囲まれてるのか!?
「喰らえっ!!」
『ゲギャッ!?』
鞭はゴブリンの腹に当たった。しかしダメージはほぼ無いようで、腹に現れたミミズ腫れをポリポリとかいている。
「いてっ!」
【ー1】
戻って来た鞭が頬に当たった。HPマイナス1。初級鞭術では、鞭を上手く操る事が出来ないのか?それともやっぱり武器が問題なのか?
「くそっ!これじゃあ、いつまで経っても倒せない!初級鞭術のレベルはまだ上がらないのか!?使い続ければ上がるんだろ?」
『説明しよう!鞭術の技術は、基本的に鞭を使い鍛錬を続ける事により上がるのだ。しかしマスターは、女神プライマリーのデバッグにより、鞭術はおろか、全てのスキルレベルは鍛錬しても上がらなくなったのである』
「なんだってぇ!?初級から上がらないって事か!!」
『説明しよう!その通りである。マスターはスキルのレベルを上げる事はできないため、次の等級である中級鞭術や上級鞭術を魔石から取得する必要があるのである』
「それしかないのか……しかし中級鞭術スキルを持ってる奴が、どんなモンスターなのか分からない……」
当分の間は初級で頑張るしかない。でも初級鞭術スキルのレベルが上がらないって事は鞭系のスキルは覚えない。
「鞭系の上位スキルを手に入れたいな」
頬を流れる血を拭った。
「……って、なんで当たり前のように血を拭ってるんだ!?どうして血が出てるんだ!?ゴブリンはミミズ腫れだぞ!跳ね返った鞭が当たっただけで切れるってのは、やっぱり俺がゴブリンよりも弱いからか!」
良いスキルを手に入れたと思ったが、自分にダメージが入るから少々使い辛いな。いやいや!相手はダメージがほぼゼロなのに自分にはダメージがあるってのは、少々じゃなくて全く使えないんじゃないか?
「なんてこった……使えない……でもヴァイラスだったら使えるのかもしれない。試してみるか」
蔦の鞭とショルダーバッグを地面に置いた。変身すると身に付けていた物は無くなるからな。
『ゲギャギャギャ!』
それを見ていたゴブリン達が飛び跳ね始めた。
「それでは当初の予定通り、ヴァイラスに変身してスキル取得及び、魔石獲得に専念します!」
キャッスリンから買い取った、ラヴオウルの魔石を胸に添えた。
「ヴァイラス!」
胸から無数の銀糸が伸びラヴオウルの魔石を取り込んだ。
『説明しよう!ラヴオウルの魔石に秘められたスキル、【魔力+2】【素早さ+2】【気配感知】の中から1つ取得可能である』
「使えそうなスキルだ!気配感知にする」
『説明しよう!気配感知を取得した』
「I’m ready!」
変身完了。
地面に置いていた蔦の鞭はちゃんとある。やはり服やバッグのように、身に付けている物だけが消えるみたいだ。蔦の鞭を拾いながらナレーションに質問してみる。
「ナレーション。気配感知について教えてくれ」
『説明しよう!気配感知は、周囲に存在する気配を感じ取ることができるのだ。消費MPは4である』
「レベル上げが楽になりそうだ」
蔦の鞭を軽く振ってみる。スパンとキレのある音が響いた。
「良さそうだ!」
変身に驚いたゴブリン達は、飛び跳ねるのをやめて武器を構えている。
棍棒の攻撃範囲外。しかし鞭の攻撃範囲内だ。
手首を使って軽く振ってみた。
「喰らえ!」
『ゲギャッ!!』
スパンというキレのある音が響き、ゴブリンが中央から縦に魔石ごと真っ二つに割れた。
「刃物かよ!!」
やはりヴァイラスピンクは強過ぎる。鞭を軽く当てたつもりが、まるで剣の達人が斬ったかのような破天荒な攻撃力だ。鞭のスキルなんて必要なさそうだ。戻って来た鞭が当たるがダメージは微々たるものだ。
『ゲギャ〜ッ!!』
