ピンキーベアちゃんよん♡
次の日。
「いらっしゃ〜い♡今日はどうしたの?」
実は、キャッスリンズ♡ベアに来る前に、露天商が店を並べているあの路地へ向かったんだ。そこで目に飛び込んで来た、三千ギャリーのナイフに惚れ込み迷わず購入し腰に下げた。もちろん交渉して値引きをして貰った。千ギャリーになった。まだ下がりそうな気もするけど……。だが、これで魔石を取り出すのも楽になるはずだ。
次に、水とボトジカの干し肉を購入した。今回は騙される事なく定価で購入した。干し肉屋の店員には、昨日買ったのはもう食ったのか?と聞かれたが、成長期だからと濁した。盗まれたなんて恥ずかしくて言えないからな。
残りの金でポーション3個とエーテル3個を購入した。
そして持ち金全てが無くなった。でも、また魔石を手に入れて売れば良いと思った。
しかしそこで重大な事に気付いた。というか思い出した。ショルダーバッグの底に穴が空いていたんだった。
金が無いから新しいのは買えないがバッグは絶対必要だ。キャッスリンズ♡ベアの他に知った店は無いし、取り敢えず足を運んでみた。
「すまん。バッグを壊してしまったんだ」
「無理やり入れないでって言ったじゃない♡」
「大切に扱ってたよ。でもさ……ほら!」
ショルダーバッグの底を見せようと目の前まで持ち上げた。底が見えるように向けると穴越しにキャッスリンと目が合った。クネクネと体を揺らしている。何故か頬を赤らめ胸を両手で隠した。
「覗かないでくれる♡恥ずかしいわ♡」
「うぉい!ポッ……じゃないだろ!覗いてねぇよ!人を変態みたいに言うな!こっちが恥ずかしいわ!」
「もう♡照れ屋さんね♡」
「照れてない!恥ずかしいの意味が違うよ!ったく!壊れた所を見せたんだよ!」
「あらら♡もっと良く見せてくれる?ん〜♡このくらいなら直ぐに直せるわよ♡」
「本当か?でも実は……金が無いんだ……」
「ん〜♡ツケで良いわよん♡」
「マジか!?頼むよ!」
「千ギャリーねん♡ツケておくわ♡」
アフターケアまでしてくれるなんて。しかもツケで!助かった。
「ベアコーヒーでも飲んで待っててねん♡」
キャッスリンはカウンターに木製のコーヒーカップを置き、ショルダーバッグを持って奥の部屋へと向かった。そこには作業台のような机が見えた。見慣れぬ工具が乱雑に置いてある。
「修理もしてくれるのか……」
アンティークな椅子に腰掛け、木製のコーヒーカップを手に取る。ビターな香りがする。
「いただきます」
美味い!コーヒーの深い苦味の後に、少し酸味が広がり、蜂蜜の濃厚な甘さが優しく追いかけて来る。あの時は吹き出してしまったけど、ゆっくりと味わって飲むと、口の中でグルグル走り回る味覚の変化が癖になりそうだ。地球のハニーコーヒーと似ているが、また一味違う旨みがある。
「はぁ〜。不思議な味だ」
「美味しいでしょ♡」
奥の部屋から声が聞こえる。
「ああ、美味いな」
「アクセルビーのハチミツと、隠し味にアリミツを入れてるの♡」
「アリミツ?」
「そっ♡少し酸っぱいのは、ハニーアントの蜜よ♡」
「へぇ〜」
このコーヒーに使われてる素材のモンスターは昨日見たな。2匹共。
「いつでも飲みに来てねん♡ところで、この痕はモンスターじゃないわね♡誰にやられたの?」
ショルダーバッグの底を指でなぞっている。
「実は……」
森で出会ったランの話をした。
「なるほどね♡この痕はレイピアで間違いないわ♡一列に数回突いて穴を開けたみたいね♡そこからゴッソリ盗まれたのね♡」
何度も突かれてたなんて気付かなかった。ランはレベルが結構高いのかもしれない。
