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急停車は後方にご注意下さい

両足を離され、真っ逆様に落下する。


「……助かったぜ。時間は十分に稼げた。狙いどおりだ!3、2、1、ヴァイラス!!」


胸に添えている左手の魔石が取り込まれた。


『説明しよう!ハニーアントの魔石に秘められたスキル、【防御力+1】【MP+2】の中から1つ取得可能である』


「MPプラス2」


『説明しよう!MP+2を取得した』


ピンク色の帯に包まれ、ヴァイラスピンクに変身した。

痛みが消えた。ギリギリだったが復元完了だ。作戦通り!

……実は、3、2、1と数えたのは雰囲気だ。クールタイムが終わっていて良かった。ションベンちびりそうだった。変身できたからオールオッケー!


おっと、安心するのはまだ早い。地面が迫る!

ここは華麗に着地を決めたい!と思ったのと同時に頭から地面に激突した。間に合わなかった。


「いてて……」


いや、痛くないけど、状況的につい口から漏れてしまう。首元を押さえ立ち上がり、コキコキと首を鳴らす。


『キシ?』


インプは立ち上がる俺を見て首を傾げた。俺が生きているのが不思議か?それとも変身して見た目が変わった事に戸惑っているのか?

今に分かるさ。


「I’m ready!俺を直ぐに殺さなかった事を後悔させてやるぜ!」


俺を見下ろすインプの顔から笑みが消えた。代わりに血管が浮かび上がり始めた。


『キシァァァァァァァ!!!』


おぞましい声が響き渡る。


「精神攻撃はヴァイラスピンクには効かないぜ!投石!」


『キシャッ!!』


轟音と共に石が飛び、インプの翼に命中。穴が空いた!しかし飛びにくそうにしているが落ちて来ない。


「もう一丁!投石!」


また翼に当たった。動いている的に当てるのは難しい。それにしても、翼に穴が空いているのにまだ飛んでいる。


『『ガウッ!』』


【ー1】【ー2】


インプに気を取られていると、不意に背後から2匹のウインドウルフが飛び付き噛み付いてきた。首と足首を噛まれた。生身の状態だったら死んでいただろう。


「おいおい……甘噛みか?戯れるならご主人様にするんだな!」


2匹の首を掴み上空のインプに投げ付けた。が、左の壁に向かって飛んで行った。


「あ……」


『『キャイン!!』』


壁に激突した。ピクリとも動かない。倒したようだ。


「結果オーライ!」


残すはインプのみ。


「降りて来いよ」


人差し指をインプに向け、そのままゆっくりと地面を指す。


『キシァァァァァァァ!!』


降りては来なかったが、挑発したのが伝わったようで、顔中に血管を浮かび上がらせ叫び声を上げた。叫びながら手の平を突き出すと、俺の周囲に桃色の靄が発生した。しかし精神攻撃であるチャームフォグは、ヴァイラスピンクには効かない。体に異常は無い。


「残念だが効かないぜ。お返しだチャームフォグ!」


手の平をインプに向けた。すると、インプが桃色の靄に包まれた。しかしそれだけでは収まらず、靄は異常な速度で広がり、瞬く間に天井一面を覆い尽くした。


「おいおいおい! ヴァイラスピンクえげつないな!」


靄の中から息を止めたインプが飛び出した。


『ブハァブハァ……キシェェェェェッ!!』


「苦しそうだな。降りて来ないからだろ」


石を拾い、インプ目掛けて投げた。


「投石」


『キシェッ!!』


また翼だ。なかなか決定打にはならない。それなら……。


「こっちから行くぜ!」


軽々と7、8メートルジャンプした。


『キシャシャッ!』


「捕まえた!」


このまま天井に投げつけてやる。


「喰らえ!」


天井に投げたつもりが地面に向かって飛んで行った。まあ、それは織り込み済みだ。どこかにぶつかればそれで良し。至近距離の天井がベストだったが、地面に激突してもダメージはあるはずだ。錐揉み回転しながら落ちている。