残りの2匹も瞬殺。おおよそ狙い通りの場所に当たり、魔石を破壊する事はなかった。これで魔石も手に入るな。
「それじゃあ次は……気配感知!」
スキルを使用した途端、全方位から何者かの気配を感じる。
「な、何だこれは!囲まれてるのか!?」
周囲を見渡すが何もいない。
「いない……か……となると、ヴァイラスに変身してるから感度が良過ぎるのかもしれない。こっちの気配が近いようだな」
右前方の近い位置から気配を感じる。
「行ってみるか」
気配を頼りに進んでみると、木の枝にコウモリがぶら下がっている。
「あれはシルクバットだな!3匹いる!」
眩しいのか、シルクハットを深く被っているように見える。
「まだ気付いてないみたいだ。トリックスター!」
素早くシルクバットに詰め寄った。俺に気付いて羽を広げた襲って来た。
『キーキー!』
口を大きく開けると、そこから波紋のように景色が僅かに歪んで見えた。超音波で攻撃されているのかも知れない。しかし、体に異常は無い。おそらく精神攻撃だろう。それは俺には効かない。
「とぅ!」
鞭を振ると、シルクバットの片方の羽がハラリと落ちた。
「おお!」
他の2匹も同様に羽を攻撃した。
片方の羽を失い地面に落ちたシルクバット達にとどめを刺した。鞭の先端が戻って来て足に当たったが、生身の時とは違いダメージは無いようなものだ。
「いける!これなら魔石も手に入るぞ!」
しかし、腰に下げていたナイフが無い事に気付いた。
「外し忘れた……不便だ」
せっかく買った物だけど、無い物は仕方ない。シルクバットから指で、小指の先程の小さな魔石を取り出した。コウモリの羽のような形をしている。スキルは超音波かもしれない。どんな効果か楽しみだ。
「どんどん行くぞ!」
気配感知を駆使して片っ端からモンスターを駆除して行く。……つもりだった。
想定外だったのは、ヴァイラスピンクで使用する気配感知は、思ったよりも恐ろしく感度良好で、全周囲からビシビジと気配を感じる事だ。が、実際に近くに居るモンスターはごく僅かのようだ。
「近場の奴から倒していくか」
気配を辿り見つけたのが猿のモンスターだった。何かの肉を食べている。
『ウキキ!』
猿は俺に気付き食べるのをやめた。
「ナレーション。木の枝にいるあの猿は何だ?」
『説明しよう!グリムモンキー。幻属性。Fランクである』
「Fランク!?絶対欲しい!」
足元の石を拾った。
『ウキィィィィィ!』
突如グリムモンキーが毛を逆立たせ奇声を上げた。
「何だ?」
『説明しよう!威圧のスキルを使用したのだ。威圧は、対象をスタンさせる効果があるのだ』
「威圧?ピンクには精神攻撃が効かないから、ただ大声を出してるだけみたいだな」
石を投げようとしたその時、背後から異常な気配を感じた。
「こ、この気配は何だ!?」
悪寒を感じて咄嗟に振り向いた。笑顔が引き攣る。マスクで表情が見えないのが不幸中の幸い。いや、実際は誰もいないから、見られる事はないため不幸中でも幸いでもないが。
「ハッキリとは分からないが、膨大な数の気配が一箇所に集中している!遠くで何かが起きてる!」
異常な気配は俺が来た方向からだ。
「あの方向は……」
まさかと思いMAPを確認すると……。
「ギャリバングか?」
気配はギャリバングの方から感じる。
「あれ?……まさか住人達の気配も感じ取ってるのか?」
『説明しよう!その通りである』
間違いなくギャリバングの住人達の気配のようだ。
「使えない……」
笑顔を引き攣らせ、何かが起きてる!と叫んだ自分が恥ずかしい。変身中は、スキルの効果が向上するってのも良し悪しだ。
振り向くと、既にグリムモンキーの姿はなかった……。




