつは移動用に飼育されたレンタルアクセルビーだ。結構高いんだぞ」
そんなのもあるのか。レンタルバイクみたいだな……。
「傷が付いてる!……はぁ……こりゃ追加料金を取られるな」
アクセルビーの額に大きな傷が付いている。羽も一枚曲がっている。
「移動なら、わざわざモンスターを借りなくても馬で良いんじゃないか」
「馬は馬車を引くには重宝するが、森の中や足場の悪い場所は向いてない。それに馬だと、ダンジョンに入る場合は、そこらの木にロープで繋いで待たせないといけない。だが、ダンジョンから戻るとモンスターに喰われてたりする。それに比べてアクセルビーは、低空だが空を飛べる。もちろん足場は関係ない。川や湖も飛んで渡れる。そして、木に繋げなくてもちゃんと戻って来る。このアクセルパイプを吹けば……って、今は丁寧に説明してる場合じゃない!帰るぞ!乗れ!」
「何をそんなに慌ててるんだ?」
「良いから乗れ!説明はその後だ!」
「えっ?こいつに乗るのか?」
黄色と黒の縞々な腹に恐る恐る触れる。襲っては来ないみたいだ。胸部には黄色いフサフサの毛が生えている。気持ちが良い。良く見ると丸いフォルムも可愛く見えてきた。
モフモフを堪能していると、早くしろと急かされた。意を決して後ろ足に足を掛け、ジャックバッシュが座っているシートの背後に跨った。
「しっかり捕まってろよ!」
そういうと、右手で握っている触角を手前にひねった。
「飛んでくれ!」
『ブィーン』
羽がゆっくり動き始めフワリと浮き上がった。羽が折れてるせいか安定しない。
「くそっ!頼む!」
ジャックバッシュが触角を深く捻るとそのまま前進を開始した。
「凄い!バイクみたいだ」
地面から1m程浮いた状態で進んでいる。
「ダメだ!遅すぎる!」
確かに遅い。でも俺が走るよりは速い。
「どうしてこんなに珍しい乗り物で来たんだ?」
「別に珍しくない。アクセルビーはオーソドックスな移動手段だ」
「へぇ……ところで、急いで帰る理由は?」
「実はな、ギャリバングが封鎖される」
「何だって!?ギャリバングを封鎖!?一体何故?」
「王命だ」
「何のために?」
「王子の結婚式があるって言っただろ?その結婚式で市民にもお披露目があるそうだ」
「そのために封鎖するのか?」
「安全を考慮して、不審人物の入門を制限するものだろう。こんな事は前代未聞だ」
「なるほどね。と言っても封鎖されるのは結婚式までの2日間だろ?その間、野宿でもすれば何とかなるんじゃないか?」
スキルを手に入れるにはもってこいじゃないか。2日だったら、最悪、寝ずに過ごす事もできる。
「封鎖期間は10日だそうだ」
「10日も!?そんなに……そうだ!商人は出入りするんだろ?その時一緒に入ったら……」
「甘いな。王命でギャリバングが封鎖されれば、例え貴族であろうと出入りできなくなる!そうなる前に入らないと10日間野宿だぞ」
モンスターが跋扈するエリアで、10日間も生き延びる自信はない!