『キシェェェェッ!!』


しかし地面直前で、バサリと翼を広げてスレスレで停止した。砂埃が舞う。インプは無傷だ。


「急停車は後方にご注意下さい」


そう言って、地面ギリギリで停止したインプの背中に着地した。そのまま俺の下敷きになり地面に激突。


『キシェェェ……』


インプは生き絶えた。


「ふぅ〜」


一時はどうなるかと思ったが何とかなった。やはりヴァイラスピンクは強過ぎる。あんなに手こずったインプを呆気なく倒せた。


「お前の魔石は何色だ?」


インプの背中に手刀を刺して魔石を取り出した。ゴブリンの魔石に似ているが、ピンク色で角と小さな羽が生えている。


「ピンク!Fランクの魔石は初めてだ!」


これでまた強くなれる。


「ウインドウルフの魔石も……な、何だ!?」


岩が擦れるような重厚な音が鳴り始めた。後ろからだ!


「……開いた」


大扉が一人でに開いた音だった。ビビった……。


「ボスを倒したからか?……うおっ!」


今度はキィキィと不快な音を立て鉄格子が開いた。奥の部屋でピンクの魔法陣が浮かび上がったのが見える。


「あっちが出口直行だな」


戻る前にやり残しが無いようにしないとな。

ウインドウルフの魔石を抜き取った。牙に風が逆巻くようなフォルムをしている。

ウインドウルフの魔石を2個手に入れた。


「全部持っていきたい……そうだ!ショルダーバッグがある!」


ショルダーバッグを拾った。千切れた紐を結び、肩に掛ける。穴が空いているが、底を押さえておけば少しは入りそうだ。片手が使えなくなるが、両手よりはマシだな。


そして、奥の部屋の魔法陣を目指す。


「ミニ世界樹だ!」


奥の部屋には祭壇のような物があった。その中央の台座に、5本の木が捻じれるように絡まり、1本の木を形成しているミニ世界樹がポツンと生えていた。葉っぱが桃色だ。


「こんな所にもあったのか……」


5段の階段を上ると、台座の手前にピンクの豪華な宝箱があった。


「宝箱だ!よっしゃ〜!何が入ってるかな〜」


開けると、中には木の棒が入っていた。


「これは……指揮棒?……あれか?魔法使いの杖か!」


俺は魔法が使えない……。よってこの杖は使えない……。


「残念……魔法が使えるようになるまで大切に持ってよう……てか、罠の事を考えてなかった!危な!次から宝箱を開ける時には気をつけよう」


だが、これで無事ダンジョン攻略だ。

しかしシャロンは、このダンジョンは初級者向けのダンジョンと言っていたが、近距離の職業だけでは結構苦戦するんじゃないだろうか。インプが降りて来なければ対応も難しそうだが……。まぁ、考えても仕方ない。俺は攻略できた。それで良い。


「変身が解除される前に、この魔法陣で何処へ転移するかの確認をするべきだな」


クールタイム中に転移するのはもうごめんだ。

魔法陣に乗るとピンクの光に包まれた。

そして光が消えると、目の前は森。地面には俺の足跡。上には空。振り向くとダンジョンの入り口がある。


「戻って……来た?」


「よっしゃ〜〜〜!!初ダンジョンクリア!!!」


油断はしていなかった。万全の体制だった。しかし今回のように何が起こるか分からない。不測の事態にも対応できるよう第二案、第三案と準備しておく必要がある。そしてなんと言っても、クールタイムをどう克服するのかが今後の最重要課題だ。ダンジョン内には安全な場所は無い。今回は運良くクリアできたが、今後はもっと慎重になろう。


「……さてと、どうするかな……ステータス」


HPは残り662。まだ11分は変身していられる。


「もう一度挑戦だ」


慎重になろうと決意したばかり?慎重に考えた結果だ。


「11分もあるんだ。行って帰れるさ」


Fランクの魔石が欲しい。欲を出すと自滅する可能性がある。変身可能回数は3回だ。あと2個だけにしよう。


「I’m ready!」


本日、二度目のダンジョンだ。

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