「やっぱりそうか……でもいつの間に……全く気付かなかった」
「そう♡でも良かったじゃない♡バッグだけで♡」
「それもそうだな。俺を殺そうと思えば容易く殺せたって事か……」
「それじゃあもう少し待っててね♡」
まだ暫くかかりそうなので、ベアコーヒーを片手に店の中を散策してみる。新品から味のある中古品まで、様々な物が置いてある。
「色々あるな。今欲しいのは護身用の剣かな……使えないけど装備してるだけでも違うだろう……」
店内をぐるりと見回すが、武器の類は流石に置いてないみたいだ。その時ふと、出窓に飾ってあるアイテムに目が止まった。
「あっ!魔石だ!!」
ハート型の魔石が置いてある。ラヴオウルの魔石だ。陳列棚ではなく、出窓のようなスペースに飾ってあるって事は売り物じゃないのかも。
「1個か……」
欲しい。ツケで買えないかな?交渉してみよう。
再びアンティークな椅子に腰掛け奥の作業部屋を覗くと、丁度キャッスリンの作業が終わって立ち上がったところだった。俺もベアコーヒーを一気に飲み干して立ち上がった。
「お待たせ〜♡修理完了よ♡」
キャッスリンがショルダーバッグをカウンターに置いた。俺も空のコップを置き、修理されたショルダーバッグを覗いてみると穴が綺麗に塞がっていた。
「ご馳走様。おっ!凄いな。助かったよ」
「このくらい、クマの子さいさいよん♡」
「どう言う意味だよ……」
「それに、とっても便利な機能を付けたわよん♡」
「え?マジか!?バッグに便利機能と言えば、見た目よりも物が沢山入るマジックバッグだろ?」
「それよりも良い物よん♡」
「マジックバッグより良い物?」
「そ♡バッグの底を見て♡」
「底?……げっ!」
ショルダーバッグを持ち上げて裏側を見てみると、表の看板に描かれている熊のキャラクターのアップリケが付いていた。
「待て待て待て!何だよこれ!」
「ピンキーベアちゃんよん♡」
「名前を聞いたんじゃない!何でこんなのを付けたんだよ!恥ずかしいだろ!」
「そう?可愛いと思うけど♡」
「これのどこが便利機能なんだよ!?」
「男の子はねチラリズムに弱いのよ♡見えそうで見えないバッグの底♡ピンクの何かがあるけどちゃんと見えない♡見たい衝動に駆られるの♡そしてそれを見た時の衝撃♡脳裏に焼きつくピンキーベアちゃん♡要はお店の宣伝ね♡」
「キャッスリンの為の便利機能かよ!」
「そ♡ベアベアの関係ね♡受け取って♡」
「まあ頑丈そうだから、これについてはWinーWinだな」
これは許容範囲だ。
キャッスリンはバチンとウィンクをしたが、もちろん半身で回避した。ウィンクは受け取れない。それとこれとは別だ。
「話は変わるけど、あそこに飾ってあるラヴオウルの魔石を売ってくれないか?」
「あら♡貴方もラヴオウルの魔石が好きなのね♡可愛い形してるのよね♡良いわよ♡五十ギャリーよん♡」
「おお!マジか!!これが一番助かるよ!ありがとう」
「あら♡やっぱり気が合うわ♡」
「俺は幻属性の魔石を集めてるんだよ。他にも無いか?」
「ウチにあるのはこれだけね♡」
「そうか。でも助かったよ!……あのさ、ちょっと相談なんだけど……」
「勿論ツケといてあげるわ♡」
「本当か!ありがたい!でも良いのか?」
「良いのよん♡千五十ギャリー♡私に会いに来る口実が出来たでしょ♡」
「まあ、そうだな」
「お金はいつでも良いからねん♡」
しかしなんだかんだで、ありがたい。キャッスリンはやっぱりいい奴だ。
「分かった!ありがとう」
「ベアいたしまして」
キャッスリンに礼を告げて店を出た。言うまでもなく、投げキッスは半身でかわした。