「その時は近隣の町に行けば良いんだろ?」
「パーティーを組んでいるならともかく、軟弱なアスカ1人では森を抜ける前にモンスターの餌になるのが落ちだ」
ヴァイラスに変身できるとは言えない。
「そうか……だったらギャリバングに戻るしかないじゃないか」
「だからそうしてるだろ!!くそっ!木にぶつかった衝撃でスピードが出ない!」
嫌な予感がする。焦ってるって事は……。
「封鎖されるのはいつだ?」
「昼丁度だ」
昼……。太陽は真上にある。
「もう直ぐ昼だろ?」
「そうだ!」
「えぇぇぇぇ!!マジかよ!急げ!」
「うるせぇ!急いでるだろ!」
「男二人で野宿は御免だぜ!」
「こっちのセリフだ!」
「もっと飛ばせ!……そうだ!門が閉められてもアクセルビーだったら飛んで門を越えれるんじゃないか?」
「無理だ!アクセルビーは高く飛べない!今の高さが限界なんだよ!」
「頑張れアクセルビー!間に合ってくれぇぇぇ!!!」
〜〜〜
ギャリバングの門が見えて来た。しかし徐々に締まり始めている。
「おいおいおい!ジャックバッシュ!締まり始めたぞ!」
「言われなくても見えてるよ!」
アクセルビーの速度からして確実に間に合わないだろうな。
「間に合うか!?」
「このままだと間に合わない!」
「だよな!どうすんだよ!」
「操獣を代わってくれ!」
バイクの運転ならやった事がある。同じようなもんだろ。
「任せ……」
……と、思ったがスキルが無い。操作できないかもしれない。
「頼んだ!しっかり握っててくれよ!」
「ちょ、ちょっとまってくれ!アクセルビーの操縦なんてした事ないぞ!」
「大丈夫だ!触角を保持しているだけで良い!」
そう言うと、アクセルビーの触角を渡して来た。
「え〜い!やるしかない!」
場所を入れ替わり、触角を握り締めた。ジャックバッシュは後ろ向きに座った。
「掴まってろよ!」
そう言うと、ジャックバッシュは目を閉じて、息を深く吐き出した。おそらく、いやこれは間違いなく、後方に向けて風魔法を放つつもりだ。
「ぶっ放せ!!」
「ああ!任せろ!はぁぁぁぁ……」
間違いないみたいだ。魔法を後方に放ち、アクセルビーの速力を上げる寸法だ。息を吐き出し集中している。期待できそうだ。
「行くぞ!しっかり掴まってろ!コォォォォ……」
ジャックバッシュが息を大きく吸い込んだ。胸が倍に膨れ上がった。
「ぶっ放せぇぇぇ!!」
「エアダスター!!」
「……え?何だそれ!?ぐはっ!!」
ジャックバッシュが息を吐き出すと、圧縮された空気が後方へ噴き出した。轟音と共に爆発的に速度が上がった。アクセルビーが加速する。
「おお!速い!」
それにしてもエアダスター?空気の圧力を使ってキーボードとかのホコリを飛ばしたりて掃除をする道具の事だろ?アーヴァインもそうだが、スキル名がダサい……。しかも口から吐き出すなんて、輪をかけてダサスキル。
それにしても速い。
「い、息が……」
速すぎて息が出来ない。このままでは窒息死してしまう。しかしそれどころではない。今度は、みるみるうちに門が近付いてくる。スピードは落ちない。ぶつかる!このままでは激突して死んでしまう。
「どっちも嫌だ!!」
ブレーキを掛けるため、アクセルビーの前足の付け根を踏み込もうとした。
「ダメだ!体が動かない!」
やはりスキルが無ければ操縦が出来ない。
「代われ!!!」
ジャックバッシュがハンドルを握り強引に俺の前に座った。
「ぬおぉぉぉぉぉ!!!」
前足を踏み込み左の触角を引いた。アクセルビーが羽を広げガクンとスピードが落ちる。同時に左を向いた。
『ブィン!ブブブブ』
本日二度目のブレーキターン。これなら止まる。
「おぉぉぉぉ!!」
しかし先程とは違いスピードが速すぎる。横滑りでは止まらず、スピンしてクルクルと回り始めた。
「目が回るぅぅぅ!!」
「ああぁぁぁぁ!!」
高速スピンでどこに向かっているのか分からない。
「来るな!!」
「止まれ!!!」
門番達の叫び声が聞こえる。それは俺も同感だ。止めてくれ!
「くそぉぉぉ!!!」
ジャックバッシュが、アクセルビーの前足を深く踏み込んだ。すると前足が両方とも地面に当たり、ガリガリと地面を削り始めた。差し詰め車のサイドブレーキだ。
スピン速度が落ち始めたがしかし止まらない。
「エアダスター!!」
ジャックバッシュが回転方向にエアダスターを放った。回転が止まった!
回転は止まったが、爆音と共に俺達二人は大きく吹き飛ばされた。
ピンチなんだけど、ダサすぎるスキル名の方が気になる。勇者一行はどうしてダサスキルなんだろうか……。




