止まれぇぇぇ!
MAPを再確認するが、自分の青い光点しか表示されていない。気配感知により感じる気配はMAPには表示されないみたいだ。
「ナレーション。気配感知はMAPに反映されないのか?」
『説明しよう!気配感知は、おおまかな気配を感じるだけで、正確な方向、距離、数、強さ、そして敵味方の識別といった詳細までは分からないためMAPには反映されないのである』
言われてみれば、さっき気配を辿った先にはシルクバットが3匹もいたな。
「対象を知覚してる場合はMAPに光点が表示されるが、気配感知で感じ取っただけでは何も表示されない……か。贅沢は言ってられないな。感覚だけでもありがたい。ただ、ギャリバングの住人まで感知するのはちょっと感度が良すぎ……ん?」
正確な方向や距離は分からないが、ギャリバングの方から何かが向かって来る気配がする。
「何か来る……」
人のスピードじゃないみたいだ。
「何だ!?速い!」
馬か?いや違う。これはもっと別の何かだ。
「モンスターかもしれない!やっぱり何かあったのか!?気配感知では詳しく分からない!森の入り口まで戻ってみよう!行くぜ!スピードスター!」
〜〜〜
相手よりも早く森の入り口に到着した。
木に隠れて気配の元を確認する。ひょっこりと顔を出してみると、丘の上で草を食べる5頭のボトジカがいた。向かって来る気配はボトジカとは違う。しかし他には何もいない。確かに気配を感じるが、やはり気配感知は正確ではないため時間差があるんだろう。
「まだ見えない……」
その時、ボトジカ達がピクリと耳を動かし、草を食べるのをやめてギャリバングを向いた。
「来る!」
ボトジカ達は何かを感じ取り一斉に走り出した。
まだ見えない。見えないが、何が向かって来ているのかは分かった。ブィーンっという聞き覚えのあるエンジン音が聞こえて来たからだ。
「アクセルビーか!?」
原付のそれが次第に大きくなり、丘を越えて一匹のアクセルビーが姿を現した。
「見えた!変身解除までは残り1分。倒す時間は十分にある。どうしてギャリバングから来たのかは分からないが、あいつの魔石も……何ぃぃぃ!!」
何故かアクセルビーの背に人が乗っている。よく見ると見慣れた顔だ。ゴーグルをしているが間違いない。
「あれはジャックバッシュじゃないか!」
ジャックバッシュが長髪をなびかせている。顔に風を受けてしかめっ面だが、襲われているようには見えない。どちらかと言うと主導権を握っているみたいだ。
触角をハンドルのように握り、足をアクセルビーの前足の付け根に乗せ、座席用の革のシートを設置して座っている。ゆったりとした姿勢で跨る様は、まさしく原付に乗っているかのようだ。
「バイクかよ!」
アクセルビーを手懐けているのかもしれない。良いな。俺も乗りたい。って、感心している場合じゃなかった。
「まずいぞ!残り1分を切った。どうする?ジャックバッシュに俺の正体がバレたら消滅してしまう!逃げるか!?いやしかし原付のくせに速すぎる!逃げるには時間が足りない!それよりも、この場を動かなければ見つからないかもしれない!」
だが、ジャックバッシュを乗せたアクセルビーは、道を進むのではなく、草原の約1m上空を飛行している。まるで俺が隠れているのが分かっているかのように一直線に向かって来る。
「ジャックバッシュも気配感知のようなスキルを持っているんじゃないか!?だとしたらマズいぞ!必ず見つかる!その時に変身が強制解除されたら俺は消滅してしまう!見られる前に変身を解除するしかない!しかし……」
本当に気付かれていないのか?今変身を解除したら消滅してしまうんじゃないか?自ずと笑顔になる。
その間にもエンジン音が近付いて来る。躊躇している場合じゃない。覚悟を決めろ!
「ナレーション!変身解除だ!」
これは賭けだ。頼む!消滅しないでくれ!
『説明しよう!変身を解除するのである』
変身が解除された。
「ふぅ……大丈夫!消滅しないからバレてない!……はずだ。素知らぬ顔で出て行って、話を逸らして有耶無耶にするしかない!良し行くぜ!」
俺は意を決して木の陰から飛び出した。そしてジャックバッシュに両手を振った。
「お〜い!……げっ!!!」
既にアクセルビーが目の前まで迫っていた。
「うわぁぁぁ!!!」
「うおぉぉぉ!!!」
ぶつかる!!
と思った瞬間、ジャックバッシュがアクセルビーの前足の付け根を踏み込んだ。するとアクセルビーが羽を大きく広げた。急ブレーキだ。なるほど、前足の付け根はブレーキの役割をしているみたいだ。と、悠長に解説している場合じゃない!それでも勢いは止まらない。
「馬鹿野郎ォ!どけぇぇぇぇ!!」
「う……ああ……」
ジャックバッシュに怒鳴られるが体が動かない。笑顔が引き攣る。
「クソったれぇぇ!!」
ジャックバッシュが左の触角を引くと、アクセルビーはその場で大きく左を向いた。しかし、地面からわずかに浮いた空中を横滑りで向かって来る。まるでブレーキターンだ。砂埃が舞う。しかし速度は落ちない。止まりきれず、横滑り状態から真後ろを向いた。
「針っ!!」
針だ!おしりから出ている針が俺の心臓を目掛けて突っ込んで来る。
「し……」
死ぬ!と思ったその時、ジャックバッシュが叫んだ。
「止まれぇぇぇ!」
同時に、右手で握っている触角をバイクのアクセルをふかすようにひねった。フルスロットルだ!
『ブィィィィィィン!!』
羽が忙しく動き始め、50ccのエンジン音が鳴り響く。
迫り来る針は、胸の1ミリ手前で止まった。
「た、助かった……」
ギリギリだ。もう少しで針が刺さるところだった。止まって良かった。……と思ったのも束の間、アクセルビーがウイリーのように上体を起こし、狂ったように爆走し始めた。
「まずい!!止まれ!」
ジャックバッシュが触角を右へ左へ動かすが、必死の操縦も虚しく止まる気配は無い。
「ぐわっ!!」
次の瞬間、アクセルビーは木に激突してようやく止まった。激突の衝撃で、ジャックバッシュは放り出された。
「あぁぁぁぁぁぁ……」
「ジャックバッシュ!!」
美しい放物線を描きながら飛んで行く。
「……ぐへっ!」
背の高い木に激突した。蛙がつぶれたような声が聞こえた直後、木の枝をバキバキと破壊しながら落下し始めた。
「うっ!がっ!ぶべっ!だばっ!…………」
静かになった。地面に落ちたのか?ここからじゃ見えない。
「無事でいてくれ!」
我に帰った俺は、ジャックバッシュの元へ走った。
「ハァハァ……生きてるか!?」
地面へ落下はしていなかった。木の枝の蔦に絡まり逆さ吊りでぶら下がっていた。
「う、うう……アスカか?だ、大丈夫か?怪我はないか?」
逆さ吊りのままジャックバッシュが答えた。
「それはこっちのセリフだよ」
こんな時でも俺の心配をしてくれている。
「すまなかったな。あの魔力はアスカだったのか」
げ!やっぱりそうだ!気配感知のようなスキルがあるんだ!ヤバイ!
「ま、魔力が遠くから分かるのか?」
「ああ……魔力感知のスキルでな」
魔力感知だと!?それの方が高性能っぽいぞ!気配感知の上位互換か?だとしたらヴァイラスの大きな魔力を感知したのか?鎌をかけてみる。
「それで!?俺の魔力量は少ないはずなのに、そ、それでも感知できるのか?」
「勿論だ。だが、ぶつかる直前までレイビだと思っていた。目の前に飛び出して来るまでアスカとは分からなかったな」
バレてない!
「そ、そうか!それは良かった!それで探知する距離は?」
「取り敢えず降ろしてくれないか」
「あ、ああそうだな。ちょっと待っててくれ」
良かった。ジャックバッシュには悪いが、俺が消滅していない事に安堵した。どうにか有耶無耶に出来たみたいだ。




